北陸新幹線延伸について

 2024年3月16日に北陸新幹線の金沢~敦賀間が開業しました。北陸新幹線は最終的に新大阪まで延伸される予定です。
 敦賀~新大阪までのルートは複数の案がありましたが、最終的に「小浜・京都ルート」に決定しました。
ところが、一部沿線住民の反対により、現時点で着工はおろか、その前段階の環境アセスメントが完了していないため、着工時期のめどが立っていない状態です。
 鉄道好きの自分としては、早く全線開業してほしいと思ってるので、着工のめどすら立たないこの状況は、すごくもどかしいです。
 関西と北陸は昔からつながりが強く、人の往来も多いため、両地域を結ぶ特急列車(雷鳥→サンダーバード)はJR西日本の重要な稼ぎ頭の一つでもありました。
 それが北陸新幹線の敦賀延伸により、敦賀で在来線と新幹線の乗り換えが必須となり、関西から北陸の主要都市である、福井・金沢・富山へ一本でいけない状況が発生してしまっています。

 一体いつになったら完成するのか。完成まで時間を要するとしても、せめて課題事項がクリアされて、少しずつでも完成に近づいてほしいと思い、色々情報を集めていたんですが、どうやら北陸新幹線の新大阪延伸、環境アセスメント以外にも課題があり、かなり曲者なプロジェクトのようです。

 YouTubeやネット記事で情報を集めた限りだと、主に以下に挙げる三つの問題により、新大阪延伸が難しくなっているようです。あくまで個人的に情報を集めただけなので、不正確な部分もあるかもしれませんが、各問題の概要を以下に簡単に説明してみます。
 以下1)~3)の内容は、記事の最後に参考文献として記載した①、②のYouTube動画の内容を参考にさせていただきました。

1)ルート上の京都府南丹市地区のトンネル掘削による環境破壊への懸念
 京都府南丹市の、特に旧美山町の地区では、過去にマンガンの採掘が盛んだったようです。現在ではマンガンの採掘は行われていないようなのですが、過去の採掘により作られた地下トンネルに有害物質が含まれていて、北陸新幹線のトンネル掘削によってその有害物質が河川などの生活環境に流れ出し、環境破壊をもたらすのではないか?との懸念があるようです。
 また、南丹市内のルートはほとんどがトンネルであることから、トンネルを掘削した際の土砂の運搬のために、市内の狭小な生活道路をダンプカーが頻繁に往来する可能性があり、工事期間中の沿線住民の安全性や利便性も疑問視されているとのことです。
 これらの問題から、一部の沿線住民による工事への反対意見が出ているため、環境アセスメント完了の目途が立ってない状況とのです。

2)京都市内地下トンネル掘削による地下水資源への影響
 京都市の地下には巨大な地下水の水脈があり、その地下水を利用した伝統産業が行われています。
 北陸新幹線のトンネル掘削により、地下水の水脈が変化し、井戸水が枯れるなどの影響が懸念されています。
 過去に、京都市営地下鉄東西線の工事により、井戸水が枯れたという報告もあるそうです。

3)費用の大幅増加の懸念
 先述の通り、小浜・京都ルートでは線路の大部分がトンネルであるため、建設費用が莫大になることが予想されています。特に京都市街地では、約千年もの長い間都だったこともあり、多くの遺跡が発見される可能性が高く、もし遺跡が発見された場合、文化財保護法に基づいて調査等を実施する必要があります。これによる工期の遅れと費用増加の可能性があるとのことです。
 地下水の問題と同様、こちらも過去に京都市営地下鉄東西線の建設で、遺跡の発掘により費用が増加した経緯があるそうです。
 それに加え、昨今の資材費の高騰により国内の大型プロジェクトは軒並み当初の予算をオーバーしている状況です。北陸新幹線の延伸工事も、果たして当初の予算通りに工事が進むのかという懸念があります。
 北陸新幹線は、「整備新幹線」と呼ばれる新幹線で、沿線自治体(今回の場合は京都府と大阪府)が建設費の一部を負担する必要があるのですが、建設費が増加した場合、果たしてこれらの自治体が建設費を負担できるとか、という問題もあります。

 現状では、これら三つの問題が全てクリアされるのは相当厳しいと考えられており、北陸新幹線はこのまま恒久的に敦賀止まりになるのでは?と言った意見も出てきています。
 さすがに政府もJR西日本も、敦賀止まりのまま放置するとは考えづらいのですが、小浜・京都ルートは現実的ではない、という意見が、鉄道ファン界隈で散見されています。
 そして、「小浜・京都ルートは厳しい」で終わらず、ではどのルートがベストなのかを、経済性や利便性など様々な側面から、多くの鉄道ファン達が検証しているんですね。この辺り、日本の鉄道ファン達の矜持を感じます。
 米原まで延伸して東海道新幹線に乗り入れ案、湖西線経由案、フリーゲージトレインで大阪~敦賀間は在来線+敦賀以東は北陸新幹線案、など。

 そのどれもが「なるほど!」と思わせるものであると同時に、どれも一長一短あって、文句なしのベスト!と呼べる案がなかなかないんだな、というのが、僕がそれぞれの案を見てみた率直な感想です。
 ここまで様々な条件が絡み合って来ると、最終的には個人の好みになってくるのかな、という感覚もありまして、僕も鉄道ファンの端くれとして、自分の希望のルートを考えてみました。

 僕は個人的に、湖西ルートを通ってほしいなと思ってます。
 先ず大前提として、僕は鉄道に乗る際は車窓を楽しみたい派なんです。
 上述したように、小浜・京都ルートは大半がトンネル区間になります。特に、京都~新大阪の都心部では、ほぼ全域が大深度の地下トンネルになると予想されます。
 敦賀~京都間では、一部で地上区間を走る可能性はあるでしょうが、おそらくはトンネルとトンネルの間のわずかな山間の区間のみで、景色も文字通り「山の隙間」がチラっと見える程度だと思います。

 現在サンダーバードが走っている湖西線は、琵琶湖と比良山地に囲まれた細長い平野部を走っていて、片方に琵琶湖、片方に比良山地の山々という、独特の光景を楽しむことが出来ます。
 また、湖西線の南部は大津市街地となっていて、マンションや戸建て住宅、商業施設などの建物が高度に密集しているのですが、大津市を抜けて北上していくにつれて、次第にのどかな田園風景が広がっていくという、風景のグラデーションを楽しむことが出来ます。
 この徐々に変化していく風景こそが、旅情を掻き立てるというか、遠くへ向かっているんだなという非日常を感じることができる、旅の醍醐味だと思うんです。

 少し標高の高い場所を走るときはには、琵琶湖の対岸が車窓から見えることもあります。
 琵琶湖は日本一大きな湖なので、海辺の線路と一見同じような景色に見えることもあるんですが、このように対岸を望めることで、改めてここが湖のほとりであることを感じることができます。

 このように、美しい湖の景色に加えて、都市から田舎への景色の変遷を楽しむことが出来る場所って、日本ではそうないと思うんです。
 湖西線はあくまで通過地点に過ぎないのですが、この景色こそが、北陸への入り口感というか、他の路線や列車では体験することのできない独特の光景なんです。

 サンダーバードのほとんどの乗客の目的地は、北陸の各都市です。(京都を出ると敦賀まで止まりませんから。)なので、湖西線沿線である滋賀県は、ただの通過地点でしかない、という人もいるかもしれません。むしろそのような人の方が多いかもしれないです。
 ただ僕にとっては、北陸に行くときに見られるあの光景は、北陸への旅に含まれるの大きな楽しみの一つでした。

 北陸向けの特急でこの景色が見れなくなったとしても、湖西線自体が廃止されるわけではないので、いつでもあの風景を見ることは出来ます。
 ただし、「特急車両」という特別な車両に乗りながら見ることはできなくなるので、そういう意味で北陸旅行の楽しみが一つ減ってしまうと考えると、とても惜しい気持ちになるんです。

 関西から北陸へ向かう際の視点のみで書きましたが、北陸から関西へ来られる方の中にも、同じことを感じている方がいると思います。(いてほしい…!)
 琵琶湖と比良山脈が織りなす風景の風光明媚さ、琵琶湖の沿岸を南下するにつれて徐々に都市が大きくなっていき、関西に近づいている感覚、これらを楽しみにしている人はいるはずです。
 北陸路は、あの光景とセットでなければならない。僕としてはそんな気持ちです。なので、僕としては是非、湖西ルートを再考してほしいです。

 湖西ルートを採用する場合の建設方法として、個人的には以下の三パターンが考えられるかなと思います。それぞれのメリットとデメリットについて記載していきます。

1)全線高規格路線
 敦賀~新大阪間の全線で、新幹線用の高規格路線を建設する方法です。
 敦賀~京都間は湖西線と並行したルートで高規格路線を建設します。
 京都~新大阪間は、小浜・京都ルートと同様、松井山手経由で新大阪までのルートを建設してほしいと思ってます。
 松井山手経由にしないと、京都府へのメリットが少ないため、費用負担面で京都府が納得しない可能性がありますし、京都府における京都市と山城地区の地域間格差解消のためにもこのルートが良いと思います。
 この方法のメリットは以下二点でしょうか。
 ・現在北陸新幹線用に使用されているW7系車両がそのまま新大阪へ直通できる
 ・他の二案と比べてスピードアップ効果が最大。
 デメリットは以下三点です。
 ・湖西線が完全に並行在来線扱いとなり、JR西日本から経営分離されてしまう。
 ・小浜・京都ルートと異なり、滋賀県に費用負担が発生するため、滋賀県が難色を示す可能性がある。
 ・松井山手経由にするためには、京都駅を出た後に急カーブを経て南下する必要がある。

 デメリットの一点目の解決策としては、湖西線を経営分離しないこと以外にないと思います。
 整備新幹線を建設する場合、法律で並行在来線を経営分離することが明記されているのですが、湖西線はJR西日本のアーバンネットワークを構成する路線であり、京都や大阪と言った大都市への通勤路線の一つです。利用者数も、これまで並行在来線として経営分離されてきた路線よりはるか多いです。
 恐らくですが、並行在来線を経営分離する目的は、新幹線開業により収益性を失った在来線を経営分離することで、JR側の負担を減らすことだと思うのですが、湖西線に限って言えば、上述の通り京阪神への通勤路線であり、都会とまでは言えないまでも、沿線、特に南半分は高度に宅地化されており、他の並行在来線沿線よりも人口密度はかなり高い状態です。
 なので、並行在来線の経営分離の趣旨に合致するかと言えば、少し疑問が湧くんですよね。
 西九州新幹線の並行在来線では、一部(諫早〜長崎)は輸送密度の高さから引き続きJR九州が保有し続けたという例があります。また、肥前山口〜諫早間では、線路や駅などの設備を沿線自治体出資の第三セクターが保有し、運行は引き続きJR九州が実施する、上下分離方式が採用されたました。(参考文献③)
 このような例もあるので、経営分離しないために、何かしらの方法はあるんだと思います。

 デメリットの二点目の解決策は、一点目の解決策である、「湖西線を経営分離しない」に加え、近江舞子あたりに新幹線駅を設置ことを条件とすれば、滋賀県にとってのメリットが大きくなり、滋賀県としても費用に対する納得感が出るのではないかと思います。

 デメリットの三点目に関してですが、京都駅には全種別が停車するでしょうから、高速でカーブを通過する必要がなくなり、おのずと問題は解消されるような気もします。
 少し気になるのは、京都駅発車直後にカーブして南下する場合、地図上では東寺の直下を通る必要があるんですが、東寺は世界遺産や国宝に指定されているため、東寺の地下を新幹線が通ることが可能なのか、が少し気になります。この辺も大深度だったらクリアできるのかな…?

2)北陸新幹線の敦賀~金沢間を三線軌条化(または四線軌条化)し、在来線の列車を敦賀から直通させる
 敦賀から先は高規格路線を建設せず、関西からの在来線特急をそのまま北陸新幹線に直通できるよう、北陸新幹線の敦賀以東の区間を三線または四線軌条化する方法です。
 三線または四線軌条化する区間は、少なくとも金沢まで、願わくば富山までとし、かつてのように大阪~富山が直通で結ばれると利便性が上がると思います。
 金沢からは、再び在来線のIRいしかわ鉄道に直通し、和倉温泉までの直通列車も運行されるようにしたいですね。
 北陸新幹線金沢延伸以前のように、大阪駅で「富山」や「和倉温泉」といった行先表示が見られると胸熱です。
 この方法のメリットとしては、新規で高規格路線の建設がないため、建設費と工期が抑えらる点でしょう。
 具体的に試算していないので何とも言えませんが、敦賀~新大阪の100㎞以上の路線を新規で建設するより、既存の路線を三線または四線軌条化する方が、費用も工期の少なくて済むと思います。
 また、敦賀以西は既存路線を走るので、サンダーバードと同様に大阪駅に乗り入れられることもメリットだと思います。
 新大阪と大阪は一駅違いですが、やはり新大阪より大阪の方が、神戸方面や大阪府東部・南部など多方面からアクセスしやすいため、利便性が向上するともいます。
 デメリットとしては、三線または四線軌条化工事のためには、工事対象の路線の運休など、営業運転に何かしらの制約が出ることです。
 多少制限が出たとしても、営業運転と並行して工事ができれば良いのですが、運休が不可欠であれば、この方法は一気に不可能になってしまいますね。
 僕自身の知識不足のため、具体的にどの程度制限が出るか不明なので何とも言えないのですが…。新幹線レベルの稼ぎ頭の路線を、延伸工事のために運休するのは、JR西日本も沿線自治体も納得できないと思います。

3)フリーゲージトレインを導入し、在来線の列車を敦賀から直通させる
 在来線と新幹線路線では線路幅が異なる(在来線:1067mmの狭軌、新幹線:1435mmの標準軌)ため、直通させるためにはどちらかの線路幅を変更する必要があります。
 フリーゲージトレインとは、車輪間の幅(軌間幅)が可変な車両のことです。車両側で軌間幅が可変になることで、レール側の線路幅の変更することなく、異なる線路幅の路線間の直通運転が可能になります。
 正直、この方法は最も現実性が低いと思います。実用可能なフリーゲージトレインが導入できれば、鉄道業界にとって大きな革新となるでしょうし、北陸新幹線の新大阪延伸が抱える多くの問題をクリアできることは間違いないと思います。
 ただ、フリーゲージトレインは、これまで多くの企業で開発が実施されてきたにもかかわらず、技術的課題がクリアできずに現在まで導入にいたりませんでした。西九州新幹線でも導入に向けて開発されていましたが、結局断念し、フル規格新幹線の導入へと変更された経緯があります。
 最初の二つの案は、技術的には可能である一方、フリーゲージトレインは技術的にはまだ開発途上であるため、費用や導入までの期間が最も不透明なんですよね。
 具体的に技術的にどの部分が問題なのかまでは把握できていないのですが、サラっとネットで調べた感じだと、動力装置付きで、しかも高速走行可能は車両をフリーゲージトレインにするのはかなり難易度が高いみたいですね。
 実現すれば本当に夢のような車両ですし、北陸新幹線延伸とは別で、どこかの企業や政府組織に開発を継続して欲しいと強く思ってます。
 ですが、こと北陸新幹線延伸に関して言えば、かつてほど日本が経済的にイケイケでなくなり、あらゆることに慎重になった現代において、これほど不確定要素の強い開発に投資できる環境かどうかと言われれば、難しいかなと思ってしまいます。

 個人的には、案2を推進してほしいんですよね。一番工期が短そうですし、やはり大阪駅まで乗り入れてほしいです。
 北陸と関西は、産業面でも文化面でも、現在まで長らく交流が盛んです。北陸地方の人口は決して少なくないですし、有名な温泉地や神社仏閣、景勝地も数多くあります。
 ビジネス面でも観光地としても、関西にとってはとても重要な場所です。
 関西と北陸を結ぶ特急が、雷鳥時代から現在のサンダーバードまでこんなに盛況なのが、関西と北陸の結びつきの強さを示す何よりの証左だと思います。
 そのような関係性の関西と北陸が、敦賀で分断されている現状はとても不便ですし、双方にとって損失が大きいと思います。
 やはり、北陸へは乗り換えなしで、特急列車の優雅なシートで、景色を楽しみながら、お弁当に舌鼓を打ちながら向かう、という楽しみを、一日も早く再開してほしいです。
 そこに、北陸に行くなら琵琶湖西岸の景色を楽しみたい!という僕の個人的エッセンスを付け加えて、湖西ルートでの開業を夢見ています。

 今回の記事の内容は、ほとんど僕の個人的な妄想ですし、実際にはもっと色んな要素が複雑に絡んでいるので、すぐには決められないこともたくさんあると思います。
 ただ、やはり関西と北陸が乗換なしの一本で結ばれることが最も望ましい最終ゴールだと思うので、そのゴールがどのように実現されるか、今後も北陸新幹線延伸に注目して行きたいと思ってます。

<<参考文献>>

https://www.youtube.com/watch?v=IoiDyygjqiU
鉄道ルポルタージュ / Train Reportage, 敦賀延伸が最後の延伸になる可能性が高い件について【北陸新幹線】, 閲覧日:2024/4/14


https://www.youtube.com/watch?v=oE9ZrRDkm0Q&list
ほらいん【鉄道分析・考察】, 【絶対無理】湖西線のミニ新幹線化が北陸新幹線の大阪延伸のルートとして論外な理由とは(北陸新幹線、JR西日本、敦賀延伸、湖西線、並行在来線), 閲覧日:2024/4/14


https://trafficnews.jp/post/122858
乗りものニュース, 新幹線開業後も「第三セクター移管を免れた」3つの並行在来線 そのカラクリとは JRのまま残った理由, 閲覧日:2024/4/14

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