1-16.ツキがない時は開き直れ。
1-16.ツキがない時は開き直れ。
ニチメン元会長 日比野哲三
人間、何をやってもうまくいかないという時はあるものだ。そんな時にどうするか。日比野哲三は、開き直れという。
日比野自身、結核で二度も休職し、そのために課長昇進が同期に比べて遅れたが、「出世は考えずに、自分の仕事だけを精一杯やろうと心に決めた。同時に、オレは体が弱いのだから、いたわってもらわないといかんと開き直った」という。
とは言っても、人間にはツキが大切で、ツキが回ってきた時にそれを生かさなければらない。ツキはつかみ損なうと逃げていく。しかしツキをつかもうと努力してもダメな時は、やるだけやったと開き直って、次のツキを待つことも必要であろう。
新しい事業が不調に陥ると、やめようという話になるのは経営の常。見通しがないのにいつまでもメンツにしがみつくのは問題だが、目先の損得だけでやめてしまうのも危険だ。
そんな時は、しっかりした判断の下に将来を期しているのなら、今はツキがないんだと開き直ってみるのも一つの手である。
行き詰まったら、死んでみるといい。
死んでみると、実によくモノが見えてくる。
ミサワホーム社長 三澤千代治
三澤のこの言葉も開き直りである。死んでみるとはいいかえれば、開き直れということである。
「他に方法がないではないか」とすべてをゼロリセットして死んでみる。
これほど強い開き直りはない。ただ、死んでみるには勇気がいる。
西堀栄三郎は「勇気は自信に先行する」と言ったが、さらに言えば、「勇気は開き直りに先行する」だ。
つまり、度胸を決めてしまえ、ということである。度胸を決めて、次のツキを待つ、それしか打つ手はない、という局面もまた現実には多いのである。
三澤は、肺病で実際に死にかけたことがあるし、会社では経営が行き詰まって、死んだ気になって2回も本当に葬式を挙行した。生前葬などというものではない。「今までの私は死にました」と本気で開き直ったのである。
「死んだ気になってやれば何でもできる」とよく言う。そんな気持ちになっている人に対しては、周囲の目も大きく変わり、自分にも社員にも新しい発想が出てくるのである。
開き直りも、死ぬのも、結局は気持ちを切り替える一つの方法である。行き詰った時に、メンツも恥もかなぐり捨てる。気持ちを切り替えるとブレークスルーのきっかけが作れると教えたのが、日比野と三澤の言葉である。
花王の中興の祖と言われる花王社長 常盤文克は、
「ホワイトカラーの生産性向上が必要と言われるが、そもそもホワイトカラー、ブルーカラーと色をつけるのはおかしな話だ。私は、白も青も一緒にしようと考えているから、ホワイトカラーという存在は頭にない。」
と言っているが、これもある意味で開き直りと言えるかもしれない。
昭和の高度成長の時代、ホワイトカラーの生産性向上が重要なポイントとしていつも問われた。これに異議ありとするのが常盤文克である。
常盤は、ホワイトカラーとかブルーカラーとかいうのは、人間の持つ無限の可能性を限定してしまっている言い方だと批判する。
実際のところ、いまホワイトカラーの人たちも、ホワイトカラー以外の場で能力を発揮しようとは思っていない。ローテーションもホワイトカラーの中だけで行われる。それはおかしいと常盤は言うのである。
人が能力を発揮する場を始めから限定してはならない。だから、ホワイトカラー、ブルーカラーという区別なく、できる限りいろいろな部署を経験し、その中で自分に合った仕事を見つけるのがいい。そのためにも、工場、オフィスの区別なく、相互に応援体制をとるのは有効だ。
これが常盤の考え方だから、ホワイトカラーだけを取りあげて生産性云々という言い方には答えようがないというわけである。