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紅麹問題を考える

小林製薬のサプリメント「紅麹コレステヘルプ」による健康被害。これまでに5人の死亡が確認され、入院も100人を超えている。

小林製薬といえば、筋肉痛の鎮痛剤「アンメルツ」、トイレの洗浄剤「ブルーレット」「消臭元」、冷却シート「熱さまシート」、入れ歯洗浄剤の「パーシャルデント」といったものが有名だ。ある意味商品名のインパクトも大きく記憶に残るが、ニッチな市場に目を向け開拓してきた企業とも評される。しかし主力の商品は一般用医薬品などのヘルスケアに変わりつつあり、2023年度の国内売り上げ1300億円余りのうち、利益率の高いヘルスケアは670億円と半分を超えた。企業イメージの打撃となるのは明らかで大きな損失が出るだろう。

各記事によると、最初にサプリ摂取者の腎障害の症例が報告されたのは1月15日と3カ月近く前であった。しかし小林が消費者庁へ連絡したのが3月21日、消費者庁の指示を受けて大阪市保健所→厚生労働省と情報が伝達されたのは22日。記者会見を開いたのもこの日だった。最初の症例報告から2カ月以上が経つ。いくら因果関係の調査があったとはいえ対応が遅すぎるだろう。

小林製薬が原料のデータを調べたところ、はじめ「未知の成分」の存在を示す分析結果が出たというが、この表現も混乱を招く。まるで新種の成分のような言い回しで報道もそのような表現が見られた。

原因調査に手間取ったことが遅れの原因というが、この場合すみやかに健康被害の可能性を公表し、商品すべてを自主回収するのが最善だったはず。死亡事例が出るような事態を2カ月近く開示しなかったのは大きな責任といえる。回収までいかなくとも厚生労働省に報告し、対応を協議することは可能だったではないか。恐らく被害拡大を恐れ、損害の予測も見誤ったのだろう。

2月初め頃より株価が下落に転じていたという報道もあり、関係者が食中毒となることを予想し、大量に株を売却した可能性まで報じられている。花王などの同業他社の株価も同時期より一時下落したため、関連は薄いというが、2か月も放置されていれば情報が伝播されてもおかしくない。何かきな臭い。

今回のプベルル酸なる化合物もいかなる理由で発生したかは不明だが、故意は考えにくく何らかの過失とされる。ある意味生産システムの杜撰さまで考えられるが、尚早だろうか。

「プベルル酸」も青カビから発生する天然化合物で、細菌の増殖を抑える抗生物質の特性を持つが、毒性が非常に高いという。しかし研究は進んでおらず、抗マラリア効果があるといった程度で具体的な人体への影響のデータもない。青カビが混入して予期せぬ物質が作られれば、異臭や色など物理的な変化があるともいう。そのため他の微生物が入り込んだ可能性もあり、今回の健康被害との関係は未だはっきりしない。

商品への影響だが、小林製薬の紅麹原料が供給された企業のリストから取引先を調査した結果、食品・飲料メーカーは1778社あるという。また二次以降の企業を含めると最大で3万3000社を超えるとのことだ。

これほど広範囲にわたるのは、紅麹は風味付けの香料や着色料でも使用されることも多いためであり、菓子から中華料理といったものまで多種多様に含まれている。自社の食品に使用されているか把握していないケースもあり、流通先の特定は難しいようだ。

実は紅麹による健康被害は初ではなく、2014年に欧州の各地で報告されている。その要因は一部の紅麹菌株が生産する有毒物質のシトリニンによるもので、対策としてEUは、シトリニンのサプリメント中の基準値を設定、スイスでは紅麹を成分とする製品は食品・薬品として売買は違法とされるなど、厳しい対応となっている。これを見ると、日本ではシトリニンを生成しない遺伝子の麹を使用としても、継続的な摂取自体が安全なのか疑ってしまう。そもそも健康食品としてお墨付きを出すにふさわしいのか。

“紅麹”は米などの穀類にMonascus属糸状菌を繁殖させた鮮紅色の麹で、食用色素や健康食品として広く利用されています。しかしその一方で、紅麹菌の中には、人体への腎毒性の健康被害が有るカビ毒を生産するものが存在することから、欧州委員会規制(EC)において紅麹由来のサプリメント中のシトリニンの基準値が100μg/kg以下に規制されているなど、安全性についての懸念が払拭されていないのが現状です。そこで今回、日本、台湾、中国において食品用途に主に使用されている紅麹菌3種(M. pilosus(日本)、 M. purpureus(中国)、M. ruber(台湾))について、次世代シークエンサー※を使った全ゲノム解析を行い、シトリニンの産生能について検証したところM pilosus NBRC 4520には腎毒性の健康被害をもたらすカビ毒シトリニンが生成不能であることが明らかになりました。

小林製薬中央研究所より。安全性への懸念は払拭されていないという一文もある。
シトリニンだけが全て悪いのか?


サプリメント業界は近年急拡大し、健康ブームもあって日用品メーカーでも主力のシェアとなっている。今回の事件もそれだけ消費層が拡大し、一大ビジネスとなっていることを示した。

サプリメント業界への信用にも大きく影響する事件。一体いつ収拾がつくのだろうか。



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