[書評]形式化された音楽

 本書はヤニス・クセナキスによる数学を使って音楽を作ろうとする試みを記した本です。構成としては、第1章から第6章までは音楽を数学的に解析し、それを数式に落とし込んで作曲までについて書かれています。第7章から第9章までは歴史上で音楽に対してどのような試みがあったかの紹介をし、それらと第6章までの内容を元に音楽の数学化をより発展していき、最後には作曲をするアルゴリズムを作り出しています。
 第10章から第14章までは立場を変えて作曲家として論じています。時間、空間についての考察をし、よりダイナミックな作曲を試みています。

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第1章から第6章まで

 推計学に基づいて音楽を解析しています。音楽を確率法則によって具体化し、楽器1つ1つの音をベクトル化していきます。それらについて議論するとマルコフ連鎖を使うことで理論化することができます。それに加え、精神生理学に基づき人間に聞き取れる音に絞り込みます。また、音粒子のクラウドを図式化するスクリーンを導入することで、初歩的な代数学に落とし込むこんでいます。このようにすることでマルコフ連鎖を使う土台ができ、実際に解析をしていきます。
 別の理論化として、ゲーム理論を導入しています。例えば指揮者と演奏者は楽譜に対して様々な解釈をし、それに基づいて演奏をしますが、その解釈を戦略とみなすことでゲーム理論に落としてこんでいます。2人の指揮者A、Bによる演奏を評価し(この評価は主観に基づく)、それを行列化して解析をしています。
 また今までの理論を基に計算機による作曲について議論もされています。これまでの議論は実際にプログラム化され、作曲もされています。
 最後に論理学、代数学の視点から作曲を数学的記号で表現され、ベクトルや集合として扱うことに問題がないことを論じています。

第7章から第9章

 ここではまず、音楽が歴史的にどのような分析をされたか、その分析の問題点や注目すべき点について論じることから始まり、音楽における哲学について解説されています。それらを基に定式化、記号化をし、音楽の表現をしています。
 一方でフーリエ級数は重要であるが十分でないとし、その問題点について解説しています。それを解決するために微細音響構造の提案しています。これは無秩序の概念から出発し、その無秩序の程度の増減をコントロールする手法で、これを作曲にも取り込むことができるはずということを議論しています。ここではその手法に基づく7種の方法が紹介されています。

第10章から第14章

 作曲の世界に解析学、確率論を持ち込んだことによる、時間、空間のその中の出来事や対象物の列からその列の基になっている対称性を抽出する必要があることを主張し、論じています。それを分析する第一歩として、空間や時間の中の出来事や対象物の列から、その列の元となっている対称性を抽出する必要があり、その対称性をもつ出来事の列を作りだす「ふるい」という操作を提案しています。その「ふるい」はどのように構築され、その数学的構造を解説、理論化し、最終的にはアルゴリズム化し、実際に実装しています。本書にはソースコードも記載されています。

本書の問題点

 音楽の数学的に解析し、それを基に実際に作曲を行うなど実績がある手法を論じていますが、本書にはいくつか問題点があります。特に問題となるのはセリー音楽に対する批判が多く、あまり筋が通っていないところです。その批判は数学を根拠にしていますが、その数学に対する理解がずれており、妥当な批判とはいえません。また、著者のいうセリー音楽の意味もしばしば本来の意味から遠ざかっており、この批判も妥当とはいえません。
 数学の論理展開も強引で怪しい箇所もあり、また無意味な証明があり、そのまま利用するには危険なところもあります。また、結論に影響はないですが、計算ミスも多く、読む際に混乱を招く可能性があります。

まとめ

 本書にはいくつか問題点があります。しかし、提案されている音楽の分析手法はかなり有益で、実際に作曲もできていますので信頼性はあるかと思います。実際に作られた曲も著者名のヤニス・クセナキスで調べるとすぐに出てきますので聞いてみるといいと思います。
 また、ヤニス・クセナキスは建築家でもあり、1958年に開催されたブリュッセル万博のフィリップス・パビリオンを設計しています。それも調べてみると思います。

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