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元寺尾の錣山親方亡くなる

また角界に暗いニュース。元関脇寺尾の錣山親方が亡くなった。虚血性心不全で60歳。以前より心臓悪く、体重も70キロほどまで落ち入退院を繰り返していたが容体が急変したようだ。阿炎らは危篤の報を受け巡業先から駆け付けていたと聞く。看取ったようだ。


元関脇鶴ヶ嶺の3男で井筒三兄弟の末っ子。現役時代は母譲りの端正な顔に闘志あふれる突っ張り一本鎗の相撲で横綱大関並みの人気があった。ゲームソフトにも起用されるなど今の相撲界では考えられない程といえる。それだけに今回の訃報も横綱並みのニュースとなっている。

名勝負をいくつか挙げると

昭和60秋 北天佑戦
上位初挑戦の相撲。立ち合いから先手を取り突っ張る。大関は後退して宛がいながら回り込み、機を見ていなして寺尾が泳ぎ手をつきそうになるが上手く土俵の円で回り込み立て直す。さらに突き返すが左上手を大関がとり強引に頭を押さえながら上手投げ。ペースは完全に寺尾で大関は非常に苦労している。これほど気風の良い相撲は今見られない。

平3春 貴花田
寺尾が踏み込んでのど輪。貴花田宛がいながら回り込むがなおも突く。一瞬引いたところ貴花田がつき返し寺尾を土俵際まで追い込むが、寺尾が一瞬のスキにいなし貴思い切り泳いだところ、一気に寺尾がのど輪を見舞って白房下から土俵際まで走る。しかし向こう正面の赤房近くの俵に足を掛け寺尾の横について凌ぎ、寺尾泳ぐ。すばやく一回転して向き直るが体勢は立て直せず貴花田の二突きで徳俵付近で突き出された。これほど突き押しで攻守が入れ替わることが難しい。寺尾は花田兄弟に敵意むき出しでぶつかっていったが、貴花田の腰が終始安定して崩れなかった。勝負勘も勝った。寺尾はこの後タオルや下がりも投げつけるほどの悔しさであった。

平11九州 武蔵丸
寺尾36歳。武蔵丸は横綱3場所目。立ち合い寺尾はのど輪。武蔵丸の2突きに後退するが土俵の俵にうまく足がかかり武蔵丸の左腰につく。更に縦みつをつかんで出し投げの形で武蔵丸を泳がし、向き直る暇なく後ろから抱き着き、縦みつと右腰をつかみ最後は自らも土俵下に捨て身の形で武蔵丸を送り出した。以降上位戦はなくこれが最後の横綱戦で金星。横綱最終戦が金星は珍しい。

平14秋 貴闘力
両者とも十両11枚目で厳しい土俵。互角に立って寺尾が突っ張りから踏み込む。しかし貴闘力が突き返し寺尾が後退。寺尾も突き返し互いに仕切り線上で突っ張り合いとなる。寺尾が若干踏み込んで貴闘力のけぞったところ、巧く叩いて制した。往年の名力士が見せた全盛時代の相撲。両者この場所で引退したが最後の輝きではないか。

まだまだ名勝負は多い。晩年でも動きのキレがあり年齢を感じさせなかった。突き押しメインの時代だがこれほど爽快な相撲はない。39歳まで突き押し一本ながら現役を務めたあたりまさに角界の鉄人だった。18年間休場なしも110キロ台の体格では偉業ではないか。体重増加で緞帳な相撲も多い今の力士も見習ってほしい所。


親方として豊真将、阿炎らを育てた。豊真将の折り目正しい所作は角界随一のものだったが反面阿炎の私生活は悩みの種だったろう。その阿炎もようやく成長し優勝、さらにもう一花という所で旅立ってしまった。


井筒三兄弟も58歳、60歳、60歳で皆亡くなった。4年前は全員健在だっただけに急すぎる。父は77まで生きたが母は43で病死と短命を受け継いでしまったのか。元々母の遺言から力士となっただけに母への愛は一入だったようだ。

父の鶴ヶ嶺が再婚した際にも悶着があり不仲となってしまったようだ。どうにも母の一周忌にはもう再婚が決まっていたという話もある。母が大好きだったのもあるようだが継母が派手好みの人で金遣いも荒かったという。父か継母が病気となった際、入院費の工面を息子たちに依頼したが承諾したものの何も動きなし。仕方なく予科練時代の友人(鶴ヶ嶺は軍国少年の世代)に頼ったと聞く。

さらに父・鶴ヶ嶺が病院か施設にいた際、寺尾が亡き母親の写真を飾ってたがある日行くとなくなっていた。事情を聴くと「妻が嫌って持ち去った」という。それに寺尾が激怒して兄に相談。3兄弟も決して円満ではなかったが継母憎しとなったらしい。やはり複雑だったのだろう。

晩年には貴乃花グループに参加したが結局頓挫し一門移籍。時津風一門からは疎まれ孤立気味に。その影響で酒量が増え元々不調だった心疾患を悪化させたともいう。協会内でも役職を外されもぎりを担当とは少し寂しい。時津風一門であれば井筒継承もあったと思うがこちらも未だはっきりせずしこりが残る。分家の陸奥もどうなるのかわからぬ状況。貴乃花の乱の影響がこんなところにも響いたとは。つくづく誰も得しない騒動だった。皮肉にも錣山の死が関係を良くするきっかけともなるか。


しかし力士は短命。サンパチ組も還暦だが北尾・寺尾と亡くなり超アンコだった小錦が元気というのはどういうことか。ハワイは体質が違うというが生まれ持ったものか。不健康のイメージがつきまとっては相撲界にもよくない。また角界に損失となった。

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