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093 イノベーションを生む条件

イノベーションについての誤解もあります。
企業が、市場でイノベーションを興すような新製品を開発するためには、どのようなプロセスが必要なのでしょうか?
たとえば、ウォークマンなど、過去にイノベーションを起こした商品をみてみましょう。
これらはいずれも、かならずしも、新しい技術開発とともに商品化された商品というわけではありません。
既存の技術を組み合わせ、その中の、ある機能に特化して商品化し、ユーザーとのインターフェースに独自のデザインを施すことで、消費者に未体験の新鮮な価値や喜びを提供する、つまり、開発者の発想やニーズが起点となって、既存の知識、技術を組み合わせ作られた商品なのです。
それまでになかった新しい研究開発の成果が元になって生まれたシーズ型の商品ではないのです。
もちろん、素材産業などでは、炭素繊維のように研究開発力がベースになって生まれるものもありますが、消費財マーケットで見れば、むしろ既存の技術を巧みに応用した商品が多いのです。
経済学の巨人シュンペーターは、1926年に著した「②経済発展の理論」(東畑精一ほか訳、岩波書店)で、経済の成長は、

「新結合」によっておこされ、「新結合が非連続的に表れる限り、発展に特有な現象が成立する。・・・けっして科学的に新しい発見に基づく必要はなく・・・新結合の遂行およびそれを具体化するものの成立は、原則としてけっして利用されていない生産手段を結合しておこなわれると考えてはならない。」

「経済発展の理論」(東畑精一ほか訳、岩波書店)

と書いています。
当時はイノベーションということばはなく、イノベーションに近い大きな変革を非連続の発展とよんでいた。そして、シュンペーターは、非連続の発展は、新しい科学的な発見によってではなく、既存のものを“新しく”組み合わせること(新結合)によって起こされると言っているのです。
よく見ると、アップルを立ち上げ、ipadやiphonを開発したスティーブ・ジョブズの商品開発がまさにこのやり方なのです。
必要なのは、ゼロからの技術開発ではなく、既存商品・技術に新しい価値を見つけ、その価値を形にして提供することであり、イノベーションは科学的な新しい発見から始まるという思い込みが、日本からイノベーションを生まれにくくしているのではないかと思います。
ジョブズは、新製品開発の世界で、イノベーションを起こし続けた一人ですが、彼がどのように商品を開発してきた、少し振り返ってみましょう。

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