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私の読書室へようこそ 2

1「約束された場所で」(村上春樹)を読む

地下鉄サリン事件の被害者及び遺族の証言を集めた「アンダーグラウンド」に続き、今度はオウム真理教の信者(元信者)の気持ちや主張を聞き書きしてまとめた本である。オウム真理教に入信した動機や内部での生活の実態が8人の信者(元信者)たちによって語られている。

著者は「あとがき」にこう記している。「彼らは、自分たちが人生のある時点で、現世を捨ててオウム真理教に精神的な理想郷を求めたという行為そのものについては、実質的に反省も後悔もしていないように見受けられる」。「私がオウムの信者、元信者のインタビューを続けていて、その過程で強く実感したのは、『あの人たちは「エリートにもかかわらず」という文脈においてではなく、逆にエリートだからこそ、すっとあっちに行っちゃったんじゃないか』ということだった」。「彼らが共通して抱いていたのは、自分たちが身につけた専門技術や知識を、もっと深く有意義な目的のために役立てたいという思いであったのではないか」。

著者の理解が正しいかどうかはともかく、インタビューした信者たちは、地下鉄サリン事件の実行者である幹部たちとは異なる、その他大勢の信者たちの教団への姿勢を代表していると言えるだろう。オウム真理教事件の背景を知るための資料として参考になる。


2「宗祇」(小西甚一)を読む

これまで私にとっての宗祇は、漂泊の連歌師というイメージだった。漂泊というとどこかうらぶれた感じだが、実際はそうではなかったらしい。

「痩せ衰えた宗祇がひとり寂しく時雨の野をたどる旅姿は虚像であった。同様に、粗末な仮庵でほそぼそと生きている清貧の隠者としての宗祇も、やはり虚像だと思われる。種玉庵と名づけられた宗祇の住居はけっして粗末ではなかったし、ふところぐあいはむしろ裕福であった」。「宗祇の経済状態は、すくなくとも五十歳ごろより後においては、かなり裕福であったと認められる。それは、家計失調で奥方に文句を言われてばかりいる(三条西)実隆のため、地方豪族からの献納や年貢の取立てに協力するだけでなく、宗祇自身がしばしば献金しているのである」。

本書では、宗祇の実像を明らかにするほかに、連歌とは何かという詳しい解説がなされているので、連歌についてのよき入門書にもなっている。とくに、巻末に「水無瀬三吟」の評釈がついているのはありがたい。それを見ると、宗祇の連歌師としての資質がすぐれていることがよくわかる。小西甚一の本は他にも読んだことがあるが、本書も含め論旨明快な良書ばかりである。


3「詩人の運命」(岡本潤)を読む

明治から昭和の戦後まで生きたアナキスト詩人の自伝である。大杉栄、辻潤、萩原恭次郎、金子光晴、小野十三郎、秋山清、草野心平、中野重治など著者と交流のあった人々の様々なエピソードを始め、大正・昭和時代の日本のアナキスト、ボルシェビキの詩人や活動家たちの実態が興味深く描かれている。

著者の詩作品にはあまり共感できないが、複雑な育ち方をした少年時代から戦後の共産党時代まで、統制と束縛を嫌い自由なアナキストとしての生き方を貫き通した姿勢は見事である。

それにしても、当時のアナキストたちは弾圧されて何度も警察に留置されているのに、酒を飲んでは大騒ぎし、あたりかまわずけんかを繰り広げる無頼さが許容される、うらやましい時代であったようだ。

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