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ちょっと早いお盆

ふと祖父のことを思い出した。

祖父はある時から失語症になった。
いつからかは分からない。
言葉が出てこないだけで、他は何の問題もなかった。
ほとんど「わー」か「うー」しか話せず、私は祖父が何を言いたいのかを予測して会話をしていた。

祖父が家に遊びに来たときは、表情やジェスチャーでコミュニケーションは問題なく取れた。

しかし、電話は別だ。

祖父はよく家に電話をしてきた。
しばらく母が話した後、必ず私に電話がまわってくる。

「今、ヤギ太郎に代わるからね」
と聞こえるのが、憂鬱だった。

電話だと祖父が何を言っているのか余計に分からないのだ。

でも一生懸命に何かを伝えようとしているから無下にできない。

今なら分かる。
『会えない孫とせめて電話で話したい』という気持ち。

しかし、子供時代の私にとっては苦痛だったのだ。

ある時、どれだけ頭をフル回転させても祖父の言いたいことが分からずに適当に「ううん、いい。いらない。」と答えたことがあった。

きっといつものように私に何か買ってくれるというような事を言っているのだろう、と思ったからだ。

すると明らかにトーンの下がった声で『そっかぁ』と祖父が言っていたのを覚えている。

実際は「また一緒に銭湯に行こうね」と言っていたらしい、と後から知った。

大人になった今。
今ならもっと祖父のことを大切にしてあげれたのにな、と思う。

ちょっと早いお盆。
祖父のことを想っている。