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2-7.商売の醍醐味は仕入れにある。だから、返品がきく商品を扱っている人たちを「真の商人」と呼ぶわけにはいかない。

 ヤナセ会長 梁瀬次郎
  ヤナセと言えば外車輸入の老舗である。戦後の混乱時から外国車輸入一筋できた梁瀬には、返品制度は許すことができない甘い取り引きと映る。なぜか。

 かつて梁瀬にも、輸入したが買い手がなく苦労したことが何度かあった。できるものなら、仕入れたものをそっくり返したいと思ったことも一度や二度ではなかった。

 しかし、それはできない。自分の才覚で売れると判断して購入した以上、その責任は自分がとるのが当然である。だから、売る以外に道はないのである。その必死さが結局、販売力を高め、取り引きを拡大し、現在につながっているのである。

 仕入れたものは返品できない、そう覚悟するところから販売への覚悟が生まれ、そして、商人は逞しくなってゆく。

 返品の可能な商品の取り引きがいかに担当者の商売感覚をスポイルさせるかは、百貨店の例を見るとよくわかる。

 かつては、百貨店は自社の責任で商品を仕入れていた。ところが仕入れのリスクを避けるために返品ができる委託販売制を導入し、販売担当者として自社社員ではなく、納入業者の派遣店員を置くようになった。

 こうなると、百貨店にとっては、過剰に仕入れても売れ残った商品は返品することができるし、リスクはほとんどなく、しかも人件費は業者持ちであるから、もはや百貨店は小売業ではなく、実態はテナントの賃貸業に近くなってしまうのである。梁瀬にとっては、百貨店の衰退は予想されたことでもあった。

 リスクを覚悟して、自分の才覚で仕入れてこそ、市場や消費者の動きに敏感になる。そのことが、市場の動向に目を配ることを教え、商品を見る目と開発する感性を育てるのである。

 梁瀬の言葉は、まさに商売の基本と醍醐味を伝える金言である。


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