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「24時間本屋さん」の思い出 その4

その1の記事はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662

“15歳のとき、ぼくは黄疸にかかった。病は秋に始まり、翌年の初めになってようやく癒えた。年が押し詰まって寒さがつのり、天気がどんよりするにつれて、ぼくの身体は衰弱していき、年が改まってようやく快方に向かうことができたのだ。その年の5月は暖かく、母はぼくが「24時間本屋さん」で横になれるようにしてくれた。”

イベント開始から11時間が過ぎ、椅子に座っているのも疲れてきたので、ピクニックシートを敷くことにした。みんなで手分けをして、机とイスを片付けて、3枚の布シートを準備した。
みんなが床に座るなり寝転ぶなりしていると、修学旅行の夜のような、特別な雰囲気を感じた。年齢層はバラバラで、ここは本屋という要素を加味すると、修学旅行の夜というよりも、人類最後の夜と言った方が適切な例えかもしれない。
世界はすべて、未知のウイルスに感染したゾンビだらけで、ぼくたちは最後の人類。食料も特別な設備もなさそうな本屋に、逃げ込んだぼくたちだけが襲われずなんとか生きている。そんな気持ちになった。

非日常を感じながら、朗読会が始まった。みんな、自分の好きな作品を読んだ。ノンフィクションも小説もあった。立って朗読する人もいれば、椅子に座って朗読する人もいた。灯りを消して、朗読者にだけスポットライトがあたるようにして読んでもらった。
しっとりとした時間だった。朗読後は質問タイムになるのだが、多くの人は質問をしなかった。ぼくには、とてつもなく居心地のいいものに思えた。語らず、ただ人が作品を声に出して読む様子を眺める。それだけで、これほどリラックスできるものだと思わなかった。この空間に緊張はなく、ただ時間だけが流れていた。この空間に批評や虚勢、称賛、共感はなく、ただ作品だけがあった。
また、いつかやりたいと思う。

朗読会の後は、赤坂散歩に出かけた。
自由参加だったが、全員が店の外に出ることにした。街は静かだったが、ぼくたちの気持ちは静かに昂っていたと思う。
深夜に大人たちが、街を徘徊している。しかも、この集団の誰一人も酒を飲んでいない。こんな状況ありえるだろうか。

「時刻は深夜零時を迎えましたIt’s Showtime!」と叫んでみたいところだった。まあ、そんなことはしないのだけれど。

24時間本屋さんは、まだまだ続く。

その5はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/n8f7bdd71abe5

※この記事は2019年5月2日~3日に、双子のライオン堂書店で行われたイベント「24時間本屋さん」の感想文です。感想ですので、事実と異なるフィクションが含まれています。
https://peatix.com/event/635701/view

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