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キレイなヘアライン

最近のカスタム・フォルダーのブレードの表面仕上げは多様性があり、とても興味深く、見ていて楽しいですね!

・・・ゼロ年代のオールドスタイルのカスタム・フォルダーは、ヘアライン(ハンド・ラブド)仕上げが一般的・・・と言うか、これ一択というほど固定されていました。当時の伝統性やトレンドが大きく影響していたのでしょうね。

私も、フルタイムに転向したゼロ年代初頭、ある理由からブレードの仕上げをヘアライン(ハンド・ラブド)にするようになりました。
それまでのパートタイム時代は、ほとんどの仕上げはミラー・フィニッシュだったのですが・・・

ヘアライン(ハンド・ラブド)仕上げに転向するにあたり、かなり苦労しました。パートタイム時代の私のブレードは、ホロー・グラインドでミラー・フィニッシュでした。
これをそのままヘアライン仕上げにしようとしたんですが、かなり難しい・・・と、言うか、残念ながら上手にできませんでした。

ホロー・グラインドをヘアライン仕上げにしようとすると、どうしてもエッジ・ラインに平行してヘアラインを引かなければならず、これがなかなかに難しい・・・
ワンクリフやシープフットといったエッジ・ラインが直線的なブレードは比較的簡単なのですが、クリップ・ポイント等のポイントが反り上がっているブレードは、エッジ・ラインに沿ってヘアラインを湾曲させなければならず、なかなか自然なラインが引けないんですね。
・・・エッジ・ラインが湾曲する直前で躊躇してスピードが落ちたり、湾曲面でサンドペーパーの押しつけ圧が変わったりとか・・・この影響でヘアラインが蛇のウロコみたいな蛇腹模様になったりして、なかなかウマく引けませんでした。

・・・そこで、いろいろと悩んだ末、私はブレードのグラインドを全てフラット・グラインドに変更しました。
このフラット・グラインド・・・名前はフラットとは言え、実際は全くフラットではなく、複雑な3次曲面で構成されていて、どちらかと言えば、ゆるやかなコンベックス・グラインドに近いんですが、結果的にはヘアライン仕上げとは相性が良かったようです。
フラット・グラインドに変更した後は、ヘアラインをタングからポイントに向けてまっすぐに引く事ができるようになり、その結果、なんとか納得できるカスタム・グレードなヘアラインを引けるようになりました。

画像のナイフは、撮影用ボックスを使っているので、白い天井が反射してブレードのヘアラインが飛んでしまっていて、残念ながらほとんど見えませんが、まぁ、こんな感じです。(心の目でみてください、笑)

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今回はこのヘアラインを引くためのコツをご紹介しようと思うのですが、
残念ながら、その引くスピードやサンドペーパーの押しつけ圧の具合は文章でウマく表現できませんので、参考になる治具やヒント等をご紹介していきます!

まずはヘアラインを引くための治具のご紹介です。
私は何種類かのゴムやスポンジで作った治具を使用しています。
以下の画像が、私の使用しているヘアライン用の治具です。
この治具に短冊状にカットしたサンドペーパーを巻き付け、ヘアラインを引きます。

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1番と2番は、比較的柔らかめのゴムで作った治具です。素材は同じものです。硬さは、文章ではウマく表現できませんが、硬すぎず、柔らかすぎずな感じです・・・スイマセン。
このふたつの違いは・・・画像ではちょっと分かりづらいですが、1番は角のエッジを丸めたタイプ、2番はエッジを丸めていないタイプです。
仕上げのヘアラインを引く時に、ブレードにスウェッジがあるか無いかの違いで、使い分けています。
スウェッジがある場合は、1番の治具を使った方がヘアラインの筋がスウェッジにかからないので使いやすいです。
ゴムはどうしても湾曲するので、その影響で両端がダレてくるのをできるだけ避けるようにしています。

3番は、かなり硬いタイプのゴムです。この治具の素性はハッキリしています。皮革用の穴あけポンチを打つ際の下敷き用の硬質ゴムを使って作っています。これは、2次曲面のボルスタに磨きをかける際に使用しています。

4番は、硬めのウレタン・スポンジです。
硬さはですね・・・例えば、精密機材を収納するアルミケース内にカメラのレンズ等をピッタリ入れる用の緩衝剤として使用されているしっかりしたスポンジ(ウレタン?)みたいな硬さです・・・スイマセン、ボンヤリしたイメージで。
これは、ハーフ・ドーム状のボルスタにキレイにヘアラインを入れたいときに、ハーフ・ドームに沿って密着してくれるのでとても便利です。
以下の画像のボルスタのようなハーフ・ドームに使用します。

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次に、ヘアラインを引く際の工具の工夫等をご紹介します。

・・・はじめに使用している工具の話ですが・・・私は、MUTOの自在バイスを使用しているのですが、これ、直立させた時にクチ金が45度傾いている
という独特のバイスです。これが意外に使いづらい・・・そこで、ブレードを固定するための治具に加工を加えてあります。
以下の画像のように、バイスにくわえさせる部分を45度の角度にあらかじめ削ってあります。

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こうすることにより、バイスが直立状態で治具も水平になり、左右にそれぞれ45度ずつ傾けられます。その結果、ブレードのスウェッジ部分を磨く時にとても便利です。

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次にヘアラインを引くための作業です。
私の最終的な仕上げヘアラインは1200番です。当然ですが、それまでの下磨きをキッチリ1200番まで終わらせた後に、仕上げのヘアラインを引きます。
ナイフメイカーにより様々でしょうが、私の場合、できるだけブレードを白っぽく見せたいので1200番にしています。これ以上の番手だとヘアラインが細か過ぎて、ちょっと黒っぽく見えるような気がします。

まずは、先ほどのブレードを固定する治具に、革をセロテープで貼付けます。これはせっかくキレイに引いたヘアラインにキズが付かないようにするための養生です。

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続いて、タングが当たる部分の下に小さく切った革を何枚か重ねて張り付けます。この状態でブレードを固定すると、画像のようにタング側からポイント側に向けて下り斜面ができ、ブレードのポイントが治具に密着します。
こうすることにより、ヘアラインを引いた際のポイントのダレを防止できます。

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この状態で、先にご紹介したあてゴムを使ってヘアラインを引きます。
ただひたすらヘアラインを引きます・・・キレイに見えるまで、ひたすら引きます・・・キレイになっても、ひたすら引きます・・・納得できるまで、ひたすら引きます・・・と、言う訳で特別なコツはありません。

キレイにヘアラインを引くための注意点をいくつか上げるとすれば・・・


1.ヘアラインを引く際は、サンドペーパーをケチらないで、毎度毎度かならずサンドペーパーの新しい面で引く。

2.速からず、遅からずの一定のスピードで引く。

3.かならずドライ状態で引く。水やオイルを使って引くと表面に膜ができて一瞬キレイになったように見えますが、乾くと粗が見えます。

4.だんだんキレイになってきたら、照明の反射光を利用して、ヘアラインにムラが無いか確認しながら引く。

5.時間的な余裕をもって、落ち着いて引く。最低でもブレードの片面30分〜60分くらいかけるつもりで。

以上、こんな感じでしょうか?

みなさまのご健闘をお祈りいたします!

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