重なる不運

 ツイていない日は、とことんついていない。

 その日、渋谷へ行った。ちょっとした記念日だったので、おいしいものを食べるために。電車でも行けるのだが、混雑してそうな渋谷駅に近づきたくなかったので、バスで行くことにする。しかし、家を出てちょっと行ったところにあるバス停から乗るためには、間もなく出なければならない。だがまだ支度は出来ていない。とりあえず支度にとりかかる。着替えて、身だしなみを整えて、お金を持って。

 そして再びバスを調べる。すると、家を出て結構行ったところのバス停は、コミュニティバスも通っているということが発覚。本数は少ないが、運賃が安くなるので悪くはない。

 さて出発という段になり、家を出る。いつもの不思議なのだが、出ようと思った時間に家を出たはずなのに、靴を履いて道路に出ると、だいたい2分くらい経っているのはどうしてだろう。すでに家を出ようと思っていた時間を過ぎている。初めて使うバス停なので、どれくらいの時間でたどり着けるのかわからない。これを逃すと20分くらい来ないのだけはわかる。そしてそれでは待ち合わせの時間を過ぎてしまうこともわかっている。ならばやることといえばただ一つ。走る。

 走って走って、疲れて歩いてまた走る。結構走ったが、まだバス停に着かない。もう少しでバス停に着くといったところで、乗ろうと思っていたバスの顔が見えてしまう。

 しかし私には秘策があった。次のバス停に行く、というもの。というのも今見えたバスは、この後【ぐるり】と回るってから次の停留所に進むというルートだったのだ。私はその【ぐるり】にかけた。

 暑いさなか、疲れた足で走る。家からまぁまぁ行ったところにあるシェアサイクルを借りて向かえばよかったと思ったがもう遅い。だいぶ遅い。バス停と反対方向だし。

 そんなこんなで走ること1分くらい。走ってる間にバスに追い抜かされないかヒヤヒヤしていたが、無事バス停に到着。だが中々バスが来ない。早く乗車して涼みたいのに全然来ない。なぜ人生はちょうどよくないのか。と考えていたら、待ち望んでいたバスが来た。外から見ると乗客はいなさそう。 

 意気揚々と乗車し、パスモを「ピッ!」。残高不足を知らせるブザーが鳴り響く。「昨日、電車を降りたときは150円くらいあったのに、おかしいな」と思った瞬間、気がついた。このバス、さっき見えたバスと顔が違う。つまり、これはコミュニティバスではない。初乗りが200円ちょっとの路線バスだ。どういうわけだか、最初にこれに乗れたら丁度いいと思っていたバスに乗れてしまったのだ。いやもはや、乗ってしまったのだ、だ。なんなら後ろにコミュニティバスが見えている。

 本音を言えば降りたかった。チャージが無かったし。だが間違いを認めるのも悔しいし、なんだか恥ずかしいしで降りられなかった。仕方がないのでその場でチャージをしようと財布を取り出す。なぜ一万円札しかないのか……。あぁ、おいしいものを食べようと、大きなお金を持っていたんだった……。見事に小銭も全然ない。こんな時のために、私はキーケースに500円玉を入れている。お釣りで小銭が増えるのがまた寂しい。

 無事に渋谷に到着し、ちょっと良いご飯を食べる。食後にはサプライズでスイーツプレートを用意してくれていた。こってりとしたステーキを食した後に出てくる4人分くらいありそうなアイスクリームはなかなかなものであったが、しっかりいただいた。うちへ帰ればケーキもあるというのに、暴飲暴食である。

 そのアイスクリームと3杯飲んだソフトドリンクでお腹は水分でもタプタプ。店を出る前にトイレへ行った。ここが間違いだったのかもしれない。いや、トイレを我慢した状態で帰るのも失敗する未来しか見えないが、せめて30秒後に行くか、15秒前に行けばよかった。

 用を済ませ、手を洗い、トイレを出ようとしたその時、トイレに人が入ってきた。そのせいでドアが頭にぶつかってきたのだ。40過ぎの子連れ男性だった。向こうも困惑しただろう、「あ、ごめん」と言っていたから。いやいや、そこは「ごめんなさい」だろう。どっちが悪いわけではないが、被害を受けたのはこっちだ。見ず知らずの人に対する「ごめん」に、なめられていることを感じた。肉体的な痛みと精神的モヤモヤが同時に起こると、怒りは強くなる。せっかくバスのマイナスをおいしいご飯で水に流せたのに。

 トイレを出た瞬間から、「せめてちゃんと謝ってください」といえばよかった、と後悔が残る。店を出るその瞬間まで、せめてそいつを睨みつけたいとそれとなく周囲を探すようになる。こんなことしたくないのだが、一度発生した負のエネルギーはなかなか消えるものではない。睨みつけたところで消えないのはわかっている。けど一矢報いたいのだ。楽しい気分をぶち壊されたのだから。これが一矢にならないことは、それも十分わかっている。

 結局何もできないまま店を後にする。これ以上ぶち壊さないためにも、それは正しいの。だが悔しい。唯一の救いは、一人じゃなかったこと。一緒に来ていた人に愚痴をこぼすことで、少しは気が晴れた。

 それと、こうしてnoteの初投稿ネタができたこともよかったか。いや、ただただ愚痴を垂れ流すだけの文章になってしまったので、人に見せる話としては適していない気がする。ま、いいや。

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