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(短編戯曲) 未来の君にも見せよう、はるか過去の風景を

(短編戯曲)  未来の君にも見せよう、はるか過去の風景を

香奈  このお話の舞台は大学生隆のマンション。隆は私の不肖の兄です。そこに何気に集まるのが兄の友人達と、女子高生である私香奈とその友人の智代。兄とその友人達の会話はアカデミックっぽいのですが、普段の生活レベルは知的レベルとは比例しない。つまり幼い、幼い。そのギャップがいつも珍騒動を巻き起こしてしまいます。

隆の学生マンションの一室。ノートパソコンに向かう隆。同級生の真と彰が入ってくる。

真  隆、何で今日の物理の講義さぼった?

隆  ぜんぜん興味なし。時間の無駄。

真  なら、レポート課題も興味なし?

隆  それは興味あり。卒業には絶対必要条件だ。

彰  あいかわらず勝手なやつ。で、どんな課題なんだ?

真  何だ彰、おまえもさぼり組か。まったく……。「あなたは過去に存在した風景を、他人と共有しながら、現代の時間の中で、実際に観察することができるか?」という課題が出たんだよ。来週までにレポート提出だってさ。

彰  それってタイムトラベルのことかな?   小説やドラマや映画なんかだったらすぐに解決できるけど。

隆  そんな非科学的な課題なんか大学の先生が出す訳ないよ。

真  現存する幕末や明治時代の古い建物なんかそうなんじゃない。例えば南山手のグラバー邸とかさ。あれは過去の風景だろ。今でも観察できるし。

彰  しかし、周りの景色は絶えず変化しているから、建物だけならそう限定すべきだ。過去に実際に存在した風景とは違うよ。

隆  大自然の風景のことじゃないかな?   山とか川とか海は大昔と変わらないだろ。他人と一緒に見れば共有できるし。

彰  でもやっぱり100年前の風景とは変化があるんじゃないかな。そうだよ、自然環境は変化してる。破壊され続けている。厳密に過去そのものの風景とはいえないよ。

隣の部屋から香奈とその友人智代が入ってくる。香奈はクッキーを持っている。

香奈  ねえねえお兄ちゃんたち何難しそうな話してんの?   隣の部屋まで筒抜けよ。ねえ。

智代  (スマホを盛んに操作しながら)ねえ、大学生の会話っていつもこうなの? 

隆  なんだ香奈か。お前たちには生涯縁のない話だよ。

香奈  何よ、人のことバカにして。じゃあ、お兄ちゃんは智代の焼いたクッキーはいらないのね。だったら真さんと彰さんにだけあげる。

真・彰  あ、ありがとう!

隆  どうしてそうなるんだよ。智ちゃんのなら食べるに決まってるだろ。たとえ真っ黒こげでクッキーの原型をとどめなくても絶対食べる。

智代  そ、そんなあ、ひどーい!   真っ黒こげなんて!

香奈  (智代をなぐさめながら)お兄ちゃんのバカ!   ねえ、高田さん、ほんとうはどんな話してたの?

真  実はね⋯これこれこういうことなんだ。

香奈  なーんだそんなことか。

隆  そんなことって。大学の講義の課題だぞ。お前に理解できてたまるか。

香奈  あら、かわいい妹には理解できるかもよ〜ん。それってさ、先週テレビでやってたあれのことなんじゃない?

智代  うん、あれよ。あれ。

隆  智ちゃんまで。あれって何だよ。

智代  わたしが大好きなもの。(うっとりして)ロマンチック。

香奈  そうお星様よ。ほら遠い星の光って長い長い時間をかけて地球に届くでしょ? だからわたしたちが今見ている星は何十億年って過去の姿なのよ。考えてみれば不思議よね。現代に生きてる人間が過去の星の姿を観察してるなんて。タイムトラベルしてるみたい。

真  ああ、何だ、そういうことか。

彰  ふむふむ、なるほど。何十光年離れた星の光が地球に到達する速度を計算すると、理屈は通っている。

隆  (さも知っていたように)な、何だ香奈も気づいていたのか。さ、先に説明してくれて助かったよ。

香奈  うそね。思いつかなかったくせに。

智代  未来になればなるほど、科学が発達して、遠くまで見える望遠鏡が開発されて、その分宇宙の過去のことが分かっていくのってさ、何だか不思議よね。今の地球の姿が何十億光年遠くの星へ届くのも何十億年も先のことなのね。やっぱりロマンチック。

真  よし! その方向でレポートに取り組もう。

香奈  もしかしてその先生もその番組見たんじゃないの?

隆  バカなこというなよ。

彰  いや、ありえるかも。

隆・真・彰  (ちょっと考えて)やっぱりそうかもね。

香奈・智代  (嬉しそうに)絶対にそうよ。ねえ。


暗転

しばらく音楽が流れる。

翌日。隆のマンションの一室。隆、真、彰の3人がそれぞれのノートパソコンに向かっている。

真  うちの大学出身でノーベル化学賞受賞した下村先生のことだけどさ。

隆  大学の誇りだよ。

彰  地方大学出身者の鑑だな。

真  応用化学の轟先生から、下村先生がノーベル化学賞受賞に至った研究の経緯をレポートしなさいって課題が出てたよ。

隆  やばっ。またレポートか。ネットで論文読まないと。

彰  確かクラゲの発光性タンパク質のことだっけ?

真  イクリオンとGFPの発見だろ?

隆  基礎研究の重要性とその応用の広がりについてだね。

彰  それをどうまとめるかだな。

隣の部屋から香奈と智代が入ってくる。

香奈  あらお兄ちゃんたち、また難しい学問の話?

隆  お前には無関係な化学(ばけがく)のことだよ。

智代  へええ。化学ってどんな?

真  実はね⋯⋯かくかくしかじか、こういうことなんだ。

智代  ふーん、つまりクラゲ博士のノーベル化学賞受賞の理由を調べるのね?

隆  あっ! 畏れ多くも⋯⋯偉大な下村先生を女子高生ごときがクラゲ博士と呼び捨てにするな!

香奈  あら、みんなそういってるわよね。

智代  うん。いってる。うちの妹はクラゲのおじいちゃんだって。

香奈  あのね、ノーベル賞受賞の研究ってさ、偶然やラッキーの連続だったのよ。成功は奇跡的な幸運だったんだって。

隆  ラッキー?   幸運?   下村先生に失礼な。ひたむきで地道な研究の成果の積み重ねの末に決まってる。

智代  わたしは人との出会いが発見につながったって聞いたわ。それに家族の絆よ。

真  だから、そんなヒューマニックなことじゃなくて⋯サイエンスと遺伝学の進歩だよ。

彰  そう。もっと学問的探究心のなせる技だよ。下村先生の研究にはクリスマスも正月もなかったそうだよ。

隆  基礎研究の勝利だよ。下村先生は孤高の天才だよな。

香奈  天才?   あら学生時代の成績だってビリから二番目だったって読んだわよ。

彰  読んだ?   下村先生の論文を?

香奈  違う、自伝よ。ねえ。

智代  そう。生物の先生が授業で将来の参考になるから読みなさいって。

真  いつの間にそんな本が出てたんだ?

香奈  あらあ、高田さん知らなかったの? 母校の偉大な先輩なのに、ね。

彰  自伝か。レポートまとめるには論文より手っ取り早やそう。

隆  まあ受賞の経緯を知る手がかりにはなるかも。

真  よしさっそく生協で一冊買うぞ。

香奈  わたし一冊持ってるわよ。お兄ちゃんになら格安で売ってあげる。

隆  いらない。

智代  わたしも一冊持ってるんだけど。

隆  そ、それはぼくが高額で買い取る。元値の2倍でどう?

香奈  あのね、どうしてかわいい妹のがいらなくて、智代のがいるわけ?   しかも2倍でって。

真  それは聞いても無駄。論理的解答は無理。

彰  そう科学的説明もできないよ。きっと。

香奈  何よそれ。もうやだ。

隆  じゃあ聞くな。我が妹よ。

香奈  もういい。智代行こう。

隆  あっ、智代ちゃん待って!

香奈  (舌をだして)べーだ!

真・彰  だめだこりゃ。


暗転。

しばらく音楽が流れる。

その翌日。隆のマンションの一室。隆、真、彰の3人がそれぞれのノートパソコンに向かっている。

隆  おい腹へったな。何か作って食べよう。

真  料理は苦手だよ。

彰  この前香奈ちゃんが置いていったレシピ本があったよな。

隆  『超簡単料理 誰でも三ツ星シュフ』のこと?

彰  そうそう。

真  ならば料理を極めて、真の男女共同参画社会実現に向けて我々も動き出すか。

隆  いざ男と女の間に存在する暗くて深い川へ漕ぎ出せ!

彰  ちょっと意味が違うと思うけど。ところで何作る?

隆、 レシピ本をパラパラめくる。

隆  カルボラーナだ。これにしよう!

真  材料の買い出しには誰が行く?

彰  ぼくは行かない。隆行けよ。

隆  ぼくも嫌だよ。人混み苦手なんだ。

隣の部屋から香奈と智代が入ってくる。

香奈  あらどうしたの? 料理本なんかめくって。

隆  今日は食物におけるカロリー摂取と人体への影響について実験をする予定だ。

智代  それって料理を作って食べるってことでしょ。

彰  一般市民のことばに換言すればね。

香奈  もう。それで何を作るつもり?

隆  これ。

智代  あら、カルボラーナか美味しそう。わたしも手伝う。

真  だったら、材料の買い出し頼むよ。

智代  了解! 

隆   ああ、それなら、ぼ、ぼくも一緒に行こうかな。

真  あれっ?   ぼくは人混み苦手なんじゃなかったの?

彰  そうだそうだ。

隆  うるさい。たまに外界の雑踏に身を委ねることも崇高な魂の平安につながるんだ。

香奈  何の平安だか、分かったもんじゃないわ。

隆  さあ、智代ちゃん、濁り切ったこの部屋から急ごう外界の聖なる海へ。

智代  海?   ああ、スーパーシーサイドのこと?   うん行く!

香奈  バッカみたい。

真  あいつの妄想癖、だんだんひどくなるよな。

彰  そうかな、いつものことだよ。

香奈  バッカみたい。妹として恥ずかしいわ。


暗転

しばらく音楽が流れる。

その日の夜。隆のマンションの一室。

隆  あのさ⋯⋯。

真  (うんざりして)だから何?

彰  あのさの次をはっきり言え。

隆  だから、ぼくが智代ちゃんに好意を寄せていることを、周囲に隠し通す自信がなくなった。

彰  何だその事か。みんな気づいてるから安心しろ。君の智代ちゃんに対する異常な愛情行動には。

真  そうそう変質学生の異常な愛だ。

隆  変質と異常なは余計だ。

真  偉大な学者も普通の人間も、配偶者を求める生殖行動への欲求は平等だ。

隆  だから何がいいたい?

彰  女子高生がよく口にする俗語でいえば君は「告る」べきだ。

隆  告る?

真  さらにいえば生涯における愛情の継続可能な家庭を追究す

隆  つまり?

彰  若輩の男女がよく口にする俗語でいえば君は「プロポーズ」すべきだ。

隆  ぼくは学生で相手は女子高校生だぞ。

真  それがどうした?

隆  まだ若すぎる。経済力もない。

彰  よく考えてみろ。君が配偶者をもてる確率は、年齢を重ねるごとに低下の一途をたどる。ならば確率の少しでも高いうちに機会をつくるべきだ。

真  去年1週間だけ付き合った彼女だって、「あなたって全然つまらない人!」って一言残して去って行っただろ。

隆  ギクッ。やっぱりそうかな?

真・彰  そうだ。

隆  でもどうやって口説くんだよ?

真  簡単だ。まずお前の得意なアカデミックな言葉を並べて彼女をけむに巻く。

彰  彼女の頭がボッーとなったすきにニーチェとかゲーテの愛の言葉を投げかける。

真  これで彼女は尊敬のまなざしを君に向ける。胸キュン。OK! おめでとう。

隆  それって去年の彼女をデートに誘ったときに使った手だ。

彰  そりゃそうさ。ぼくらがアドバイスした。

真  そう。成功の確率は君がノーベル賞を取る確率よりも非常に高い。

彰  うん、間違いない。

隆  そのあとたった1週間で振られた。

真  先の展開まではアドバイスを求められなかった。

彰  まあ例え求められても、ぼくらはその後のアドバイスはできない。なぜならぼくらは彼女と付き合った経験ゼロだから。デートに誘うまでが精一杯。はははっ。

真  (威張って)どうだ、まいったか。

隆  ⋯⋯相談する相手を間違えたな。


暗転

しばらく音楽が流れる。

2時間後。隆のマンショの一室。

香奈  ええ? 何であたしがお兄ちゃんの恋愛相談に乗るわけ?

隆  だから真と彰じゃあてにならないからさ。

香奈  まあオタク3人トリオが束になってかかっても智代は落ちないわね。

隆  そこを何とか知恵を貸してくれよ。彼女の趣味とか好きな食べ物の情報とか⋯⋯

香奈  宿題手伝ってくれる?

隆  やだ。

香奈  じゃ、わたしもやだ。

隆  ⋯⋯仕方ない。宿題3回分で妥協しよう。

香奈  5回分ね。智代の趣味はお菓子作り。好きな食べ物はチョコとケーキかな。

隆  カロリー摂取量高そう。

香奈  それに男の好みだって、ぜんぜんお兄ちゃんとタイプが違う。

隆  どんな男が好みだ?

香奈  去年まで付き合ってた彼はバイクぶんぶんぶっ飛ばすいかれたロック野郎だった。ヘビメタ系のモヒカン野郎も好きだっていってた。それにクレイジー系もね。

隆  ぼくの教養が邪魔してとてもそんな男になれない。ちなみに彼とはどれくらい付き合ったんだ?

香奈  たぶん1週間だったなか?

隆  い、1週間? おおっ。この偶然の一致は使える⋯⋯、気が合う似たもの同士かも。

香奈  どこがあ?  絶対だめよ。脈なし。あきらめれば。

隆  そう簡単にはいかない。

香奈  あ、そうそう。お笑いタケルの『科学でドン!』ってバラエティー番組あるでしょ。あれ毎週見てるみたいよ。

隆  ふん、あんな低俗番組のどこはおもしろいんだ。

香奈  さあ、智代に直接聞いてみれば

隆  それは⋯⋯

香奈  聞いてみれば!


暗転

しばらく音楽が流れる。

数日後。隆のマンションの一室。

隆  智代ちゃん、ヒモ理論とか、興味ある?

智代  何それ? 何のヒモ? 

隆  ドップラー効果は?

智代  永遠に興味なし。隆さんたちって、いつも難しい話ばかりしてるのね。

隆  そんなことはないけど。(独り言)やっぱり真と彰はあてにできないよ。

智代  でもそんな知識あんまり普段の生活には役立っていないみたい。

隆  そう⋯⋯かな。でも、今日は科学知識以外の別の話をしたいなと思ってね。

智代  別の話って?

隆  ゲーテとロックどっちが好き?

智代  ロック!

隆  やっぱり。ぼくもロック。

智代  へえー隆さんもロック好きなんだ?

隆  ああ、最近になってああいう騒音も⋯⋯いや音楽もたまにはいいかなって⋯⋯

智代  で、誰が好きなの?

隆  誰って?

智代  アーティストよ。それともグループ?

隆  ああ、そうか。ビ、ビートルズとかね。

智代  へえ、クラシックなのね。

隆  クラシックじゃなくてロック。

智代  だからビートルズはロック界のクラシック的存在なの。教祖よ。で、ビートルズのどんな曲が好み?

隆  曲?⋯⋯オブラデオブラダ⋯かな?

智代  えーっ? その曲、何だかロック好きじゃないみたい。

隆  (独り言)くそっ、香奈の情報もあてにならないか。(思い直して)そうだ、君とぼくの未来の生活に役立つ話⋯⋯なんて、どうかな?

智代  未来?  未来なんて誰にも分からないわよ。

隆  でもこの先ずっと2人で一緒にいたいってのは、どう?

智代  それってもしかして告白?

隆  もしかしなくてもそのつもりだけど。

智代  (ちょっと考えて)だめ。ぜんぜんロックしてない。ころがってない。それってロマンチックでもない。

隆  あれ?  おかしいな。お笑いタケルの「彼女を口説く最強の法則」通りに運んだつもりなのに。

智代  ええ?  何?

隆  ……状況を無視した唐突な告白ほどインパクトがあるはずなんだけどな。

智代  もう、何ブツブツ言ってるのよ。恋愛にセロリーなんかないの。

隆  セロリー?  それもしかしてセオリーのこと?

智代  セロリでもパセリでもいいの。問題はハートよ。

隆  じゃあ、こんなのはどう。ぼくと一緒に、未来の君にも見せたい、はるか過去の風景を。へへへっ。

智代  (突然夢見るような表情に変わり)それって、美しい夜空のお星様をいつまでも2人で見ていたいってこと?

隆  (驚きながら)へ?  そ、そういうこと。ちなみにこの場合、プラネタリウムに毎日通うことではないよ。もっと2人の日常生活に近い話だけど。念のため。

智代  それなら1回くらいデート考えてもいい。

隆  えっ?   うそ。どうしてさっきと反応が違うの?

智代  こう見えてもわたし星を眺めるのが大好きなの。

隆  星に反応したのか!

智代  だって不思議でしょ。それぞれの星の光が届く時間が違うから、私たちは夜空にたくさんの過去をいっぺんに見ているわけよ。時空を飛び越えてね。これってロマンよ。

隆  ふむ。星の輝きを媒体にして、ぼくと君の未来に予想外の化学反応が起きたのかも。

智代  隆さんて、何でも難しい言葉に変換したがるのね。未来になればなるほど過去の宇宙の姿が鮮明に見えてくる。これって人間関係の在り方にも通じるのよ。

隆  ん?   よく理解できない⋯⋯

智代  年月を重ねれば重ねるほど人間は互いを深く理解できるってこと。

隆  ああ、そういうことか⋯⋯。ま、何でもいいや。今度デートしてくれなら。

智代  一応考えておく。


暗転

しばらく音楽が流れる。

その翌日の夕方。隆のマンションの一室。香奈はアイスクリームを食べている。

香奈  それってお兄ちゃん、智代に気に入られたかも。

真  ビッグバンだ。小さな一歩だが、隆にとっては偉大な一歩だ。

彰  少し脈が出てきたかも。

隆  やっぱりそうか。そうじゃないかなと思った。

香奈  でも智代の気持ちはころころ変わるから。明日はわからない。

真  またビッグバン前のゼロ地点に逆戻りか。無の世界だ。暗黒だ。

彰  そもそも彼女の一時的気の迷いの可能性がかなり大きい。

隣の部屋から智代現われる。

智代  隆さん、それで明日どこへ連れて行ってくれるの?

香奈・真・彰が驚く。

隆  (嬉しそうに)ああ、まだ決めてなかった。

真・彰  (小声で)レポート代わりに書いてくれ。

隆  分かったよ。

香奈  (小声で)絶対宿題5回分手伝ってよ。

隆  分かってるよ。うるさいなあ。

真  あ、あの、智代ちゃんに質問だけど、どうして隆とデートする気になったの?

智代  さあ。たまたまあたしの好きな星の話をされたからかな?   隙をつかれた。

隆  はははっ。智代ちゃんの好みなら何でも知ってるのさ。

香奈  やっぱりこの成功は、偶然とラッキーの連続だったんだ。

隆  違うって。

真  それに人との出会い。よき友人のアドバイスが効いたからだ。

隆  それもどうかな?

香奈  家族の協力もね。

隆  だからそれは⋯⋯

彰  偉大な下村先生の魂が愛の迷い子隆に乗り移ったのか?

香奈  もしかして智代ってクラゲ好き?

智代  うん大好き! 妹も好きなんだ。

真・彰・香奈  やっぱり。

隆  はははっ。下村理論は化学を超えて、一般の恋愛理論にも通じるものさ。

真  これってレポートの課題のテーマになる。

彰  新しい法則発見だ。

隆  今度のデートでその有効性を証明してみせる。

香奈  ばっかみたい。智代、こんなんでホントにいいの?

智代  よく分からないけど、むかしの彼より刺激的かも。

隆  ほらね。証明は時間の問題だ。

真  その時間が問題だ。

彰  そうだ。君の恋愛光線が智代ちゃんのハートをいぬく時間を計算すると、30億光年後だ。

隆  ぼくらの距離はそんなに離れてない。

香奈  心の距離は天文学的数字ね。

智代  それって素敵。

隆  えっ?   どういう意味?

智代  だって隆さんの気持ちが私に届く前に私たちこの世からいなくなるのよね。

隆  違う!   いなくならない。

智代  永遠に結ばれない純愛。素敵!

香奈  ねっ、結局こうなるのよ。

真・彰  だめだ、こりぁ。落ち着くところに落ち着いたか。

隆  (泣きながら)智代ちゃーん!

智代 (夢見るように)ス・テ・キ!

香奈  この広大な宇宙は何でできているのか? それはすべてが原子でできていると思われてきたそうですが、最近理論上ではダークマターの存在が明らかになってきたとのこと。原子は2割程度、その他はダークマターでできているってことのようです。銀河系の2千億個の星々が太陽の周りを回る速度は予想よりはるかに速いらしいのです。普通なら銀河系から飛び出してしまう速度らしい。でも、星々はずっと秩序を保って周りつづけている。そこからは大いなる秩序をつかさどる暗黒物質ダークマターの存在が必要と考えられるんだって。つまり宇宙は原子と大量のダークマターでできてるってこと。だけどダークマターの正体は? ……まだ謎なのだそうです。私、思うに仮に兄とその友人達が銀河系の星々だとしたら、私と智代なんかはきっとダークマターの役割ね。兄達がぐるぐる暴走脱線しないように軌道を保ちつつ、見守る漆黒の天使なんだわ、きっと。なーんてね。お笑いタケルのバラエティー番組『科学でドン!』の受け売りでした。今日のお話はこれでおしまい。ではバイバイ。まったね〜!

しばらく音楽が流れる。終わり。











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