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5-2. 会社の財産は金ではなく事業だ。新しい工夫によって儲かる……それが事業である。

 阪急グループ創始者 小林一三

 小林は「事業」という言葉に非常に重きを置いていたが、小林の言う事業とは、金儲けではなく工夫なのである。だから小林は、原価、つまり仕入れを安くして利益を出そうとは考えない。良質の品を経営の工夫で価格を安くして消費者に提供せよ、と言うのである。

 工夫とはどういうことか。小林が説明によく用いた例は、高級呉服の販売に関する工夫である。呉服担当の老練な店員は得意先を熟知し、どこの誰に何を勧めればいいかを心得ている。そこで、
「たとえば、50円の丸帯が20本あるとすれば、そのうち優秀なのを10本選定して、これを1本100円くらいで売る。これで仕入価格のもとはとれるから、残りの10本はタダということになる。そこで、この10本を見切り品として処分すれば、それだけ利益になる」
 というのが一つの工夫である。

 しかし、もともと呉服から出発した百貨店が多い中で、新参の阪急百貨店が対等に戦うのは難しい。そこで、さらに考え出したのが、今ではどこのデパートでも恒例になっている「呉服の展示即売会」というやり方である。小林は「京呉会」と名づけた呉服の展示即売会を始めた元祖でもある。
 こうした工夫で老舗に対抗し、地場の小売店とも共存する……それが小林の事業であった。

「会社の財産は金ではなく、事業の工夫である。」

というのはそういうことである。事業の工夫の結果が財産としての金を生み出す。

 いち早く情報を得てそれにもとづいて行動を起こした人間を、一般には先見力があると賞賛する。小林と同じように「しかしそれは工夫や先見力とは違う」と言うのは、松山に本拠を置くボイラーの専門メーカー、三浦工業の三浦保である。


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