分割と平行移動を使った足し算

今日は足し算の話をのんびりと書きたいと思います。

$${1}$$ という数を半分ずつに分割することで

$$
1=\dfrac12+\dfrac12
$$

という式が手に入ります。この式の右辺の第2項にある $${\dfrac12}$$ をさらに半分ずつに分割することで

$$
1=\dfrac12+\dfrac14+\dfrac14
$$

という式が手に入ります。この式の右辺の第3項にある $${\dfrac14}$$ をさらに半分ずつに分割することで

$$
1=\dfrac12+\dfrac14+\dfrac18+\dfrac18
$$

という式が手に入ります。同じことは延々と繰り返すことが出来て、$${N}$$ 回繰り返した結果として得られる式を総和の記号を使って書き表せば

$$
1=\sum_{n=1}^N\dfrac1{2^n}+\dfrac1{2^N}
$$

となります。$${N}$$ を「限りなく大きくする」ということを考えれば、右辺の第2項にある $${\dfrac1{2^N}}$$ は「限りなくゼロに近づく」ことになって、

$$
\displaystyle 1=\sum_{n=1}^\infty \dfrac1{2^n}
$$

という等式が手に入ります。「一番小さな値を持つ項をどんどん二等分していく」という単純な操作の繰り返しだけで得られる、というのが個人的には面白く感じるところ。

さてさて、次のようなゲームを考えてみます。表と裏が同様の確からしさで出るコインがあるとして、このコインを投げて、裏が出たらそこでゲームは終了、表が出たらゲームは続行してさらにコインを投げることにしましょう。このゲームが $${n}$$ 回目のコイントスで終了する確率は、コインを $${n}$$ 回投げた結果としてまず表が $${(n-1)}$$ 回出てその後に裏が出る確率なので $${\dfrac1{2^n}}$$ です。

上に書いた等式は、このゲームが $${n}$$ 回のコイントスで終わる確率の総和が「全確率」$${1}$$ に等しくなることを表している、という解釈が出来ます。さてでは、このゲームが終わるまでに行うコイントスの回数の期待値はどうなるでしょうか、というと、その期待値を式で表せば

$$
\displaystyle S=\sum_{n=1}^\infty \dfrac{n}{2^n}
$$

という和になります。この和 $${S}$$ を計算してみます。和の書き方を少し変えて(和の添え字 $${n}$$ を「平行移動」して)

$$
\displaystyle S=\sum_{n=0}^\infty \dfrac{n+1}{2^{n+1}}
$$

と表してみます。すると

$$
\displaystyle S=\sum_{n=0}^\infty \dfrac{n}{2^{n+1}}+\sum_{n=0}^\infty \dfrac{1}{2^{n+1}}=\frac12\sum_{n=1}^\infty \dfrac{n}{2^{n}}+\sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{2^{n}}
$$

と計算できます。一つめの等号は、$${\dfrac{n+1}{2^{n+1}}=\dfrac n{2^{n+1}}+\dfrac1{2^{n+1}}}$$ であることを使って和を二つに分割しただけです。二つめの等号ではいくつかのことを同時に利用していますが、それは (1) $${n=0}$$ のとき $${\dfrac n{2^{n+1}}=0}$$ であること、(2) $${\dfrac n{2^{n+1}}=\dfrac12\times\dfrac{n}{2^n}}$$ であること、(3) 和の書き方(添え字 $${n}$$ の「平行移動」)を変えること、です。$${\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac1{2^n}=1}$$ であることは既に知っているので、最後の等式は

$$
S=\dfrac12S+1
$$

と書くことが出来ます。これを $${S}$$ について解くことで $${S=2}$$ が分かります。

調子に乗って次は

$$
\displaystyle T=\sum_{n=1}^\infty \frac{n^2}{2^n}
$$

がどうなるか調べてみましょう。$${S}$$ を求めたときと同じような細工を施すことで

$$
\displaystyle T=\sum_{n=0}^\infty \frac{(n+1)^2}{2^{n+1}}=\sum_{n=0}^\infty \frac{n^2+2n+1}{2^{n+1}}=\frac12\sum_{n=1}^\infty\frac{n^2}{2^n}+\sum_{n=1}^\infty\frac{n}{2^n}+\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{2^n}
$$

つまり

$$
T=\dfrac12T+S+1
$$

となるので、これを $${T}$$ について解けば($${S=2}$$ は分かっているので)$${T=6}$$ と分かります。

さらに調子に乗ってもう一個。

$$
\displaystyle U=\sum_{n=1}^\infty \frac{n^3}{2^n}
$$

はどうなるかというと、今度は

$$
\displaystyle U=\sum_{n=0}^\infty \frac{(n+1)^3}{2^{n+1}}=\sum_{n=0}^\infty \frac{n^3+3n^2+3n+1}{2^{n+1}} \\
=\frac12\sum_{n=1}^\infty\frac{n^3}{2^n}+\frac32\sum_{n=1}^\infty\frac{n^2}{2^n}+\frac32\sum_{n=1}^\infty\frac{n}{2^n}+\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{2^n}
$$

つまり

$$
U=\dfrac12U+\dfrac32T+\dfrac32S+1
\implies
U=3T+3S+2=26
$$

となります。これはいくらでも続けられそうですね。結果だけを書いておくと

$$
\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{n^4}{2^n}=150,\qquad
\sum_{n=1}^\infty\frac{n^5}{2^n}=1082,\qquad
\sum_{n=1}^\infty\frac{n^6}{2^n}=9366
$$

などと続いていきます(実はこの先ずっと整数が続きますが、そのこともぱっと見だけでは明らかではない不思議ポイントで、そこも面白いところです)。


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