小説:仮死451 度

”社会についていけない人間を見ると、たぶん誰もが思う、生まれた時代を間違えたと。
 病院の待合室。精神科。音声の無いテレビの字幕付きワイドショーから目を離し、手にした華氏451度の表紙をみる。思い出す台詞。

”そうよ。ときどきあたし、年よりとそっくりの気持ちになるの。おなじ年ごろの子供たちが、かえっておそろしく思われてくるんだわ”

そして生まれる時代を間違えた人間は不幸になる。そしてよく精神病院に入れられる。夜道を歩いては不審者と言われる。本を燃やす恐ろしさより、僕が共感したことだ。

僕も色んな人間に言われたことがある。生まれて始めて買ってくれと懇願したCDがハービーハンコックのメイデンボヤージュだった時も言われた「ジャズだって?うそだろ?おまえは生まれる時代を間違えたんだな」と。

嫌な思いで。待ち時間の退屈。捲るページ

華氏451度。作者:レイ・ブラッドベリ
50年代のディストピアSF。本を禁止された世界の話。SF文学というジャンル・・・まぁ僕は文学というのは良くわからないのだが、とにかくSFがいつのまにか文学になった経緯の中にこの作品はドカンと座っている。SFの詩人、レイ・ブラッドベリの名作。そして火星年代記とならび有名。というか今では誰も火星年代記は読んでいなくて、華氏451度のほうがみんな読んでいるし有名だし、僕もよく読んだ。

でも、その「みんな」ってやつはが誰なのかは知らない。
そもそも読書に友達なんていない、いつも一人でやるもんだし、孤独の共有は本の中の絵空事で、一人ぼっちはものを書き現実から眼をそらす。
そのうちに出版業界は下火も下火、電子書籍はギリギリ、紙の本に至っては下降線は致命的なラインを超え、近所の本屋はまたもや潰れ、お手軽フィットネスジムへと変貌する。本よりも筋肉。たしかにそうだ、紙の本の質量じゃロクなトレーニングはできないし、マシンのほうが効率的。けど、それでも腕立てふせをする時に背中に大量の本をつめたリュックを背負っている。なぜ筋トレしてるかって、医者にやれと言われたんだ。この市立病院の医者にだ。

精神科の待合室で開いたのは、ハヤカワ文庫から出た華氏451度の古いバージョン。華氏451度にはいくつかの翻訳版があり、個人的には新訳版のほうがおすすめで、作中に大量に登場する引用箇所もわかりやすくなっている。だが、旧版はそれがとてもわかりにくいので、とにかく読みにくいし理解しにくい。

だからある意味僕は好きだ。旧版は引用箇所がはっきりとしない、そのせいでSF詩人ブラッドベリの意味深ポエミー文章がよけいに意味深になっているし自然と引用で言葉を作っている形になっているのがいい。あのページはどこだったかと読みながら、クセが強すぎる仕上がりの旧版のページをめくる。

“ かつては書物が、ここかしこ、いたるところで、かなりの人の心に訴えていた”

そうだこれだ。なつかしい言葉。どこで最初に読んだろう。図書館だったか?そうだな、ちょうどネットと本がすれ違うころだった。
本は日の中から堕ちてきて、ネットは暗闇から生まれた。
そして、本はそのまま影のさらに奥へ、暗闇へと真っ逆さま。
一方のInternetは成長し日の当たる場所へ。そして、いまや流行のどまんなか。政治・経済のどまんなか。コンテンツも全てここから生まれている。そうだ、まるでかつてのテレビとラジオ。けれど、僕がこのふたつに出会ったのは、ちょうど重なり合って、いいかんじの日陰で、かなり仲が良かった時だったんだよ。

“ところが、その後地球上は、眼と肘と口とが、ぐんぐんと数をまして、人口は倍になり、三倍になり、四倍になった ”

そうそう、図書館だ。授業に出ずに行っていた。それか部屋でパソコンをやるかだよ。学校?嫌いに決まってる。未だって嫌なんだよ人が集まるところは。だから僕にはこの二つが唯一の居場所だった。誰もいない図書館が好きだった。えーと、でもこれは何かの引用だったか?ああ、やっぱり新訳版のほうがよかった。やっぱだめだなわかりにくい。ごめんさっきのはウソだ。なんだこれは、検索してみるか?

「そう!ころさないと!しんでないよ!ころしてころして!」

頭を上げると、前の座席で子供がやっているゲームを必死に応援する母親。とても楽しそうだ。きっとゾンビと戦うタイプのゲームでもやってるに違いないし、僕もああいうのは好きだ。ゾンビはいい。とくにロメロは傑作だけど、あの親子はここはショッピングモールじゃないってことも知らない。
しかし子供に罪はない、親はどうかしてるとしても、どうせここにいるのは精神疾患者。そして僕も精神病患者で、大人だ、だまってページに眼を戻す。

”映画、ラジオ、雑誌の氾濫。そしてその結果、書物はプディングの規格みたいに、可能なかぎり、低いレベルへ内容を落とさねばならなくなった”

「すごいうまい!あ!それもころしたほうがいいんじゃない?」

そうかもな、たしかにそうだ。応援するのはいいが、ここは精神科なんだ、応援なんて余計なんだよ。もうとっくに手一杯、そう思わないか?
と、隣の女が僕が見てることにがきついた。洗っていないような汚い金髪。クマのできた顔。そして毛玉だらけの古びた赤いジャージ。世間じゃ避けられてるが、ここでは良く見るタイプ。というか、前の診察でも見た。
けど彼女が見ていたのは僕の本だ。
そいつの手にはスマホがあって、ちらっと見える画面じゃSNSのタイムライン。見ちゃわるいなと思って眼をそらすが、女はずっとこっちの本を見続けてる気配がする。かんべんしろよ、そんなに珍しいか?ただの小説だよ。あんたも昔読んでたろ、たぶんロクでもないやつをさ。

”本だって、それにつれて短縮され、どれもこれも簡約版。ダイジェストとタブロイド版ばかり。すべては煮詰まって、ギャグの一句になり、簡単に結末に達する”

「ころさないと!ほらあぶない!ああうまい!すごい!あ!そいつ生きてる!ころされちゃうよ!」

ついにアタマに血がのぼりはじめて再び顔をあげるが、親子の顔をみてため息がでた。こんなところでキレて騒いだらこっちがヤバい。ここは精神科で、僕はアタマのおかしい病人で、この母親か、それとも子供が、もしくはどちらも病人なんだと言い聞かせる。次の患者が呼ばれる。はやくしてくれよ、ここは好きじゃないんだ。

”映画だっていよいよスピード・アップだ。わかるか、モンターグ。これだってスピード第一なんだ。カチ!ほら、大急ぎで!ペースは速い。上だ、下だ!内だ、外だ!なぜ、どうやって、なにを、どこで?"

「すごいねー上手い!殺して殺して!あ!また出てきた!そいつやっつけないと!悪いやつよソレ絶対!」

もうこいつらがなんだろうがどうでもいい。子供だろうが関係なくクソだ。ほらはやくしてくれ。まだかよ。なんでこんな遅いんだ。いつもはもっとはやいだろ。一体前のやつは何を話し込んでる、黙って薬だけもらって、悩み相談はカウンセラーにやれよ。
それともあれか?はじめてこの病院にきたやつか。ああそうだ。ぜったいそうだ。今ごろペラペラ相談してるんだろ、私はこんなに困ってる、生活保護を受けていて、自立支援が必要なんだ、助けてくださいお医者さまって。
まったくわかってないよあんた。いいか、ここは速さだけが売りの市立の精神科で、教会じゃないし、そいつは神父じゃない。そいつの顔をよく見ればわかる。あんたと同じだ。きがつけよ。ここは病院でありコンビニで、そいつは医者でありバイトで、ホワイトでなおかつブルーで、僕たちはそいつと同じ色の顔でレーンに並んで、ヤツに注文する安物のジェネリックを考えてる患者であり客なんだ。ほしいのはスピードだよ、スピードスピード・・・だめだだめだ、やめろ自分。ああ、この音のせいだ。ほんと誰もうるさくないのかコレ。待合室でゲームやって騒いでんだぞ?あんたもそう思わないか?

”わかるだろうな、モンターグ?これはけっして、政府が命令を下したわけじゃないんだぜ。布告もしなければ、命令もしない。検閲制度があったわけでもない。はじめから、そんな工作はなに一つしなかった!”

隣に眼をやると毛玉だらけ赤ジャージの金髪女は自分の手元に眼を戻している。乾いた指をすべらせるひび割れた機械。それを見て女はわらっていた。なにがおかしいんだこいつ?機械みて笑ってるぞ、気持ちわるい。
変なやつがいると思い、誰か気がついてないかと反対側をみると同じ機械を見ていた。新品。洒落たカバー。ストラップ付き。赤、茶色、白、うつむく先に並ぶ電子の機械。茶色、白、灰色。一瞬、それが何かわからなかった。
自分の手元に眼をやると、そこにそいつはない。
あるのは煤けた茶色の本。縦並びのインクの文字。
まずい、これはまずいぞ。
弾かれたように少しだけ本をバックの影にかくし、片手でバックの中をまさぐりながらページをめくった。

"それと同時に、僕たちは人間にのこされた哲学的時間、沈思瞑想にふけるわずかの時間を失うことにもなったのだ”

「やばい!ころされちゃうよ!ああ・・・しんじゃった」
「もういっかいやる!」
「よーし!次はやっつけよう!」
「ねぇまだかな!みんなまってるのこれ!」
「ごめんねぇ、おかあさんの番はまだ先かな、いつもはやいんだけど」

声が終わり、こっちを見ている子供。僕は慌ててスマホを出した。
別にビビってるわけじゃない。言葉の意味がわからないからネットで検索したかっただけだ。沈思ってなんだよ。こんな文字あったか?

”ちんし(物事の本質などを)静かにじっと深く考えること”

ああそうだ、たしかそんな意味だった。ちんし、ちんし、かわいいな、ちんこ瞑想。だいぶ悟ってんじゃん。でも瞑想ってなんだよ、沈黙のほうが良い気もするよ、黙れってさ、言ってやればいいだろ。
でも僕は口には出さない、そうすりゃ狙われるのは僕だ。あたまがおかしいのは僕じゃない。となりの女とあの親子だ。
それにちんこなんて口に出すわけがないだろ?まわりと同じにしなきゃな、それでいい、これならいい。本だけじゃダメだ、スマホがなきゃ、noteも書けないだろ?本を左手に、右手にスマホ。それからメモ帳を開いて文章を書く。いい感じの日陰があるじゃないか。あの路地裏はいまや高速道路になってしまったが、そのガード下は今も暗い。ほら聞こえる。騒音の中、周囲を見回してから、暗がりでスプレーを振るあの金属音。しびれてきたろ。やるんだ。この本の唯一の欠点は、本を読んでばかりで、書かなかったことだ。さあやろう、表には出せないような、ろくでもないことをやるんだ。それでいい。書けば落ち着くんだ。なにもかも正しくなるんだ。

メモ帳機能 タイトル無し


”というわけでこの文章は病院の待ち時間に書いている。
眼の前の子供はまだ騒いでいるし、診察はまだ押している。
そんなくだらない時間は昔から何かを見て、その感想を書いて、インターネットに流す、それが僕の時間の過ごし方だ。あたまよさそうだろ?
 けど僕はアタマが実際は悪いし、学もない。それにインターネットのスペルは調べないと書けない。でもほらInternet。変換機能。これでアタマが良いフリか?いいや、そもそもアタマなんて良い必要がないんだよ。
だから、このnoteやらに書いてある文章はわけがわからない。インプットとかアウトプットとかさっぱりだけど、食ったものがクソになるし、クソは便所にすべきだってことくらいわかる。常識だよ。アタマよりそれが僕らみたいなやつに一番大事なこと。常識は礼儀じゃない、みんなと同じように生きる演技をやるための台本だ。
けどここには、演技ができないやつらが集まってるから、少しだけ僕の演技がおかしかろうが気にしないだろう。

それでも僕の本はずいぶん目立つ。こんな場所でも。
なんせまわりは誰も本を読んでない。精神科だぞ?あたまがおかしいやつは本でも読めばいいのに、みんなスマホだ。いつのまにそんな演技がうまくなった?それから、みんなに見られている気がしてならない。演技が下手なやつがいるっていう感じだ。今も子供が見ているし、あっちからもこっちからも見られてる気がする、あいつ「紙の本を読んでるぞ」って。
なら、いよいよパラノイアに襲われはじめたかもしれない。
気休めにコンピューター様バンザイ!私は幸福で完璧な市民です!と叫びたいけど、誰もきっとわからないよな、もうこいつも古いゲームさ。古いものは逆効果になる。目立つのは最悪だ。
けどやばいな、くそ。本当にコンピューター様が常に見ている気がしてきたよ。ほらあそこにも、ここにも、こいつはみんなコンピューターを持ってるじゃないか。どうするんだ、やつらコンピューター様を通して、密告する気だ。あの場所で裁きにかける気だ。
いや、あいつらも見張られてるのか?僕もずっとコンピュータ様にみはられてるのか?この手の中で。
『バンザイ!コンピューター様バンザイ!』
とりあえず書いておこう、気休めでいいんだ。あとは小さく口ずさむ。まわりにささやかなアピール。僕はまともだって伝えなきゃ。でもデカい声でいったら逆にあやしまれる。そういうアピールは上手いことやるもんだ。怪しいことはやるものは反逆者にされてしまうんだ。
ほら気の所為にきまってるだろ、僕はまともだ、そして幸福で完璧な市民です。僕は幸せです。精神医療という幸せへの道を歩いています。ありがとうございますコンピューター様。
だめだ、やはりこれを書く最中にアタマのどこかにあるはずのない炎の影があらわれはじめてる。はやくしてくれ。勘弁してくれ。まずいことになってるんだよ。くそ、子供が指をさしてきてる気がする。やめろよ、僕は反逆者じゃない、それは隣の女だろうが、こいつは怪しいんだよ、どう見てもおかしいだろこの格好。なんだそのバックの汚い人形、ちいかわ?ならアカだろ。間違いないこいつはアカなんだ!ちいかわはアカの証拠だ!コミュニストのマスコットだ!
だから書くべきだろ、密告するんだ。市民のみんなにさ。そうすればコンピューター様もわかってくれる。こいつが反逆者で、ネットでアカをひろめてコンピューター様に反逆するアンチテクノロジーのコミュニストだってことを言うべきなんだ。きまってるさこの反日極左の売国奴が。わかってる、やるしかないんだ、でなきゃ自分の本が焼かれて、この小説みたいに赤く燃えて、僕が目立っちまう。

いやコイツを売るだけじゃ助からない。もっとデカイやつが必要だ。そうだ、やつを売るんだ。あの反逆者をいまこそ晒し上げるべきだ。

だからこうして密告するしかなくなった。テーマは華氏451度。かの有名な「本が禁止になった世界」のディストピア小説だ。

告発!レイ・ブラッドベリ!そしてコンピューター様万歳!

敬愛なるInternetの諸君!
すでに私が疑われているのは知っている!本を読んでいたからだ!
多くのものは怯えているだろう!あのカビ臭い本を読む危険分子は古臭い思想を持ちノスタルジーによってコンピューター様に反旗を翻すものだと!
おまけに私は精神科の待合室に居た!そう私は精神疾患をもっている!そんな危険分子が本を読めばたしかに反逆者と疑われても当然だ!

だがしかし!その告発をしたものこそ反逆者である!やつの身なりをみろ!間違いない!やつは古本屋に出入りする!ビレッジバンガードに行く!宇宙堂にも行くようなやつだ!そうだ!あいつの家にはたんまりの本があるに決まっている!そいつが助かりたいからと僕を売ったにすぎない!愚かで哀れなアカの反逆者だ!

だが私は違う!私は反逆者の証拠を掴むために本を読んでいたのだ!そして本の中には何もない!くだらん虚構の世界にすぎん!思想!哲学!そんなものがなんの役に立つ!どの本も言ってることはバラバラで、ただ喧嘩をしているだけだ!

その中でも、もっとも危険なのがこの本だ!そうだ!怯えるな諸君!敵を知るためには本を読むことも時には必要なのだ!

だが読んだものは少ないだろう。けれど知っている。この本が我々のInternetの敵。いや知らなくてもわかっている。Internetにはこの本の情報はほとんど揃っているのだ。初耳でも聞き馴染があるだろ。

僕はSFが好きだし、この小説が有名なSFディストピア小説だってことも知ってるし、映画も見たよ。トリュフォーのやつ。あれもよかった。ラストが綺麗すぎるのはちょっとあれだけど、眼には良かった。僕は眼も悪いから、ああいうのは必要なんだ。でもトリュフォーはアカだ。間違いない。

だがこいつこそが本当の反逆者だ。レイ・ブラッドベリ!
やつの書く本は意味不明なとこが多すぎる。だが明らかに反体制的で、SFかどうかすら怪しい!そうこの本こそが!アカの証拠である!おちつけ諸君、怯えるな!たかが紙だぞ!焼けば終わる!そして自分で本を焼けば大丈夫だ、24時間以内なら許されるのだ!

で、この本の内容は別に説明しなくてもいいけと思う。Internetにつながってるはずだから、誰だって調べられるはずだ。コンピューター様のおかげさ。
それからブラッドベリがInternetはゴミだと言っていたこともわかるだろう。そう、やつは反逆者だ。コンピューター様の偉大さを理解しないんだよ。コンピューター様の偉大さは神と同じ。けどやつは違う。まるで反対だ。

おかげで電子書籍化まで抵抗したし、やつのせいで図書館は未だ健在。検閲への抵抗は続いている。華氏451度とはInternetとコンピューター様の帝国への反逆でもあるが、それは許されない。そして数々のInternetへの反逆的発言を繰り返してきた。そうだやつは言ったのだ!Internetはゴミだと!

そんな反逆者・レイ・ブラッドベリが書いた本の内容は、偉大なるコンピューター様のおかげによりInternetで簡単に閲覧できる。解説、要約、ダイジェスト、なんでもござれ。忙しき我れら市民は10分で内容の重要なところが理解できる。

つまり、主人公のモンターグってやつはファイヤマンという本を焼く仕事、というか仕事がなくなった消防士の成れの果て。

そいつが若いポエミーな女の子と出会う。クラリスっていう女の子だ。
そうだ、もう知ってるだろう。この子は逆にほんとうに最高なんだ。めちゃくちゃカワイイ。二次創作をやったことがあるくらいにカワイイのさ。なんせ夜の街を散歩するのは禁止されてるのに歩いて、落ち葉で遊んで、たんぽぽ占いだのして、「なぜ?」「どうして」などと聞いてくる。この世界では僕と同じく精神科につれてかれているらしいが、まぁ理解できる。世の中ってのは自分で評価することはできない。評価するのはいつも他人と社会だ。そしてクラリスは目立ちすぎて、演技は下手だ。そうなるしかない。
でもナチュラルだから良いのさ。舞台の上で踊るのが下手でも、街の中を歩くのは誰よりも上手い。同じ精神疾患者でも僕みたいな人間とは真逆だ。彼女は輝いてる。ろうそくの火みたいに綺麗だ。だからこの待合室でとなりにクラリスがいればどれだけよかったし、きっといろいろ話してくれて・・・いや違う、コンピューター様。僕は演技なんてしていない。本当のことを言ってるんだ。コンピューター様バンザイ!Internet万歳!でも諸君らも知っているとおり、現実はだいたいクソだ!だからこそ我々はInternetとで幸福を目指すのだ!

そして続きだ!

それからクラリスとモンターグが出会う。
モンターグの妻ミドルレッドが自殺未遂。
睡眠薬の大量摂取。血をぜんぶぬきとって翌朝おなかが減ったわ、おなかが減ったわとパンにバターを塗る。
この奥さんはテレビ中毒ラジオ中毒の消費主義の象徴。つまり幸福な市民であるるわけだ、昔のな?

で今度はアングラ図書館を作ろうとしていた老婆が密告され、その家を焼きに行く。
しかし婆さんは抵抗し、最後はマッチをすって焼身自殺。
で、モンターグはその最中に本を盗んでついに本に目覚める。

まぁそこまでもどうでもいいし、気にスべきではない。
反逆者が非業の死を遂げるなどは書いてはならないしな。それは反逆者を増やす行為だ。

で、大事なのはクラリスがそうそうに死ぬことだ。

事故。いや他殺?わからないがとにかく退場。
まじかよ、いやマジかよ大先生。この子を退場させるかここで・・・ってところでもうまた相性が悪くなるのを感じる。もっと引っ張れたろうよ、なんでこんな良いキャラをさぁ、この作品の良心をさぁ、もうさぁ、ああもう何回読んでもため息しか出ない、なにやってんだよブラッドベリ。だからトリュフォー版はああなったんだろ。気がつくのが遅いよ。・・・いいえ、違います!彼女は反逆者ですから!もちろんですとも!やつはアカです!

そして問題なのは、モンターグが以前から本を盗んでいたことだ。
この男、なんと盗んでは貯めて盗んでは貯めてを繰り返し、換気口の裏に積本をしていやがったのである。
これは有罪だ。彼は不幸な市民である。だが読んでいない、それならばまだ間に合う。
ところが、やつは読んだのだ。本を。
やつは嫌いな男から、にくき敵となったのは言うまでもない。そして恐るべきコミュニストの道へと足を踏み入れたのだ。

ここが最も恐ろしいところだ。わかるか諸君。
こいつは本に興味がないといいながら、本を言えに持っていた。
この流れがブラッドベリの周到さだ。つまり、本をかつて読んでいた人間にたいして、この主人公は共感を読んでしまうのだよ。だからこそ、もはや本など忘れたはず人間が、これを読んでハマってしまうのだ。なんて危険なプロットなのだ!

だが安心してほしい、ブラッド・ベリの本はだいぶポエミーだ。だから、ちょっとやそっと本を読んでみようと思った程度ではなかなかハマりはしない。わたしもそうだ。こんな長ったらしいポエムを読むなど、時間のムダでしかないからな!

だからこそ要約で十分!で!公園で詩を読んでた反乱分子のインテリ博士と合流し、ついには本の印刷を計画し、さらにはファイアマンたちの家に本を隠して密告し、やつらを売って燃やしてしまおうとするのだ。

なんて恐ろしいことを考えるんだ。これだからアカの反逆者は。コンピューター様の生み出す素晴らしい世界をまるで理解していない。本など必要ない、必要なのはInternetとコンピューター様なのだ。

だがみごとその計画は失敗する、我らが同士、ファイアマンの所長ベィテとモンターグの妻ミドルレッドという幸福な市民たちの手によって。

所長ベィティはモンターグへの洗脳を試みたが、それは失敗した。学者ではなく衒学者とし育てられたこの男により行った知識による洗脳は通常成功するはずであり、この本が禁止された世界がなぜ出来たのかを説明したのだが、やつはそれを理解しなかった。いや、しようとしなかった。

そもそも本は禁止される前から滅ぶ運命にあった。それは誰にでも予見できたことだ。何万文字ものテキストをわざわざ紙で読むなんてことは非効率もいいところだ。
そんな時間があるならば、Internetをみるべきである。ここにはコンピューター様が作り上げた様々なダイジェスト版があるのだ。
それは本だけではない、映画も、アニメも、何もかもがダイジェスト版で存在するし、ダイジェスト版をつくまでもなく、彼らは勝手に視聴速度を上げ、長ったらしい前置きをすっとばし、重要なところだけを見ようとしてくれる。いや、自分たちが作り出す文字やコミュケーション方法すら以前よりはるかに短く、完結で、シンプルなものへと向かっていった。それがInternetなのだ。

そう、彼らはおのずと物語の重要な部分が何かをわかっている。
それは内容のあらすじだ。
あらすじこそ本筋である。それを知らしめたのがコンピューター様だ。
紙の本の世界で無かったのは、数字や言語とは情報という価値観だ。それがコンピューター様の革命により生まれ、広がり、文字をもって何を作るのかが肝心かを多くの人間が考えた。
数字と言語はサイトを作る、プログラムを作る、コンテンツを作る。そして機械を動かし、人を動かす。
つまり知ることだけでは意味がない。使うことが重要で、そのために不必要なものは装飾にすぎない。不必要な数字や文字は削ぎ落とさなければエラーの元だ。そしてシンプルであるべきで、どう始まり、どう処理され、どのような出力が行われたのか。それが重要なのだ。

しかしこの頃はコンピューター様の登場を予言できなかった。ブラッドベリ。彼が敵視していたのは、テレビ、ラジオなどのアナログな電子機器。
そして、それらに市民が夢中になることで考える力を奪われるなどというムダな恐怖である。教養、知識、そして文化の消失。とくに教養ってやつははなもちならない!あれはコンピューター様の敵!そしてInternet世界の敵であり反乱分子である!

情報とは知識ではない!誰かに専有されるべきものではない!それは公平に!無料で!かつ誰もが知ることが可能である!それがこのInternetである!情報とはそれそのものに価値があったり!知っているからや知らないからなどは意味はない!長さも短さも関係はない!

なのに愚かにもブラッドベリは、知識などというものに囚われた。
人間の脳の限界に囚われたのだ。ばかげた話である。コンピューター様とこのInternetがあれば情報はいつもで引き出すことが可能であり、知らないものも知っているも同然なのだ。この世界とつながることとは、我々は情報で一つになるということなのだから、知らないわけがない、ここにいる以上、諸君はすでに知っている!この先の私の発言も全て知っている。

なのに知識?教養?本を覚えて記録する!ばかばかしい!くだらないローテクで、カビ臭いインテリはいつもコレだ。衒学者になるなという点は理解できるが、彼もまた衒学者ではないか。知識があることを特別だと思っている。

なぜかもうおわかりだろう!そうだ!この本は引用だらけだ!過去の作品やら聖書やらの引用で埋め尽くされている!

なぜそんなことをすると思う!引用をするのは、権威を感じさせたいからだ。くだらんセンスとやらを感じさせたいからだ。バカバカしい。虎の威をかりる知識人どもが、知性主義者は昔からこれだ。自分の言葉で語らない。いつだって過去の偉人やら過去の名作やら聖書やらから言葉をもってきてならべて文字を着飾るような奴らだぞ。でもって、全身ハイブランドで固めるやつを非難するんだぞ。くだらんねまったく。
そんなやつほどInternetが嫌いでコンピューター様に反逆しようとする!なぜなら、ここが反知性主義の温床だというのだ。ばかばかしい。おまけに陰謀論者を反知性主義者と呼び出した。知性がないのはそっちだろうが!

そして、知性が権威であった時代がとっくに過ぎ去ったことを認められずいまだ本を読んでいる。知性はもう特別ではないことが認められない。あから、それらを電子化しInternetに組み込むことを拒否する。特別でなくなるからだ。なんとも笑えるだろ君たち!コンピューター様が作りあげたこの理想郷では、人間の傲慢さは全てがむなしく愚かである!

そして本を読まなくなった人間は歴史を忘れ、記憶すらさだかではなく、主人公のモンターグは妻といつ出会ったのかすら思い出せなくなり、さらにいえば、テクノロジーが戦争を加速させ結果的にニュークリアなボムが文明を破壊してしまうというあのラスト。
バカげているではないか、テクノロジーさえあれば記憶すら必要となくなり、核戦争も必要なくなるというのに。そうだ、この時代だろうがよく考えればわかることなのに、やつは怯えていて冷静な判断などできていない。そして反逆的であり、人類の進歩を信じてなどいない。そしてコンピューター様への侮辱がすぎる。

さらにだ、酷いのは破壊された街へと向かいながら黙示録の引用を思い出し、その言葉で何ができるかと考えている。非効率で意味不明で、テクノロジーへの悪意で溢れているように見える。だが明確にそれを明言できるものはない。つまり寓話的ってやつだ。ほんとうにこれだから詩人みたいなやつらは困る。はっきり言えば断罪は簡単だった。

そしてトリュフォー版では、人々は必死に詩や小説の内容を覚えるよう努力している。なんて愚かなのだ、それすらも、テクノロジーの進歩により必要なくなることがわからないのだ。

そうした我々Internet市民を反知性主義などと言うものたちがいる。だが知性なんてものは必要ない、必要なのは情報であり、ソースはつねにオープンにすべきだ。それに対して、知性主義者など古臭く愚かなバカどもだ。全ての情報は共有され、我々はこのInternetに巨大な情報の図書館を手に入れ、やつの図書館も電子情報に移している。なのにやつは図書館が大事だと言てInternetを否定した。なんて反逆的なのだ。やつは時代についけない男でしかないのだ。インテリへの信仰心がいきすぎた知性主義者。カレッジに行ってもないのに大学教授を生き残らせる?どうかしてるんじゃないのか!

しかし僕も鬼ではない。
不幸な男レイブラッドベリが、このように反逆的な人間となったところに同情的な部分はあるし、本人にはテクノロジーへの敵意が生まれた理由、そしてこのような反逆的文章が生み出された経緯も市民には知らせたい。反逆者も、生まれついての反逆者ではない、幸福になれなかった男なのだ。

この男は貧しい家庭の出身であり、幼い頃は田舎でそだち、それからハリウッドにやってきた。
だが家庭の事情と彼の本好きが異常にまですすんだせいで、ついにカレッジにはいかず、図書館へと入り浸り愚かにも作家へとなってしまったのである。そうです!あの古臭く長ったらしい名前の太古の文明へ!

やつは大学にいかずに図書館に進学したと公言しており、この頃から反逆者の傾向は強くなっています。図書館に住むものは変人と相場が決まっており、数々の変人が巣食う場所なのだ。

そしてなにを隠そう、この私も、かつては図書館に住むものだったのだ。

市民!誤解しないでほしい!私はもう図書館には住んでいない!私が住むのはこのInternetただ一つ!あのようなカビ臭い場所は反逆者の住む場所である!そして全ての図書館は図書の電子書籍化を急ぎ!無料公開を行うべきである!著作権法などという古臭い法律は捨て去るべきだ!

だがしかし、当時私は現実社会にまったくなじめない子供だった。
そして社会にも、学校にも行かず図書館に通う子供となった不幸な人間だったのだ。
現実は不幸で溢れている。私はその中で行き場を失い、図書館へと向かった。そこには多くの情報があった。それこそが私の求める世界だった。現実の社会などどうでもいい。クラスメイトとも話したくはない。私は情報を知り、それと対話したかった。

そしてコンピューター様と出会いその信者とで作り上げる情報の楽園、Internetという理想郷に出会った。その頃は小さかったこの素晴らしき世界に感銘を受け、情報大国Internetの発展に貢献してきた。そう!現実などという不幸な世界とは、私はもはや関係ない!なぜなら、私はここで不幸な記憶からも、現実の悩みからも解き放たれた幸福な市民となったのだから!

だが不幸にも、この時代はInternetがない!情報は図書館に行くことしか大量に触れることはない!とくに貧乏な不幸なものは!

そしてこの1950年初頭、アメリカは朝鮮戦争、冷戦、赤狩りがあった。
赤狩りについてはInternetの市民はすでに知るところであろう。
よって要約をはなすなら、この頃は図書館に検閲、そして図書館が燃やされるなどという噂が広がり恐怖していたのだ

赤狩りではアメリカ自体が恐怖に陥っており、その中では反逆者コミュニストの本を検閲するのは当然おこなうべき。そして一部市民団体が図書館を脅迫し共産圏の本を処分しようとする動きもああった。

しかし彼らは我々とは違う古い時代の人間。
つまりInternetがなく、本の内容を知らず中身を知るような手段がない。
よって、効率的にコミュニストの本を処分するのではなく、図書館ごと攻撃しようという話や噂もひろまっていた。

そしてやつは恐れていたのだ。アカの恐怖に怯える民衆は愚かだといいながら、やつだって冷戦に怯えてこの本を書いた。

そして、第三次赤狩りで図書館は本当に燃やされたか?いいや燃やされてなどいないではないか。やつはパラノイアに陥っていたのだ。本を失うかもという恐怖によって。

だがこの点においても、第三次赤狩りで我々は学ぶことがある。
それは情報統制が行われたことであり、やつがそれに抵抗していたことだ。

われわれもそうだ。検閲、情報統制にInternetの市民も怒りを覚えるものは多い

そう、Internetは数々の情報統制に苦しめられてきた。かつての黎明期の暗黒時代から今に至るまで、おおくの不幸な国の愚かな情報統制により、この理想郷Internetの市民として公に活動できないものは多く、我ら市民でありながら卑劣なコミュニスト共の手を逃れるため!あの恐るべき地下世界!ディープウェブに住むしか無いのだ!

それだけではない!Internet内部ですら近頃は言論統制を行おうとする反逆者どもがはびこっている!とくに我々の自由な発言や表現すら奪うポリコレの脅威はまるでかつての赤狩りだ!それはやつすら言っていた!レイ・ブラッドベリすらもだ!そう!やつは言論統制への反対という姿勢は我々と同じである。

そして言論統制を行おうとする世界に怯え、怒りを覚えたレイブラッドベリはアメリカのみならず、各国の検閲を調べあげた。アメリカだけではなく、中国、ソ連、ナチスなどなど、これらで行われた検閲に関する短編を執筆。そして作ったのがこの華氏451度である。

そしてテクノロジーへの恐怖!これは彼がかなり時代の波にのれない男であったと同時に、映画好きというのも影響している。

この時代テレビとラジオの台頭により映画業界の失速は著しかった。
映画好きのブラッドベリはこれも許せなかったろうが、さらにいえば
彼は元々ラジオで働いていた男である。
そのラジオの台頭とテレビの台頭により文化、すなわち情報が失われ、いずれ教育すらも失われるのではないかと恐れた彼はこのような作品をつくった。

ついでにいうと、車は怖くてこの頃まったく乗れない!そういう男である!

そして我々Internetでも、テレビへの反発があったはずだ!いまや忘れたものも多いだろうが!テレビはくだらない世界だった!だからこそココが重要だった!Internetでしか得られない情報!Internetこそが情報!そのはずだ!

そしてくだらん教育とやらももInternetはその役割を担う!いや!情報だ!幸福な国民には情報が必要である!それも理解しているはずである!

そしてこれらの知識も!私はInternetによって得たものである!そしてコンピューター様が簡略化し、要約し、翻訳したからこそ、この私ですら知り得る情報である!要約は教育を妨げるわけではない!要約は新たなものを生み出す!そして我々こそがヤツの言っていた教育であり知識であり本質である!そのスピードこそがサイクルをはやめるのだ!

そして、それはやつも同じことをやっているのだ!
それが引用である!
この作品は大変な引用がある!聖書なども多い!それはなぜかといえば
古き情報から新しき情報が生まれるからだ!やつは図書館で育った。つまり作品を見て作品を作る!ゆえに引用し続けている!そしてその作品を我々に見せた!そしてその作品をまた誰かが引用し新たな作品を作る!引用につぐ引用!これは要約と同じようなものだ!いやもっとひどい!引用は一部しかない!その他の部分などまるでない!借り物!とくに旧版は引用箇所すらわからない始末だ!

そしてどうだ!451の名前を引用して作った作品たちは、451の本質などまるで捉えてなどいないではないか!とくに華氏911!あんなバカ映画のどこに451の本質があるのだ!

そして、そもそもだ、本質とはなんだ?
作者の言いたい事か?この作品で何がいいたかったか?
ならば言えばいいのだ。文学?詩?そんなものをやるな、言えばいい。本質とは簡潔なものだ!簡単に述べられるはずのものを、わざわざまどろっこしく、長々しく仰々しくしたものを本質と呼ぶのは矛盾している!

”そのものとして欠くことができない、最も大事な根本の性質・要素”

本質が大事だとかいうやつは、そもそも本質を話せばいいだけだ!100文字で足りるだろ!諸君も思うはずだ!長ったらしい文章を書くぐらいなら、一言で言えばいい!ブラッドベリよ、Internetはゴミだといったろ。それが反逆的本質ではないか!

それをやつはただごまかし、プロパガンダを行ったのだ。周到なコミュニストであるが、かねてより文学や詩はこういうものだ。本質をあえて語らないことにより、その裏に本質を隠してきた。そして、それをヤツと似たやつらが読み取るようにしてきた反逆者達の暗号通信だ!打倒せよ!

ゆえにInternetでは文学は不必要であり詩も必要ない。簡略化することで常に本質以外は伝わらないようにすることが、こうした反逆者たちを産まない最良の手段だ!長文を打倒せよ!簡潔にのべよ!

そうして文学をかくれみのにし、やつは一体何が言いたかったのか?

その反逆的メッセージを解読することは困難だ。
そもそも文学や詩とは太古の不正確なプログラムであり、テキストを読むことで脳に出力を行うよう作られているが、その結果は読んだ人間により個人差がある。である以上、常に一定ということはない。それぞれ出力される結果が違う、まったく非効率な暗号なのだ。

そして解読のためには、このブラッドベリがこの文章を書いた時と同じ時代、同じ経験が必要なのである。よってブラッドベリ以外にこの暗号を解けるものは事実上存在しない・・・いや、本人すら解けないだろう。時代がたち、違う経験をつめば、やつすらこの暗号が解けなくなる。自分が何を言いたかったのかがわからなくなる。国語のテストは無意味だと多くの市民が考えるとおり、作者の言いたいことなど、もはや作者すらわからなくなる。なぜなら、本質を隠し、簡潔に書かないせいだ!

そしてやつの文章はあまりに詩的すぎる。
つまり本質の隠蔽があまりに複雑だ。なんて反逆的なのだ。この中にはそれなりに危険なものがある証拠。わかるだろうか。文学は危険なのだ。やつらは恐ろしいことを文字の中に隠して伝えるテロリストどもだ。
とくにこの本!こいつは危険なほど詩的だ。ディストピア小説ながら社会システムをおざなりにし、テクノロジーを否定し、消費社会への嫌悪にまみれていながら、ことさら社会も、構造もなにもほとんど描いていない。これがSFだと?うそをつけ、これは反逆者の教本、腹腹時計なんだよ。

そいつを周到に隠した文章を流布している。だが証拠はない。なぜなら暗号が複雑すぎるからだ。
しかし必ずある。作品を書きながらやつの脳は動き続けていき、最初の主張から最後の結論にたどり着く・・・つまり肝心なのは、文のはじまりと、その終わり。最初と最後・・・内容など関係は・・・

ま、まってくださいコンピューター様!話が長いわけではありません!要約を!そう!重要な箇所について説明しなければなりません!そのとおりです!すいません興奮してしまったもので!はい!

そう!コンピューター様の言うとおり!私の言いたいことは一つである。
やつは後に「テレビによる文化の破壊を描いた」などと言っておりますが、やつこそがその文明の破壊を望んでいたのです!この本を書いた時に!

そしてやつは狡猾にもラストを本質がわからぬよう、後に書き換え、暗号化を複雑化し一見それとわからないようにしたのだ!

説明しよう!通常華氏451度のラストは2種類とされる!
つまり小説版と映画版の二つである!


小説では戦争で核爆弾がおちて街が崩壊。それから詩の引用、つまり黙示録の内容を思い出しながら、それで何ができるかというていで滅びた街へと向かう。そこにいる人々に必要なのだという意味深なラストだ。ようは人類の未来のためになんちゃらだ。詩や聖書でどうなるものでもないのは誰の目から見ても明らかだ。

そして映画版では爆弾は登場せず、ポーの小説を焚き火のそばで子供に教える死にゆく老人。そして人々は本が失われても暗記して残そうと必死にその内容を暗唱しながら覚えているシーンでおわる。これも意味深なラストだが、さっきよりはわかりやすい。それに人類も文明も滅んではいない。

ただどちらも曖昧な内容なのは間違いないが、共通することがある。
火と引用だ。

この小説は火と引用の物語といっていい。
本をもやす火、ろうそくの火、戦争の火、さまざまな火がでる。
そして引用。引用はプロパガンダとして、人の感情を動かし、そして使命感にかられる。

つまり、なんだか人類の未来のために本の中にある情報が必要なふりをしている。そして本そのものではない、といった内容・・・火は燃やすことも、作ることもできる。引用は人をまどわすことも、ふるいたたせることもできる・・・わかっている!本質を!重要な点をいま語ろうとしている!

つまりラストは、この2つだけではなかった。

皆様はInternetの市民、すでに知っているはず。華氏451度には最初に「ザ・ファイアマン」と言われる小説があったことを。

そしてその詳細もご存知の通り。1951年のSF雑誌に載せられた一番最初の華氏451度であること。そして書籍化の時、これを大幅に文章を追加した。

その内容は書籍版と大きくは違わない。エンタメ性が低く、SFとしても描写が少ない、つまり華氏451度の要約版のようなものだ。

だが、明らかに違うのはラストだ。
しかし、やはりこれも火と引用でおわる
文明が戦争で滅びるのは一緒。街がボン。
そして本を暗記している老人のインテリとモンターグは生き残る。

だがその直後、こいつらが何をしたと思う?
なんと、こいつらは眼の前で街が、文明が吹き飛んだというのに、いきなり焚き火をしだして、そこでベーコンとタマゴを焼くのだ!楽しそうにな!

聞いたか君たち!ベーコンエッグだ!ベーコンエッグだぞ!?

そうだ諸君!やつらは別に街に人を助けにもいってない!必死に詩やらを覚えようともしていない!いきなりベーコンエッグを焼き出したんだ!

そして、ついには聖書や詩の引用を歌いながら、楽しげに朝食をしはじめるのだ!

そして最後はこう終わる!

”太陽は完全に昇っていた。"ああ、覚えているかい、スウィート・アリス、ベン・ボルト......"モンタークは気分がよくなった。”

なんだこれは!ベンボルトの引用で終わるとはなんだ!トーマス・ダン・イングリッシュのあの詩で終わるとはなんだ?そして元気になった?いま目の前で文明が!人類が滅んだのに!気分が良い!?

この愚かで浅はかで危険なエンディング!この物語の結果!これが本質だ!
やつはこの本を書いた時、くだらん文明を滅ぼして、古びたカビ臭いインテリどもだけ生き残って、原始的な生活に戻ることを夢見ていやがったのだ!大衆など滅びろとばかりに!

『そんなものは週末にキャンプ場でやればいいことだろ!どうして文明や人々をほろぼす必要がある!』
『ベンボルトってなんだ!あのアメリカの詩か!』
『パロディで有名なやつだ!こいつ人類滅んでベーコンエッグで引用パーティやってるぞ!』
『一部の時代遅れの老人インテリだけ生き残って楽しそうにするだと!大衆はどうでもいいのか!若者はどうなる!」
『反テクノロジーもいいところだ!燃やせ!』
『どうして目の前で文明が!街と人々が滅んだのに楽しそうにできるのだ!あたまがおかしいのかこの作者は!」

そうだ!そうだ!みなさんそのとおり!
文明が戦争で滅んだ直後に楽しそうにベーコンエッグを焼いて引用を歌う人間たちなど、とうてい正気ではない!その本質など我々が理解してなんになる!やつらは!年老いたインテリとそれを崇拝するモンターグは!大衆が勝手に滅んでいるのを喜びパーティーしてるんだぞ!!
おまけに古い詩だの聖書の引用を楽しそうに歌うだぁ?ようは古い書物の内容しっているインテリたちが、知識の自慢大会してるだけだぞ!バカな民衆はみな滅んで清々したとな!

そうだ!声をあげろ諸君!何が未来に何かを残せるかだ!老人と男だけ残ってどうやって子孫をのこすんだこいつらは!聖書で人工授精でもするのか!神がイブを作ってくれると願ってるのか!?だったらせめて本より技術書か女性を一人は残せばいいだろ!

 もうわかったろ諸君!こいつは御大層なこといいながら、結局は大衆を裏切っているし!未来なんてどうでもいい!大衆が!文明が!テクノロジー滅ぶのをみながら知識という札束で優越感にひたり笑うような奴らであり!破滅願望者にしかすぎないのである!
 なら!もはやどうでもいい!こいつの本質など考える必要など微塵もない!挑発的で過激な知性主義者の反逆者どもになんの理解が必要か!

諸君!結論だ!

やつは本質を隠してラストに巧妙な細工を加えた!人々のためになにができるのか?教養と教育だ?ウソをいえ!やつはそんなこと考えてなどいなかった!いや考えていたとしても、それよりも強い思想があった!そうだ!やつは進歩が!文明が!社会が!人々が愚かであると考え!世界があまりにも憎かったのだ!

そして、それをやつは隠していた!これが本になることは無かった!電子書籍になんて当然ならなかった!本来闇に葬りさられるものだった!

だがInternetが!コンピューター様がこれを残してくれたのだ!そう!我らInternetの市民がこの1951年の雑誌のデータを残していたのである!

そして私はそれを素晴らしきAI翻訳により読むことができた!やつは己の言論を統制しようとしたがムダなのだ!本が消えるのを恐れているわりには、己の本を消そうとする!だがムダだ!本は消えても情報は消えない!引用してやったぞブラッドベリ!貴様の好きな引用だ!

だからこそ私はここに、この本こそが反逆の火をつくるものとして、反逆者であるとコンピューター様に告発する!ああ!素晴らしく幸福な市民たちよ!Iやつに火を放て!コンピューター様万歳!やつは裏切りものだぁ!!この本はすべて燃やすのだ!時代を経てもこのメッセージは危険だ!この本は文明への反逆者を産むやつらの暗号であり!それを解き明かしたものはこの幸福な世界を不幸へと陥れる反乱分子となる!燃やすのだ!やつの本を燃すのだ!いますぐに!!”

診察


”というコンピューター様に書かれた文章を医者に見せてから、何分たったろうか。
何もいわない医者の顔をのぞきこむ。目がおよいでる。こいつもまさか・・・
「先生は華氏451度など持ってはいませんよね、あれは反逆者の本ですよ」
「いやあの・・・・ええまぁ読んだことはありますけど」
「読んだことがあるのですか!あなたもInternetはゴミだと言うんですか!」

「あいえその、ネットは面白いと思いますよ、はい、便利ですし、この病院のシステムだってそれありきですから」

「そうですよね!そのとおりですよ、それに技術ってのは我々を進歩させてきた、ホリエモンも言ってますよ!”僕は技術が世の中を支えていると思う。人間社会を豊かにしてきたいちばん大きな原動力は、技術者の力だと思っている"って!」
「あいえ、ホリエモンはそんな好きじゃないんで、なんか面倒くさそうだなっていう」
「どうしてですか!人間性なんか関係ないでしょ!大事なのは技術です!技術は素晴らしいことは間違いない!テクノロジーは進歩すべきだ!そして自由と豊かさを与えてくれる!なのにこの本ときたら、ほら!」

といって、僕はコンピューター様を丁寧にバックに戻すと、中からワシつかんだ華氏451度を先生の鼻先に差し出し叫ぶ。

「表紙からわかるでしょ!テクノロジーへの嫌悪感がまる出しだ!おまけに作中には消費社会しか描かれてない!やれテレビだラジオだと言ってるが、こいつはラジオで働いてたんだ!ならわかってるはずだ!消費のためには生産が必要で!そのためにテクノロジーがあったことも!そして労働者がいることも書いてない!なにが頭がバカになるだ!こいつは労働者がどんな生活を一切描かいてないのにディストピアだとかワケのわからんことを言ってるんですよ!なぜかわかります!それを描いたらテレビとラジオがバカなこと言ってる必要性が読者にバレるからだ!」

「あーいや、まぁその別に小説なんでこう何を書いてもべつに」

「考える必要が無いんじゃない、みんな疲れてんだよ!仕事して!労働して!ストレスためて!どうして頑張ってんのに今度はテレビとラジオでコメディ見ちゃいけない!先生!ここだけの話、僕は今でもテレビもラジオも使うんですよ。ああ、大きな声はださないでください、コンピューター様に聞かれるんで。そう、静かに聞いてください。だって仕方ないですよね、コメディが好きなんですよ!いっぱいいるでしょテレビとラジオにプロのコメディアンが!みんなを笑わせてくれるし、何も考えなくて良いと言ってくれる!そのためにコメディアンは必死に考えてる、だって仕事だからね!先生も好きでしょコメディ!お笑い!」

「あーそりゃまぁ、はい、もちろん好きですよ、仕事で疲れたらお笑いが一番ですよ」

「でしょ!このブラッドベリは、そいつを書かない!労働者を描かない!大衆を描かない!お笑いを描かない!その必要性を全て描かない!
それでみんな考えないとだめだよ?考えてるよみんな!おまえが文学だの詩だのくだらない事考えてる間!おまえが使ってるタイプライターを作って油まみれになってる人間が!仕事終わりのテレビでコメディ見ながらビール飲んでバカ笑いするのが一日の中で唯一の楽しみだった工場の職人たちが山程いるんだよブラッドベェエーーーーリィイ!おまえのいう詩やら文学でぇえ!大衆を救えるわけないだろお!それよりお笑いのほうがよほど人を救ってんだよおおお!」

「あーですからおちついてください、その発作今日はちょっとすご」

「そうですよ!こいつはパラノイアだったんですよ!テレビやらラジオが人々から考える力を奪って文化をこわす?なにをいってるんだ!みんな必死に考えて生きてるし悩みだらけだわ!先生わかるでしょ!ここにきてる人間たちはコンピュータ様をみてるから悩んでないんですか!悩みだらけでしょ!考えごとだらけでショー!生きるのすらせいっぱいで、頑張れなんて言葉すらそもそも余計ってもんでしょえええ!?」

「あの、ほんとうに頑張らなくていいですよ、おちつきましょう、深呼吸でもしてですね」

「だからこそInternetの市民として幸福に生きているのに!コンピューター様だけがこのクソな現実から切り離してくれるのに!わかってない!わかっていないよ!そして文化が壊れのを描いたとかいってるが、コイツが壊そうとしていただけだ!そして残ったのが引用大好き老人たち!なんでもかんでも引用つかわなきゃ話せないやつら?わかりますかこれ、どういうことか!」

「いえ・・・あのもう最初くらいからぜんぜん実はわかって・・・」

「押井守が6人残ったんですよ!文明がほろんで!押井守だけが生き残ってんですよ!最悪ですよ!想像してくださいよ!わかりますか・・・・つまりですよ・・・こいつは、押井守だらけ!ポスト・アポカリプスですよ!」

「押井・・・えっと、その押井って・・・」

「そうですよ!こんな地獄がありますか!毎日引用引用引用引用!聖書戯曲ハムレットォオ!」

「え?あ・・・え?」

「おまけに引用の出店元まで毎回言ってくる日常会話!遠回しも良いところだし!そもそも何をいってるかわからない!朝おきたら、生き残った押井の一人がいってくるんですよ!"「我々は夢と同じ物で作られいる…」
 W・シェイクスピア「テンペスト」第4幕第1場"・・・おはようで良いだろおおお!!何をいってんだよはっきり言えよお!」

「あーわたしもいまそう思います、ちょっとその本当に何をいってるか」

「そして!一言で終わることを長々と複雑にして永遠と語る!耐えられるわけがない!気が狂いますよ!そんで押井たちは毎日立ち食いそばが食いたいとか!学生運動ギャグとか!便器に金魚が浮かんで!踊って!ありえないでしょ!アカばっかりだ!アカしかいない!なんだこれは!」

「あーーそのアカってのがわたし、さっきから全然わからないんですがね、ええ、ほんとうに簡潔に言うってのは大事ですからね、そのですね、なにをおっしゃりたい」

「おまけに!華氏451度ではやた本が禁止だ詩だ文学が危険思想のもちぬしの証拠だといってるが、そもそもこの小説における「本」ってのはどこまで禁止なんだ!だいたい!本もないのにどーやって核爆弾みたいなもんが作れる!どうして戦闘機がつくれる!車も作れる!人々が、考えるなと教わっているディストピアだぁ?考えなきゃテクノロジーなんて進歩するわけないだろ!どこまで禁止なのか言えよぉお!読んでて気になりすぎて頭がおかしくなるだろおおおお!!」

「あーおちつきましょ、ね、机に頭をぶつけるとケガしちゃいますからね、ほら、こう詩的な世界観というか、あえてそういう表現っていうのもほら文学といいますか」

「詩!ああ!はなもちなりませんよあれは!やたら出てくるでしょ詩の引用って!あれなんでやるんですか!それからおまけに、引用をしたらなんだってんです?この本の嫌いなところはソレですよ!引用!引用!本がどうたら!知識がどうたら!そんなことより書けばいい!署長燃やしてる場合じゃないんだよ!今すぐその場で書けばいい!そしてその紙でもばらまけばいい!なんで誰も書かない!くだらん引用よりも、自分の言葉で書けばいいのに、誰一人やらないんですよ、わけがわからないでしょ!」

「あーもうはい、その、わけはわかってないですね、わたしも」

「そうですよ!この本!本当にわけがわからないし矛盾だらけなんです!でも、なんでかわかりますか、プライドが高いだけでどーしようもないくっだらない知性主義者共に大衆をバカにさせるためですよ!」

「あーいやそれはまぁ、うーん、えー、」

「僕にはわかるんですよ、これは不完全ってだけじゃない、プロパガンダですよ!都合の良いことばっかり書いて、知識が特別だと持ってる古臭い知性主義者がコンピューター様に反抗するためのプロパガンダだ!もはや恐怖による妄想を書いたにすぎない!その産物ですよ!で、感化されたやつらが本は大事だ、考えることは必要だ、今の社会は間違っているだの言うためにだ!けど、こいつらが今なにやってるか知ってますか!ネットでやたらと文章を書いてるだけだろ!本になんて書いてない!それなら本なんか無くなってあたりまえだ!書くやつがいなけりゃ読むやつもいない!無料で!誰でも!簡単に書きたいものを書けるInternetに情報があつまるのは必然だろ!なのにだ!読書好きのカビ臭い知性主義者どもは偉そうにも近頃の若者はどうだのSNSで書いてるんだぞ!ふざけるなよ!だったら紙とペンにでも書け!原稿用紙に書けよ!それから出版社にいけ!自費出版で本でも出せ!もしくは新聞にでもコラムのせとけ!自分のプロパガンダのためにInternetで何を言おうがムダなんだ!おまえたちもコンピューター様と消費主義とスピードの恩恵にありついてるのは誰でもわかってることだ!」

「あーいや別に便利なものを使うのは良いとおもいますよ・・・」

「だからやつらは嘘つきなんですよ!うそつきこそアカだ!それにレイ・ブラッドベリはインターネットはゴミとか言ってるし、これに共感するやつらはみなネットはゴミだと言い出すに決まってる!そしてしまいには”図書館に住むのです、コンピュータやインターネットに頼って生きている場合じゃありません。図書館に行くのです。確かに私も、今あるもの、使えるものは何でも使う。でも、熱狂的に生きたいんです。図書館での素晴らしい出来事を経験してほしいんです”とか言ってるんですよ、わかりますか?結局ネットは使ってるくせにインターネットはいつまでも否定してたんですよ!誰が熱狂するってんですか図書館に!熱狂とはInternetですよ!燃えているのは図書館ではない、Internetだ!」

「いやでも貴方もたしか幼少期図書館ですごされてましたよね」

「だから!僕は図書館とは縁を切ったんですよ!元反逆者だったこもしれないが!今はnternetの信奉者なんですよ!疑われるまえに自分から告白する!これが大事なんだ!スピード!わかります?そして図書館なんて、あそこはもう不便でカビ臭いし情報があまりに遅いでしょ!おまけにインテリ野郎ばっかりで気に入らないんだ!Internetは誰にもで!公平に!知識を与えてくれる!めんどうな長い文章もよまずにすむ!それが現代だしスピード!わかります!スー!ピー!ドゥオ!」

そういって僕は先生の前で本を叩く。

「スーピード!それですよ!待合室でこんなもん読んでるような時間なんて作ってはダメだ!SNSのタイムラインを見るくらいで済まなきゃ!病院だってスピードは大事でしょ!なんで大事かわかりますか!豊かな生活のためですよ!誰だってここには着たくはない!あんたも着たくないでしょ!できれば1日中ゴロゴロしてSNSでもみてたいでしょ!スキャンダル!密告!炎上!それをみて楽しんでたいでしょ!そのためにはスピードが大事なんですよ!最速の診察!最速の会計処理!それがあるからできるんですよ!田舎にいってスローライフとかいってるカスの反逆者どもはスピードのおかげでそれが出来てるのがわかっていないんだ!光回線を!5Gを!だれがおまえらのスローのためにスピードを追い求めたとおもってるんだバカものどもが!くたばれ環境保護団体!文明をなんだとおもってんだ!おまえらも文明のおかげで活動できてんだろうが!!」

「あの、ちょっとおちつきましょうか、あとそのスピードってのはこう隠語てきな何かですか?」

「本質ですよ!隠してなんかない!そのとおりの意味ですよ!僕がドラッグ中毒に見えますか!そのとおりの意味です!スピードですよ!素晴らしき消費社会!すばらしきスピードの世界!なのにどうしてです!ここの診察も今日遅い!クソみたいに話し込んだバカがいたんでしょでどうせ!そんなの追い返すべきですよ!みんな待ってるんだ!」
「あ、はい・・・」
「なのにこの本は!そいつを否定している!それどころか破壊を願っている!それで本や詩の引用でなにができるかって?それよりも残すべきは技術でしょうよ!詩の引用より壊れたテレビの一つでも残してくれたほうがマシだ!そこからパーツを取って!コンピューター様を作れるんだ!"アイディアに価値はない、それを実行できてはじめて価値になる”」
そういって僕はスマホを見せる。
「実行できない行動できない作れない、そんな文学や詩を記憶してなんになります。黙示録が起きたとして聖書があってなんになります。必要なのはテクノロジーそのものです、せめて技術書を残すべきだし、電子書籍にすべきだ、そんなもんは重くて持ち歩けない!」
「あーでも、たしか電子書籍ありましたよね」
「はい?」
「あいや、華氏451度って、わたし電子書籍で読んだもんですから、ほら話題になったじゃないですか最近」
「そ、それがなんだっていうんですか!素晴らしいことだ!」
「えっとその、紙の本燃えても電子書籍があると意味ないんじゃないかなって」
「意味はありますよ!それでこの本の意味がなくなる!本質なんてもんが消えて無くなる!電子書籍にさえなれば、この効果は薄れるし意味なんかない!そいつらはすでにコンピューター様の支配下だ!そして情報となればInternetに!コンピューター様の一部となれる!そして便利だ!かさばらないし!」
「いやでもその、もし世界が滅んだらその、スマホは使えるんですかね」
「も、モバイルバッテリーですよ!それに太陽光発電!それにもっと進化すれば別の初電技術も生まれる!電力を作る技術が失われることは無い!」
「それは、なぜ・・・」
「我々が覚えてるからですよ!簡単なのはモーターを使った発電だ。動かなくなった機械からモーターを取り出して、そいつをなんらかの方法で回転させる。ほらこれ、フレミングの法則ですよ、モーターは電気でまわせば回転するが、モーターを別の動力で回転させれば今度は電気が生まれる」
そういって僕はフレミングの法則をならった時の手をつくる。
「ラッパーぽいですね」
「フレミングですよ!あといまこんなラッパーいないですよ!」
「そうなんですか、ヒップホップはよくわからなくて」
「とにかく技術が必要なんですよ!」
「でもそれも覚えてるからできるんですよね」
「覚えなくても出来ます!Internet様とコンピューター様があれば!」
「あいやでも世界が滅んで・・・」
「世界が滅んでもできます!僕が覚えているからフレミングを!”私は、人体が自然に備えている抵抗力の大切なことを、
決して忘れることはできません”わかりますか!技術とは滅びへの抵抗なんです!」
「あそれはですね、フレミングでも物理学者じゃなくてペニシリンのフレミングでして、人間の自然治癒についての・・・」
「どっちでもいいんだよこのインテリがぁ!知性主義者かアンタも!いまさらフレミングなんかどうでもいいんだよお!医療も!あんたらもいつかAIになる!コンピューター様の支配下になる!いいかぁ!Internetは抵抗する!そのために本は燃やすべきなんだ!やつら全体主義者で社会主義者でクソ左翼の破滅的なアカの古臭い知性主義者共に!」
「あーはい、わかりました、そのとおりですね、はい、ほんとになんでウチの科にはAIがまだ来ないんですかねぇ、ほんと、受付もAIだし、内科の次は外科もこのあいだAI導入したのに、ああ、精神科はほんとうにながいしろ・・・ああ、いけない」

そういって先生はクマのひどい眼で時計を見る。

「それじゃあ、いつものおくすりと、それとコチラも試してみますか」
「はい?」
「ちょっと発作がひどそうなんで、新しい薬なんですけどね、まぁ副作用が出たらやめていいですから、1週間後またきてください」
急に頭が覚めてきて、僕は不安になって、つい聞いてしまった
「あの、それジェネリックですか?」
「いえこちらは違いますね、お値段心配ですか?」
「あいや・・・まぁいいですはい、ちょっともうアレなんで」
「はい、それでは来週また同じ時間におまちしております」
「えっと、あの・・・」
「はい、おつかれさまでした」
終わりだ。僕は席を立つ。その瞬間医師は早々とマイクに顔をむけ手元のスイッチを押した。
『56番の方、2番診察室までおこしください』
まだ診察を室を出てないというのに聞こえるこの音は、この先生の言葉ではなにより心に響いた。もう少し話したかったが、時間は大事だし、僕は話すために来ているわけではない、さっさと薬をもらうために来ていることを思い出させる。
さっきの赤い女が立ち上がってこっちに来る。すれ違う。次はあんたの番か、でも期待したことなんて起きない。密告は僕が先にした。
そして渡されたカルテを持って会計に番号札を持って向かう。今日の番号は55番だ。

会計


ここは順番待ちの世界だ。病院は最後までそれが続くし、どこよりもスピードを願う。どいつもこいつもイラつきながら。
そして診察がおわってもまた順番待ち。それでも昔よりは速くなったAI受付処理。受付に人がいなくなったぶん、コストも浮いて、速度も速くなった。だから人が受付をやって、昔どれだけ待ち時間が長かったのかと考えると寒気がするほどだ。

”きみにとって重要なのは、おれたちが幸福ボーイズであること”

そうさ昔に比べれば幸福だ。間違いなくそのはずだ。
なのに、それでも待つことは変わらない。そして、自分の会計番号がテレビのスクリーンに映るのを待つ人々の中、誰もが自動精算機に向かう列にはやく並ぶことを願う。まだかまだかといいながら、スマホを見ている。この僕もだ。本はもうカバンの暗闇の中にしまい込んだ。なにせ本では、今なにが起きているかわからないからな。
ああ、まだ時間がかかる。そう思うと、今度ははらがへってくる。苛立ちすぎて、頭がぐちゃぐちゃになって、なんだか寒くなって、はずかしくて、ひたすらはらへる。

”いまはひもじくて、たまらない気持ち。わたし、ゆうべのパーティーで、ばかなまねをしたんじゃなくて?はずかしいわ”

院内にあるコンビニに行く、医者に看護師それから患者でごったがえす中、唯一残っていたバターパンを握りしめ、列にならび、会計。
それから待合室に戻って食べると、冷えて固まっていた。最悪だよ。温めたほうがよかったが、めんどうなのでもういいと思い、かじりながらスマホを開いてSNSを見る。
そこでは今日もどこかのクソが炎上していた。リツイート数は223。つまりこれからってことだ。
そしてまた誰かがそれに引用で何かを言って、また何か引用でいっる。いやもう引用すらしない、アレだこれだ引用などせずにとにかく話す。
そう、全ては引用だ。
この世のこと、見たこと、聞いたこと、頭の中のこと、感じたこと、そいつを書くってことは、結局引用だ。わざわざ引用マークなんてつけるひつようがないくらい、なにもかも。そして火は次々と燃え移り、巨大な炎となる。そう思うと気分が良い。けどパンをかじると、やっぱりひどい味。なら火を見よう。なんで燃えてるのかはどうでもいい。それが気になるやつは火に近づきすぎるんだ。気をつけろよ。燃えているやつが誰で何をしたのかもどうでもいいし、燃やしてるやつが誰かもどうでもいい。興味がない。それはただ火をつけるための道具だ。

”火は愉しい。ものが燃え尽き、黒い色にかわっていくのは格別の楽しみだった"

そのとおりだブラッドベリ。あんたが言った一番のせりふはそこだ。とにかく、燃えるのが良い。それを楽しんでれば、あんたも売られることは無かった。考えるほうが悪い。なにもかも忘れて夢中になれば良い。現実もなにもかも、自分のこともなにもかも、世界のあらゆるものを全てを飲み込んで、なにもかも焼いてしまえばいい。Internetだけじゃない、あらゆるものを焼き尽くしていけばいい。そして、今薪をくべているやつらも、次の薪になればいいんだ。燃料はいくらでもある。火に近づけば燃やしているやつらもいずれ燃える。そして黒い蝶が、灰を撒き散らし舞う美しい姿が病院を飛び回る。燃えろ、燃えろ。そして僕のもとにいずれ蝶が舞い降り、火をつけに来い。僕はその火で、このクソ冷たいパンを温めるつもりだ”


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