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ミコロボ《反転》17(終)

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サヨナラ、スキダッタヨ。
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火星圏タレス、出港口前の宇宙にて。
戦の残骸が漂う真っ暗で静かな空間で、[トールメイス・サウ]3隻と[フレアランス5]は走行を停止していた。
理由は明確で、彼らの仲間の宇宙船である[天海号・弐式]がタレス内に入港したからだ。
それが出てこない以上、彼らは移動ができなかった。

[トールメイス・サウ]、[フレアランス5]の周辺に、人型のロボが少なくとも20体以上待機していた。
有人用のロボから、HRのロボ形態まで、様々な機体が宇宙船の前についていた。

アレックスが一般用の3機合体ロボ【パスティーユ】の前に、プロトタイプ的な機体を開発していた。

実際には、石切寿恵子(いしきりすえこ)中尉が乗る【軍用機】は2代目である。
初代は【ポーリアドール】という1人乗りの巨大ロボを試運転させていたが、パイロットの暴走も相まって撃墜された。
寿恵子と同じ正規軍出身の日本人だったが、1人でのこのこ行かせた寂しい状況だった。

ところが、[ラストコア]の2度目の《宇宙進出》では、寿恵子以外の正規軍出身の人間が少数ながらも存在した。
階級的に上官の立場だった主導者ジェームズに連れてこられた彼女達は、『志願兵』と呼ばれた。

彼女達には、色々な不安を抱えていた。
元々正規軍の指導が行き渡った人達だ。

上層部が忌み嫌っていた[ラストコア]の面々と、うまく接していけるのか?
また、彼女達は【軍用機】のパイロットとして、戦場の前線に立たなくてはならない場面にも遭遇するだろう。
[ラストコア]に参加する前の訓練で、寿恵子達は禁断の生命体・HRの脅威を思い知らされた。

実際のHRと出会ったのは[ラストコア]の臨時支部に来てからであっても。
寿恵子達は机上の講習にて、過去の映像やうまく撮影された画像を見せられた。
その中には、未衣子達白井3兄妹も巻き込まれた、10年前の[天海山ユートピア]の『事故』の詳細も一緒に含まれていた。

講習ではきちんと事実が伝えられた。
『事故』ではなく、襲撃『事件』であると。

悲惨さを表す数々の画像に、彼女達は顔を引き攣らせていた。
ショックのあまり、両手のひらを頬に当ててしまった者も現れた。
同時に、この大規模な『事件』を正規軍では聞かされなかった件についても、驚愕した。

『正規軍は関わりの持たなかった騒動を細かく説明しないのです。
あなた方が知識不足なのも当然です。気に病む必要はありませんよ。』
丁寧な口調で話した講師だが、この言葉に彼女達は救われた。

【軍用機】の操縦も大変だった。
『一般機』である【パスティーユ】の前段階の3機合体ロボ。

合体前のジェット機1機に1人は必ず搭乗するので、ロボになるには3人が必要だ。
3人で組んで、チームワークを強固にしないといけない。

本来ならば[ラストコア]管轄の海底の基地にて演習を行いたかったが、慣れない人間に合体訓練をさせると、周りの被害が及んで基地を壊滅させかねない。

【パスティーユ】の時はロボが1体のみで、白井3兄妹だけの指導だったから、海底の基地内での演習でも過ごせたが…。

あまり使われていない、閑散とした地上の基地を利用するしかなかった。
【軍用機】のジェット機のユニットを2体分、船も経由してその基地に搬送してもらった。

15人の志願兵だと、5チームの編成になる。
2体分となれば、1回もしくは2回交代しての訓練となる。
全員で一斉に教えを叩き込むよりも、時間を要した。

ジェット機から合体して1体の人型ロボに変わろうとするのには、1番苦労した。
志願兵達の中には、アニメを熟知している者もいた。

その者は合体イコール個々の機体同士をくっつけて変形させると想像していた。
今まで観てきたアニメの内容がそうであったから。

ところが、【軍用機】は【パスティーユ】の前段階のロボである。
【パスティーユ】が接続の合体を要しないのだが、【軍用機】もそれは同じであった。

アニメ内での設定との差異を認識しなければ、混乱が生じる。
実際、搭乗前に【軍用機】の合体の説明があって、『えぇ…?』と困惑の声を漏らしている兵士もいた。

【軍用機】はジェット機で三角形を作る。
メインを担当するジェット機を上の頂点に置き、残りは下に配置する仕組みだ。

正面と背面から見て、2段のピラミッドが出来上がっていると判明すると、三角形のラインが出現する。
前と後ろ、1つずつ。
概念的に三角柱として見立てるように。

3機のジェット機が光り、それが1つにまとまっていく。
光がじわじわと消えていく頃に、ロボのお出ましとなる。