【師弟対話】読書とは何か対話 大師匠のまとめ④ -085

○大師匠の登場

大師匠:「さて、師弟の対話を見守っておったが、今ここに大師匠としての総括を述べさせてもらおう。」

師匠と弟子がじっと耳を傾ける中、大師匠は静かに語り始める。

大師匠:「弟子よ、読書を鏡、旅、種まきのメタファーを用いて見事に捉えた。これらのメタファーは、読書の多層的な本質を見抜くための鍵となる。読書は、ただ単に文字を追う行為ではない。お前自身を映し出し、未知の世界へと連れて行き、未来に向けて成長の種をまく、その全ての役割を果たすものだ。

『鏡』としての読書は、自己理解の道具だ。お前がどの本に惹かれ、どの登場人物に共感し、どのシーンに心が揺れるか。それは、お前自身の価値観や感情、そして人生観を映し出す。だからこそ、さまざまな本を読むことで、内面が深まり、時には新しい自分を発見することができるのだ。

『旅』としての読書は、視野を広げるものだ。異なる文化、時代、場所、感情に触れ、お前は現実では決して体験できない旅をすることができる。この旅は、お前の想像力を豊かにし、現実世界では感じられない深い洞察をもたらす。読むという行為が、お前を遠くへ、そして深くへと連れて行くのだ。

『種まき』としての読書は、成長の基盤を作り出す行為だ。お前が読んだ言葉や知識は、すぐに芽を出すものではないかもしれない。しかし、時間をかけて、心の中で芽吹き、根を張り、やがて美しい花を咲かせる。お前が成長するための土壌は、自らが耕し、育てるものである。種をまき、世話をし、大切に育むことによって、知恵が実を結ぶ。

そして『深く掘る』とは、の問いだ。私は思った。深く掘るという行為は、広く旅することと対極にあるように見えるかもしれない。だが、実はその二つは補完し合う関係にある。広く読むことで得られた知識や視点を、特定の分野で深く掘り下げることで、より深い理解に繋がるのだ。広さと深さ、その両方を備えることで、真の成長がもたらされる。

お前の言う通り、お前は今、種であり、根であり、土であり、花である。お前の成長は、お前自身の内なる力にかかっている。読書を通じて、知識や知恵を蓄え、自己を育てる責任は全てお前にある。そして、その成長の過程は、周囲に影響を与え、他者の成長をも促す力を持つ。

弟子よ、読書は終わりのない旅であり、学びの種を無数にまく行為だ。それは孤独な道のりでありながら、世界とのつながりを深める行為でもある。これからも多くの本と対話し、内なる自分を育て、さらに深い成長を遂げるがよい。そして、その過程で得た知恵を、他者と分かち合うことで、お前の旅はさらに豊かになるだろう。」

大師匠は静かに言葉を締めくくり、深い瞑想に入る。
しばしの沈黙が続く‥‥

弟子:大師匠、大師匠にとって読書とは?

大師匠:「ふむ、良い問いだな。『大師匠にとって読書とは何か』…それはまさに、私の人生そのものだ。私にとって読書とは、『無限の探求』である。無限の知識、無限の視点、無限の感情、無限の時間と空間。読書は、限られた人生を超越し、無限を感じることができる唯一の手段なのだ。
 読書は、人が体験できることの限界を超えさせる力を持つ。私が読書を通じて学んだことは、単なる事実や知識にとどまらない。書物の中には、時を超え、空間を超え、人の想像力や知恵を広げる力がある。古の賢者たち、遠い未来の想像、異なる文化や社会、それらすべてが一冊の本の中に凝縮されているのだ。」

弟子:「なるほど…。それで、読書を通じて得られるのは、知識だけではなく、もっと深いものなのですね。」

大師匠:「その通りだ。読書は知識の収集ではなく、理解の深まりだ。書物は、お前の心を耕し、疑問を生み出し、時には不安や葛藤さえも引き起こす。だが、その過程こそが成長であり、真の学びなのだ。読書を通じて、私は自分の限界を知り、世界の広さに気づかされた。そして、その限界を越えようとする意志を育てることができたのだ。」

弟子:「読書は、私たちに自分の小ささや限界を教えてくれるんですね。それでも、越えていく力を与えてくれる…。」

大師匠:「そうだ。私にとって読書とは、『心の旅』でもある。人は現実の世界に縛られ、日々の生活に追われることが多い。だが、本を開けば、心は自由になる。未知の場所へ旅をし、かつての偉人と語らい、未来の可能性を探ることができる。この旅こそが、私を若く保ち、常に新しい発見を与えてくれるのだ。」

弟子:「読書を通じて、常に新しい旅を続けていく…。それが人生を豊かにするのですね。」

大師匠:「そうだ。そして、私にとって読書とは、『対話』だ。著者との対話、そして自分自身との対話だ。読書は一方通行ではない。読んだ瞬間から、私の中で対話が始まる。著者が問いかけ、私は答え、時には反論し、再び考える。その中で、自分自身の考えを深め、整理し、新たな視点を得るのだ。次の言葉がうまくまとめてくれている。」

特定の枠組みにとらわれなくなること、自由な発想や生き方を獲得していくこと、その中で自分なりの基軸を確立すること、これこそが読書の価値なのです。 読書は著者との対話であると同時に、それを踏まえた自分との対話であり、さらには自分を取り巻く社会との交流でもあります。

人生を変える読書人類三千年の叡智を力に変える 堀内勉

弟子:「自分自身との対話が、読書を通じて深まるんですね。私も自分自身と対話することがあります。その時間は、なかなか、読書が進まなくて、この時間は無駄ではないかと思っていましたが、大事な時間なのですね。」

大師匠:「まさにそうだ。本をもとに自分の思考を深く掘っていく。そして本があるからこそ、新しい視点をもとに自分の頭の中を探れるのだ。だからこそ、読書は無限の探求なのだ。弟子よ、読書を通じて旅を続け、対話を続け、そして探求を続けるがよい。お前の中に無限が広がっていることを忘れるな。」

○師匠、大師匠に問う

師匠:「大師匠、私も一つお尋ねしたいことがあります。弟子との対話を通じて、改めて考える機会を得ましたが、やはり大師匠にお伺いしたい。私にも『大師匠にとって読書とは何か』と問わせてください。その深いお考えを、私自身も学ばせていただきたいのです。」

大師匠は、少しの間沈黙を保ち、ゆっくりと語り始める。

大師匠:「ふむ、師匠よ、よくぞ尋ねてくれた。もう少し、深く考えてみるか。お前も長い道のりを歩んできたな。読書は私の心と魂を育て、生きる力を与えるものだ。生命そのものを支える行為だと言っても過言ではない。本を読まずに生きていけるか。私にとって『読書』とは、『生命の糧』と言えると考えている。」

何ひとつ書物をよまず、何も考えずに生きてゆけるか、逆に自分に問いを発してみたのです。するとその問いには容易に答が出たのです。そんな生活はできないということが体の奥底から納得できたのです。

自分のなかに歴史をよむ  阿部謹也

師匠:「生命の糧…。」

大師匠:「そうだ。読書は、飢えた心に栄養を与え、渇いた魂に潤いを与える。それは単に知識を得るための行為ではない。読書によって、私は人間とは何か、人生とは何か、幸福とは何かを問い続けてきた。読書は、私が生きる意味を常に探し求めるための灯火であり、私の内なる炎を絶やさないものだ。」

師匠:「灯火としての読書…。それは、ただの学びや知識を超えたものなのですね。」

大師匠:「そうだ。読書は、単なる知識の習得ではなく、心の成長と自己理解の探求だ。師匠も言っていた、『自己成長』『他者理解』『柔軟性』『自己超越』『時間』、そのような要素をいかに為し得るか、そして、それは終わることのない旅だ。どれだけ本を読んでも、どれだけ学んでも、まだ知らぬこと、感じたことのないものが次々と現れる。その終わりなき探求が、私の生命を豊かにし続けている。」

師匠:「確かに、読書の道には終わりがなく、常に新しい発見があると感じています。」

大師匠:「さらに言えば、読書とは『他者との出会い』だ。本の中には、著者の思考や感情、価値観が詰まっている。それを読むことで、私は常に新たな他者と出会い、その存在に触れるのだ。時には、全く異なる文化や時代、考え方に触れ、その中で自分自身を問い直すことになる。これが、私にとって読書の最も深い喜びの一つだ。次の言葉のような感じだ。」

本は考える時間をたくさん与えてくれる。思い出す時間もたくさん与えてくれる。読書というものは、すぐに役に立つものではないし、毎日の仕事を直接助けてくれるものではないかもしれない。でもそれでも、読書という行為に価値がある。人は本を読みながら、いつでも、頭の片隅で違うことを思い出している。江戸時代の話を読んでも、遠いアメリカの話を読んでも、いつでも自分の身近なことを通して、そこに書いてあることを理解しようとしている。本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。

古くてあたらしい仕事  島田潤一郎

師匠:「読書を通じて、他者と出会い、自分を問い直す…大師匠の言葉が、私の心に深く響きます。」

大師匠:「師匠よ、お前もその道を歩んでいる。そして、弟子たちにその道を示しているではないか。これからも読書を続け、内なる探求を続け、他者と出会い続けるのだ。読書は、私たちに無限の可能性を与えてくれる。それは、私たちを支え、生きる力を与え、未来を照らすものだ。」

師匠:「ありがとうございます、大師匠。読書が生命の糧であり、無限の探求の道であることを、これからも胸に刻んでいきます。」

大師匠:「これからも読書を通じて、お前自身の道を見つけ、弟子たちにもその豊かさを伝えていくのだ。」

○大師匠、最後の言葉

大師匠:「では、まとめるか。締めの言葉だ。師匠よ、弟子よ、そしてこれを聞くすべての者よ。読書とは、生命を育み、心を広げ、未来への道を照らす灯火だ。その道は決して楽なものではないが、その旅路には無限の喜びが待っている。読書を通じて、己を知り、他者と出会い、時には世界全体と対話することができる。だからこそ、決して歩みを止めてはならぬ。
読書を通じて、わかることが増えてくるだろう。『わかる』とは何か、考えてみてくれ。
それは、阿部謹也の言葉をもとにすると、変わるということなのだ。そして、新たな世界が広がり、魂が豊かになることを忘れるな。」

上原先生のゼミナールのなかで、もう一つ学んだ重要なことがあります。先生はいつも学生が報告しますと、「それでいったい何が解ったことになるのですか」と問うのでした。
「分かるということは一体どういうことか」という点についても、先生があるとき、「分かるということはそれによって自分が変わるということでしょう」と言われたことがありました。それも私には大きなことばでした。

自分のなかに歴史をよむ  阿部謹也


少しの間、静寂が訪れた後、大師匠は優しく微笑む。

大師匠:「そしてまた、読書について語ろうではないか。新たな旅が、いつでもお前を待っているぞ。」


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