冥朗銀河
覚えていたのは手術台に乗っていた自分と、周りで慌てている看護師たち。
医者はモニターを一点に見つめ自分を落ち着かせようとしている。
ここで終わるタイミングではなかったはずなんだが、これも今となっては懐かしい。
お前達が生まれ、思い切って家を買い、休みは寝ているふりをしてる何とか体の平穏を保っていた。
20代のやつらに怒鳴られる姿はあまり思い出したくはないな。
おまえたちはしっかりやれよ。
孫の顔を見て、少々気が緩んだか。
倒れた。
そしてそこから。
まるで宇宙の真ん中に立っているような気分だ。端がない。天動説の絵のようだ。
空はすっぽりと地を包み、地はそれを受け止める。体の若さに驚いたが、やがてすべてを理解した。はじめに向かうところはもう決まっている。
自分の全盛期とは気持ちのいいものだ。疲労や呼吸が全身を包み込み、次々と力を生み出していく。そのうち街が見えてきた。よく知った街が。
「あれ。いりゃーしたか。オロナミンC冷えとるよ。」
懐かしい顔が出迎える。
俺の体は自然と幼児になり、祖母は祖母のまま。そして記憶の世界と同化した。
祖母は特に大きな声を出すこともなく丸く正座してプロレスを観ている。ということは今は土曜日の4時半だ!あたたかな記憶が蘇る。それはオロナミンCとカップラーメンが食べられる1番好きな時間。
「ごめん。あまりゆっくりしていられないんだ。」
次第に祖母が若く見覚えのない姿になっていく。そしてその横には写真でしか見たことのない祖父が、昔の姿で立っている。
「またいりゃあ。」2人は手を振り、俺は笑顔で答えた。
体は暑いが汗はかかない。かかとを突き出すようにして大股で歩く。思い出の人たちと再会するにつれ、次第にひとつのことが分かってきた。この世に始めと終わりはない。
ただ永遠に続く物語りだということを。
俺も段々次に進む準備が出来てきたようだ。
でももう一度家族に会いたい。その前に耶蘇や釈迦とでも話しでもしていこうか。それともあの大嫌いな奴らと肩でも組んで酒でも飲もうか。娑婆にでも顔を出して、死ぬことなんて後回しにしときなさいよ。と化けて出てやろか。
ようやく光が見え始めた頃、玉のような赤ん坊が産道をとおって恥ずかしそうに皆の称賛を浴びた。
了
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