【SEKIRO】まぼろしお蝶とはなんだったのか

フロム作品の例に漏れずSEKIROも肝心なところを完全には語らないゲームであるが、実は主要キャラのそれぞれの目的はちゃんと語られていたりする。

九郎様:竜胤を断ち、淀みを消す

弦一郎:竜胤の力を使い葦名を(内府から)守る

一心:九郎様の不死断ちを為させる→しかし弦一郎の行動により黄泉返ってしまったため、葦名を守るという願いのために狼と戦う

梟:竜胤の力を使い、己の名を日の本に知らしめる(つまりほぼ自身による天下統一が目的といえるだろう)

エマ:仏師殿がいずれ怨嗟の鬼となったとき、拾われた恩を返すため自分が斬る

仏師殿:いずれ怨嗟の鬼と化すことはわかっているので、鬼を斬れる者(=狼)が来るのを待っている(エマにその役をやらせるのはしのびない)

変若の御子:死なずの探求に利用されないようにするため、奥の院に立て篭もる→九郎様の不死断ちを聞き、文献で読んだ帰郷作戦を立案

これらは全て、本人たちの台詞で語られている内容である。
エマ・仏師殿は条件付きの盗み聞きで聞けるイベントなので見落としがちではあるが、他は普通に各エンディングのルートをプレイしていれば聞くことになるだろう。

さて、主要…とまでいえるかわからないが、かなりインパクトがありキャラの立っていたまぼろしお蝶だけがその目的をはっきりと語られていないのだ。

そもそもまぼろしお蝶と会えるのは三年前の平田屋敷襲撃の記憶の中だけなので、ストーリー上重要ではないが。

しかも、肝心のその平田屋敷襲撃の記憶というのがなかなか曲者である。
それは“若様の守り鈴”で見れる記憶と、“義父の守り鈴”で見れる記憶の内容に差異があることだ。
そのうえ、どちらの記憶が正しいというわけではない。どちらにも正しい部分と、実際にはなかったことがごちゃ混ぜプリンになっているのである。
……というような旨の会話を仏師殿と狼の会話から読み取れる。

言ってみれば、“鈴の記憶”を再構成して映し出しているようなものか。
(仏師殿が「その鈴がお前さんに伝えたいことがあるようだ」と言ってることからも)
つまり、“鈴の(持ち主の)主観”が入った状態ではないかと推測できる。

本題のまぼろしお蝶に会えるのは“若様の守り鈴”のほう。

☆まぼろしお蝶の不自然な行動

まぼろしお蝶と対峙するのは、平田屋敷最終エリアの隠し仏殿である。
幻術をかけられた九郎様の元に狼さんが現れ、そこにお蝶が登場する。

「久しいな 梟のせがれ殿」
「さて、やろうか……せがれ殿」

これが開戦の合図となる。

戦闘開始直後

狼「お蝶殿……何故」
お蝶「さてな。惑わば死ぬぞ せがれ殿」

あくまで目的を語りはしないお蝶。

ここでお蝶の目的、九郎様と接触し隠し仏殿にいた理由を考えてみる。
まず最初に思いつくのが「竜胤の力を狙っていた説」
これは少し妙なことになる。
竜胤の力を狙っていたのなら、九郎様と接触して幻術をかけるとこまで行っているのにいつまでも隠し仏殿にとどまる必要はない
ちょうど幻術をかけたところに狼さんが到着した可能性もあるが。
しかし仏殿の手前にいる若様(伊之介)が今しがたお蝶にやられたという感じではない気がした。
証拠はないのでなんとも言えないが。

余談だが、この時すでに伊之助は目をやられているが、これは幻術に惑わされないように自ら目を潰したなんていう少年漫画のようなかっこいい妄想もできる(

本題に戻ってお蝶がその場に留まっていた、もっと言えば“誰かを待っていた”ように思うのは台詞からも感じる。

「久しいな 梟のせがれ殿」
「さて、やろうか……せがれ殿」

まるで狼さんが来るのを知っていたかのような口ぶりではないでしょうか?
狼さんが想定外の来客だったのなら、「せがれ殿……何故ここに」とか「まさかここまで辿り付けるとはね」的な反応になるはず。
もっとも、狼さんが御子の従者に宛がわれているのはお蝶も知っているはずなので狼さんが来てもおかしくないと考えるかもしれないが。

お蝶は誰かを待っていた、そのために御子に幻術をかけ泳がせた(餌)ように見える。

☆お蝶が待っていた相手

考えられるのは梟か狼だ。
梟とは修行時代からの仲間であり、一心の元で国盗りに参加した仲であるので、普通に考えて梟とは共謀者である可能性が高い。
あの場に狼を引きずり出し、始末したうえで御子を拉致。
梟は狼にやられたことにすれば、梟の「謀よ」も概ね完成する。
あるいは梟からは何か別の目的を聞かされていて、利用されていた可能性もある。
なにせエマさんに不意打ち手裏剣をかますくらいには狡猾な梟である。

一方で、梟と敵対していて梟を狙ってきた説も考えられる。
梟の謀にお蝶へのメリットが1mmもないからだ。
そこに「梟が竜胤を使って謀反を企てている」と知れば始末しに来るかもしれない。
とはいえ、そちらもお蝶にはメリットはなく、わざわざ仏殿で餌まいて待っていなくても屋敷正門で戦えばよかっただけではある。
どちらにせよそれらを示す証拠はないので、ここは素直に考えて共謀者であると見るべきだろう。

☆結局、お蝶がやろうとしていたこと

九郎様を使って狼をおびき出した。
梟の計画の全貌を知っていてか、知らずか…どちらにせよあの場で狼と戦うことになるのを承知していたように思う。
梟にしてみればどちらが倒れてもいいので。

さて、ここで一度話を飛ばすが、“義父の守り鈴”で見られる過去では梟がダイナミック死んだ振りをした場所にいたのは弧影衆 槍足である。
弧影衆といえば内府の忍、一心の言うところの鼠である。
そして彼は狼が来ることを知らなかったようだ。

「何故貴様がここにいる?話が違うな」

という戸惑いの台詞を聞ける。
フロムお家芸の「騙して悪いが」案件である(
さしずめ梟からは「御子の忍も不在だからヌルゲーじゃろう」的なこと言われていたのでしょう。
なおあそこに槍足が配置されてたのはあくまで「梟は内府と通じてました!」という謎明かしのため以上の理由はないと思われる。

最初に述べたように、これが“実際にあった過去とは限らない”のだが、梟の死んだ振り作戦会場がここでなかったのなら、会場はやはり狼と対峙した隠し仏殿ということになる。

若様の守り鈴と義父の守り鈴で見られるこの差異。
これをどう考えるか。

ここで最初の“鈴の記憶”という推察を当てはめると、義父の守り鈴は梟の持ち物なので、その記憶=梟は隠し仏殿にいたことになる。
一方でお蝶がいた若様の守り鈴は、野上のおばばの持ち物である。
というか、ゲーム内現代で鈴をもらえるのがおばばからであるだけで、あの時鈴をもっていたのは伊之介かもしれない。
“若様の”守り鈴なので。

そうなると、鈴に記憶されるのは伊之助が対峙したお蝶とそのまぼろしであり、そこに梟がいないのも当然だろう。

本来、お蝶と戦ったのは伊之介なのではないだろうか?
狼はその後に隠し仏殿で梟と戦い、敗れたのである。
しかしそうなると、梟にとってはこれは都合が悪いはずだ。
死んだことにしたいので。
だが狼もできれば懐柔、無理なら始末したいはずだ。
そこで懐柔できなければ殺し、そのうえでお蝶のまぼろしを使って「記憶のすり替え」を行ったのではないだろうか?

本編開始時はこの平田屋敷襲撃事件の三年後、狼が井戸底でメンタルブレイクした状態から始まる。
この空白の三年間は一切語られておらず、プレイヤー間でも様々な憶測がでてるところでもある。
このメンタルブレイクがお蝶の幻術による副作用だったり後遺症だったりする可能性もある。

“若様の守り鈴”が狼に見せたかったことというのは、お蝶との戦いを通して「あそこにいたのはお蝶じゃない、自身の記憶との食い違いに気づけ」ということだったように思う。

☆つまり、まぼろしお蝶とは……

お蝶自身がまぼろしになるということ

だったのではないだろうか。
だがそれにも一つ問題がある。
そこまで目的を完遂しておきながら、九郎様を拉致しなかった(できなかった?)ことだ。
それも刺されて瓦礫の下敷きになった狼の元にひょこひょこ寄って来て、不死の契りを交わすくらい野放しだ。
あの場にいたのがお蝶だったにしろ梟だったにしろ、竜胤や九郎様が目的だったらそんなことされる前にさっさと連れ去るはずなので。

タイミング的にちょうどそこに弦一郎率いる葦名九郎様ハイエース部隊が来たのかもしれないという考察もあるが、それらを物語る証拠はないので闇の中である。

あるいは、お蝶が若様の守り鈴を通して「お前を殺した裏切り者を思い出せ」という警告を与えるために残したまぼろしお蝶人生最後の幻術だったのかもしれない。

だからこそ、あの場に狼が来ることを知っていたし、狼の左腕が忍び義手になっていることに対する反応もなかったし(過去梟は戦闘中に忍び義手を使うと「猩々の忍び義手か。妙なこともあるものよ」と口にする)、まるで狼と戦うためにそこにいたかのようだったとも考えられる。

☆まとめ

結局のところ、お蝶の目的は定かでなければ、本当はどこにいてどうしていたのかは明言できる証拠はない。
だが一つ言えるのは、あの記憶の中では狼を待っていて、戦うことになる覚悟でいた。九郎様を拉致ってとんずらしようと思えば可能だった(だがやらなかった)。ということだ。

まぼろしお蝶……まさに存在自体がまぼろしであった……
蝶々は、大事。

間違った。

お米は、大事。

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