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まあ太のぼうけん その9

 ほらあなの中は足場が悪く、こけなども生えていてまあ太は何度か滑りそうになりました。引き返した方がよいのか。もう戻れないのか。
自分は嫁さんがほしかっただけなのに何でこんなところを歩かないといけないのか。人生とはこんな風にぽっかりと穴があいて、いとも簡単に呑気な中2を地中深く引きずり込むのだろうか。
 まあ太は犬のしっぽをつかみながら重い足をひきずりそんな自問自答を繰り返しながらも、一方ではひょっとすると鬼なんていなくてこれはあの老人が考えた、いわゆるドッキリか肝試しなのではないかと思い始め、少し勇気が湧いてきました。
 鬼のいる島に行ってきたけど鬼なんていなかったよ。ハハハ。なんておっ母に話そうとそんなことを考えていた。
 そのときです。
 どこからか音のはずれたサイレンのような声が聞こえ、それがほら穴の中にこだまとなって反射して鳴り響くと
「どっどっどどう。」という地鳴りとともに2、3メートルあろう赤黒い姿をした化け物が全力で飛び跳ねてきたのです。

ばさばさの髪に手には大きな酒瓶を持ち、あたまには茶色くただれて膿を持ったこぶのようなツノ。
 鬼はまあ太の前で急停止し、血走っただらりとした目でまあ太達を首をひねりながら指で数えていました。
 かおはまあ太の目の前です。
 酒臭い息がまあ太を取り囲みます。
まあ太は走って逃げようにも足に力が入らなくて動けません。そのまま腰を抜かして座り込んでしまうと、そのあたりには人間のものと思われる無数の骨が散らばっています。
 すると今度は静かに灯りの影からおびただしい数の鬼たちが同じように酒臭い息を吐きながらのそのそと現れたのでした。

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