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6-2. 歩留りが悪いものほど、やる価値がある。

 ソニー創立者 井深 大

 ソニーがテープレコーダーと録音用磁気テープを商品化した後、井深らは次の開発テーマを探しにアメリカに飛んだ。いろいろ情報を集めるが、なかなかこれはという情報がない。そんな時に飛び込んできたのが、トランジスタ開発の話であった。

 当時、ソニーはテープレコーダーや録音用テープの開発に多くの大学卒、専門学校卒の技術者を採用し、その数は社員の3分の1を占めるほどに膨らんでいた。この技術者にテープのあとに何をしてもらうか、井深にとって頭の痛い問題だったのである。
 そんな時に飛び込んできたトランジスタの話に、最初、井深はあまり関心を持たなかったという。初期のトランジスタはまだ研究も始まったばかりで、技術レベルも低かったからである。
 しかし、話を聞いてみて、井深の思いは大きく変化してゆく。

「トランジスタも発明された頃に比べれば相当進歩しているようだし、難しい技術に違いないから、この人たちにやってもらおう。いま、専門家と称している人たちも、どうせゼロから始めたに違いない。となれば、オレたちが専門家の一番乗りになれないことはない」。

という判断であった。
 とはいえ、当時のトランジスタ技術は、ラジオ用の高周波トランジスタなどを作ろうとすれば、歩留りはせいぜい数パーセントというありさまで、この状態では、一般市販の商品に使うことは不可能であった。
 そんな状態を知って、井深は逆に、 「歩留りが悪いのは、どこかやり方に欠陥があるからで、それさえ見つけ出せば歩留りはガバッと上がるはずだ。そうなれば大変な利益が出る」、そう発想したのである。

 歩留りの悪いものほどやる価値がある……これが一貫した井深の考えである。
「だから、私は歩留りを一つも恐れなかった」と井深は言う。

 一般には、歩留りが悪いと、それを少しずつ上げていって商品化に取り組もうと考える。しかし井深は、そうした積み重ねの発想ではダメだと、この段階で商品化を目指して、まったく違うやり方で大きく改革することに取り組んだ。それがトランジスタの導入を成功に導いたのである。

 本田宗一郎は、技術開発や新しいことを始めるときに、社員に対して、

「難しいことから始めよ」

と説いたという。

 本田も井深も、現状からの改善ではなく、大きな改革を目指さなければ新しいことはできない、と腹を括って取り組んだことが成功への鍵となったのである。


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