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7-7. キノコは千人の股をくぐる。

元日本生産性本部理事 西堀栄三郎

 これは正確に言えば、京都大学名誉教授・佐々木申二の言葉だそうだ。
 キノコとは松茸である。西堀栄三郎は、佐々木から聞いた言葉として、以下のように紹介している。

「普通の人は、松茸を探しに行っても、千人もの人が歩いたあとでは、もう見つからないだろうと考える。しかし、千一番目に行った人が『あっ、松茸があった!』と見つけるかもしれない」

という意味である。
 他の人が探したからもうないだろうと考えるのではなく、まだあるだろうと考えて一生懸命に探していくことが大切だと言うのである。
そんな一例として西堀は、ある話を聞いてそれをヒントに友人が開発した放電加工法の例をあげている。

 南極に行った時の実験で、顕微鏡に使うプレパラートという薄いガラス板にポマードを塗って24時間戸外に置いておくというのがあった。すると、そのプレパラートに小さなホコリがいくつか付着する。磁性を持っていることや、南極にはホコリがないことから、明らかにそれは宇宙から飛んできたものだとわかった。

 その量を地球全体で考えたら大変な量になるが、同じように月にも蓄積されているハズである。しかもそれが何万年も蓄積されているとしたら、月の表面には何メートルもの厚さで堆積しているに違いない……、などという議論を仲間たちとしていた時に、アメリカの宇宙観測衛星サーベイヤーが月に着陸することになった。

「想像しているようなホコリの積もった月であれば、サーベイヤーは灰の中に降りてゆくようなもので、逆噴射したらあたり一面灰かぐらになり、降りたとしてもボコボコッと沈んでしまうのではないか」というのが議論の結論になった。
 ところが、実際にサーベイヤーが月に降りるのを見たら、灰かぐらは立たないし、表面は足跡がやっとつくくらいの固さで、まったく予想が外れた。

「そうすると、積もったあとに何がしかのエネルギーが与えられて固められたと考えるよりしょうがない。多分、+イオン、-イオン、エレクトロンなどが月面に当たって固めたんだろう」……と話をしていたら、西堀の友人の一人が「これは面白い」と、この原理を応用して放電加工法を開発し、特許を取った。

 その特許を日本の会社に話したら誰も相手にしない。そこでアメリカの会社に持って行って契約に成功、その新しい加工法は大きな成果をあげたという。
 話からヒントをつかむのも才能である。それはまた、「遺利」を見つけることにも通じる才能である。

 西堀らの話から放電加工法を発見した友人と、その技術を買ったアメリカの会社。両者はまさに「遺利」を見つけたのである。
 同じように、人の歩いたあとにも、まだ宝物は残されていると、豊田佐吉は次のように言う。

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