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長崎伝習所で誕生した童話 中島川のあそびんぼ太郎 1

中島川のあそびんぼ太郎
作:大串眞貴子 小川内清孝 小武家雄康 林田志帆 絵:林田志帆  
長崎伝習所「ながさきで物語をつくろう塾」遊び班

序 あそびんぼ太郎とポッペンの巻

ある夏の日の夕暮れどきのことです。男の子と女の子が2人で中島川沿いの道を歩いていました。男の子の名はミナトといって七つ、女の子は五つになるミサキ、2人は仲良しの兄妹でした。

2人が眼鏡橋のたもとを通りかかったときのこと。石段の下の川岸で、何やら底の部分が丸く薄く、先が細長いたての管になった、キラキラ光る小さなガラスの瓶を見つけました。ミサキは思わず階段を降りて駆け寄り、しゃがみこんで「これきれかね!」と言って拾い上げ小さな手でなでました。

すると突然、あたりが一瞬まぶしいくらいに明るくなり、まわりを歩いていた人達の姿がふっとかき消え、川の中央でぶくぶくと白い泡が浮き出しました。その泡がぐるぐる渦を巻いたかと思うと、渦の真ん中から一匹の河童が空中に飛び出してきたのです。この全身緑色に覆われ、ひらひらした白いものを襟に巻きつけた河童を見て、2人はもうびっくりして声を上げてしまいました。空中から川岸にストンと着地した河童は、あたりをキョロキョロ見回しながら、「誰ね? おいば呼んだとは〜? あーお前達か?」としゃべりだしました。実はミサキが拾ったガラス瓶は、中島川の上流の水神社に古くから棲んでいた河童のあそびんぼ太郎を呼びだす魔法のポッペンという遊び道具だったのです。

ミナトとミサキはあそびんぼ太郎のしゃべる姿を見て、最初は「きゃあー! 河童がしゃべったぁー」と驚いて恐がりました。

「おいの名前は河童じゃなか! あそびんぼ太郎って名前のちゃんとあるとぞ!」河童は怒りだしました。それから「そいにしても、最近のお前達子どもは家の中でばっか遊ぶごとなったもんな、情けんなか……」と、最近の子ども達の遊びをひとしきり嘆いてみせました。

「昔の子ども達はみんな外に出て元気に遊んだもんばい」あそびんぼ太郎はため息をつきながらしんみり続けました。

その言い方がとてもおかしくてミサキは「おもしろか河童さんね」と吹きだしてしまいました。怒りだしたり、嘆いたり、しんみりしたり、万華鏡のようにくるくる変わるあそびんぼ太郎の表情を見て、ミナトもミサキもこの河童にだんだん興味がわいてきたのでした。

「外で遊ぶって、どげん遊び?」ミサキがたずねました。
「そいば知りたかね?」その質問にあそびんぼ太郎がニヤリと笑いました。
「うん知りたか、教えてよ」今度はミナトが答えました。
「なら、そんポッペンば鳴らしてみらんね」あそびんぼ太郎は言いました。
「鳴らす? どげんすると?」またミサキがたずねました。

あそびんぼ太郎は、ポッペンの細長いたての管の先の口をくわえて、息を吹き込み、口を離すと音が出ることを2人に教えました。教えられた通りにミサキがポッペンの口をくわえて息を吹き込むと底がふくらみ、口を離すとほんとうに「ポッペン、ポッペン」と不思議な音が鳴りました。おもしろがってミナトも試してみると、やっぱり「ポッペン、ポッペン」と音が鳴りました。2人は楽しくなり、もう夢中になって音を鳴らしました。

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