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5-8. 厳重な品質検査をやっているから、当社の商品は間違いない……というコマーシャルは間違いだ。

 本田技研工業創立者 本田宗一郎

この言葉はいまとなっては古く響く。実は戦後に産業が立ち上がり、輸出も増え始めた1960年代初め、輸入国から日本の製品に対して「安かろう悪かろう」と言われたころの言葉なのである。
「厳重な品質検査を行っているから、当社の製品は間違いがありません」というコマーシャルは当時、よく見聞きした。
 しかし、この広告はまったく宣伝になっていないだけでなく、むしろ、

「当社の製品は厳重な品質検査をしないと不良品が出ると言っているようなもの」

といち早く疑問を呈したのは本田宗一郎だった。
 もし、本当に製品の品質が良いのならば、検査などしなくても済むはずだ。だから

「ウチの品物は検査なしでいいのです、というコマーシャルなら感心するのだが」

と本田は言うのである。

「検査などというものはおまわりさんの役目だから、ないほど文化国家だ。それを反対の感覚で、ウチはたくさん検査しているから品物が良いとお客さんに言うのでは時代錯誤もはなはだしい」

これが本田の論理だが、今では誰もがこの理屈は正しいというだろう。しかし、ホンダのこの言葉は1960年代のはじめには発せられたものなのである。
 このことからもホンダの時代を見る目の進み方がわかる。

 今でいえば、製造工程そのものが不良品を発生させない仕組みになっているので、検査などまったくやらなくても全部良品です……となるはずだ。検査なしでOKになるように、工程で品質を作り込むのがQCの基本である。

 前記の広告は、「製造工程内では、品質を管理・保証する仕組みができているので、生産されるものはすべて良品です」と言うのが、本田流の正しい言い方ということになる。


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