【011】富士山ゴールドラッシュ

快晴だ、ああ快晴だ、快晴だ

俳句に疎い私でも、さすがにこの句で何かの賞に応募しようとは思わない。

今年2戦目のヒルクライムレースは富士山を登る長距離コースを選んだ。
毎年梅雨入り時期に開催することもあり、当日の天気は不安定な年が多いようである。
今回も例に漏れず、前日までは台風で天気は大荒れだったが、当日は台風一過で快晴であった。
周りの参加者が口々に呟いていた内容を纏めたのが冒頭の句である。
要は皆「快晴だ」しか言っていない。
それくらい快晴だったのだ。

この大会は開催規模、参加者規模から、お祭り大会としても楽しまれているようである。
確かに、前日受付の会場ではエキスポが大々的に開催されていたり、当日のコース脇でも和太鼓隊がいたりと、他の大会ではなかなか見られないような光景が多い。
「お祭り」と言うからには何か祭っているのだろうと受付会場を回っていると、前回大会までの歴代優勝者の写真が門に括ってあった。
とても祭られているような装飾ではない。
そもそも、彼らは現存しているし、今大会にも出場している人も多い。

会場内で一際人だかりが出来ていたのが、全参加者の名前で作った大会ロゴのモザイクアートパネルであった。
九千人弱の参加者の中から自分の名前を見つけ出そうと皆必死である。
まるで受験の合格発表のように、見つけた者は歓喜の声を上げてパネルと一緒に写真を撮っている。
受験と異なり救いのある点は、必ずどこかに自分の名前があることだ。
私も、1分探して無ければ諦める心意気で左下隅の方から探してみると、奇跡的にも30秒程度で見つけられた。
居ても立っても居られない心境で、さあ受験番号を探すぞと覚悟を決めてパネルを見ると、最初に自分の番号があった時の、あの呆気なさである。
一応記念に写真を撮ろうとスマートフォンを構えると、皆の足元から斜め上にレンズを向ける格好になる。
巷の撮影会だと確実に出入り禁止を食らう迷惑客そのものだ。
しかしここは自転車レース会場である。
自分の健脚ぶりを見せつけようと、レース当日でもないのに短パンジャージを履く選手ばかりなので、むしろ喜んでレンズに足を向けてくれるだろう。

この大会の参加モチベーションになるのが、完走タイムに応じたリングがもらえる点である。
上位2%程度に入ると、何とゴールドリングが貰える。
最近は金の相場が高騰しているようなので、リングを換金して生活を豊かに出来なくもない。
どれくらいの価値があるか算出してみよう。

金の比重は18金を基準にして15.0g/cm3、価格は8800円/gとする。
昨年獲得したリングの寸法は以下の通りであった。
外径:35mm 内径:29mm 幅:10mm

(1)リングが全て金の場合、リングの体積は3.0cm3。
重量は45.0gとなるので、価格は39.6万円。

(2)金メッキ処理の場合、リングの表面積は26.1cm2。
メッキ厚さは最も薄くて3μmのようなので、この場合、金の体積は0.008 cm3。
重量は0.11gとなるので、価格は968円。

リングが全て金ならば2か月は生活できるが、メッキならば1日の食事分にしかならない。雲泥の差だ。
しかし、ゴールドリングを獲得した人のSNS等を読むと、歓喜の度合いが凄い。
1000円弱であの喜び方は私には出来ない。
公表はされていないが、リングには40万円の価値があるに違いない。
その事実に気づいた者が、常軌を逸したトレーニングを行っているのだろう。
私も気づいてしまったし、資産を増やしたいので、来年の大会に向けて常軌を逸さなければならないようだ。

私の完走タイムが気になるような奇特な読者は、妻だけであろう。
妻も社交辞令で聞いているだけに過ぎないはずだ。
ゴールドリングを獲得し、生活が豊かになった暁には結果を公表しようと思う。

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