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012.三井住友銀行横浜支店(旧三井銀行横浜支店)

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物012/本町通り周辺≫
*正面から見ると、4本の太い付け柱の大オーダーが、存在感をもってぐんと迫ってきます。古典様式には珍しく大きな窓も特徴的。左側側面にも2本の大オーダーがあります。完成以来90年弱、銀行業務を継続している貴重な銀行です。
 
 ■88年間銀行として現役稼働
 生糸貿易を支えた企業の強力な支援者となったのは銀行でした。前に紹介した旧富士銀行横浜支店(005:東京芸大大学院研究室)もそうですが、銀行のファサードに古代建築を模した2,3階を通した付け柱のオーダーなどの意匠が多いのは、そもそも日本の銀行が横浜から始まり、そのデザインに銀行のイメージとして採用され、それが全国に広まったためです。
 本町通りでみれば旧三菱銀行(011)の2ブロック先、横浜開港記念館の西側、桜木町寄りにあるのが、三井銀行横浜支店として昭和6(1931)年に建てられた三井住友銀行横浜支店です。昭和初めの完成以来、現在もまだ90年をこえて銀行業務を継続している貴重な銀行です。
 
 本町通りを歩いていると、中ころに正面に向ってずんと太い大オーダーが立ち上がっているのが目につきます。天井が高いので、有に一般のオフィスビルの3階分ほどの高さがあるように見えるほど存在感があります。
 設計は、古典主義の大御所として知られるトロ―ブリッジ&リビングストンという米国の建築設計事務所で、この事務所はほかにも東京の三井本館、大坂の船場支店などいくつか三井銀行の店舗の設計を担当しています。
 
 ■内部もそのまま活用し現役で稼働

入り口も多少手が入れられてはいますが基本的に昔のまま。
入った中もこの雰囲気なので、近くにあればぜひここに口座を設けてみたい銀行です。

 様式は、クラシック・ネオルネサンス式で、道路に面した正面に付け柱として4本、側面に2本の円柱を置き、その柱にタテの溝を彫り、柱頭にイオニア式の巻貝の飾りをつけています。
 外壁も付け柱も花崗岩で、鉄骨鉄筋コンクリート2階建てなのですが、一見すると石造りの古典主義建築様式のように見えます。
 内部にも、ロビーに八角形のコリント式オーダーが立ち上がり、床、壁、客間、営業室、階段部屋・・・などが大理石張り、という本格的な作り。いまでも銀行として使われ続けているのですが、多分、老朽か所を補修するくらいで、大きな改造はされずに来ているのでしょう。石造りの堅牢さを改めて感じる建物です。2階分は優にある高い天井にたくさんのライトが光り、安定感と重厚感はゆるぎありません。
 ファサードだけでなく、内部も当時のままを活かして業務を継続している銀行として、一見の価値のある貴重な存在です。このITの時代に、それをどのように可能にしているのか、目に見えない部分にも非常に興味のあるところです。

 ■事務所として使い続ける努力に拍手!

柱の基部の様子。きりっとした表情がお分かりと思う。
よく手入れされていて、働いている方々の愛情が感じられます。

 保存か/活用かという二者択一ではなく、そのまま現役の建造物として使い続けられるというのは理想なのですが、情報化時代になると、接続するPCも増え、室内の電気配線の増設を含めた効率的な運用が求められてきます。
 そうなると改装が避けられなくなってくるのですが、たぶんもともとの構造設計によって、次の時代への改装の適否がきまるはず。長い間使い続けられる良いデザイン、普遍的なデザイン、という観点で見ると、単にファサードや外観だけでなく、むしろ、業務の変化に対応できる基本構造が問われるのではないかと思います。表に出てこない裏面では改装が重ねられているのかもしれません。

上部に軒が張り出していて、その軒にぐるりと装飾が施されています。

●所在地:横浜市中区本町2-20

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