見出し画像

5-12. 需要は始めからあるものではない。 メーカーがアイデアと生産手段によってつくり出すものだ。

 本田技研工業創立者 本田宗一郎
 

 先のデサントのケースで、もし当初から大量に生産し、大量に店頭に並べていたら、一気に人気が出て、爆発的なブームになっていたかもしれない。しかし、そのケースでは、一時的なブームに終わっていた可能性も強い。諸刃の刃でもある。


 「マンシングウエア」という長く続くロングセラーの商品を育てたのは、やはり作り手・売り手のしっかりした戦略なのである。

 本田宗一郎は言う、

 「需要は始めからあるものではない。
メーカーがアイデアと生産手段によってつくり出すものなのだ。」

 ホンダがスーパーカブを売り出した当時にあれだけ売れたということは、言い換えれば、誰もがスーパーカブのような商品をほしがっていたということでもある。しかし、そんな需要があることを誰も見抜くことはできなかった。本田宗一郎によって商品化され、市場に投入されたことで需要が喚起され現実化したのである。

 販売に当たっても、周到な用意がなされていた。
 まず、ある特定の地域を決めて過去の経験をもとに新製品の動きを予測する。そして、その例をもとに他の地域を推定し、全体の生産量を決めた。その結果、予想以上の人気で店頭での品切れが続き、爆発的なヒット商品になった。ここまでは珍しくない、よくある話である。
 問題はこの先である。

 この予測も、単にデータだけで判断されたわけではない。データから判断する際に、いくつかの意思決定を求められる場面が出てくるのだが、実はその意思決定のために、重要な原則が作られた。その一つは、出荷に当たっての基本的な方針である。

 スーパーカブの発売に当たって本田は、

 「大量に販売する店も、片田舎の少量しか販売できない店も、商品の割り当ては同じように行う」という原則を作った。

 案の定、販売直後は爆発的な人気で、商品の生産が間に合わなかった。最盛期には1ヶ月以上も待ってもらうなどという状態であった。普通、こうした状況では、普段から大量に扱ってくれ店には、商品の納品で便宜を図ったり特典を与えたりする。しかし、ホンダはこうした馴れ合いを認めず、どの店も一軒の小売店としてまったく同列に扱ったのである。

 軒数的には圧倒的に多い小規模な小売店から、ホンダが絶大な信頼を勝ち得たことは言うまでもない。こうした信頼性が、その後の中小小売店からの「ホンダおし」の口コミを促し、マーケットでホンダのイメージを良いものにし、販売に大きく貢献することになったのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?