無題
美しいとか、悲しいとか
そんな、ありきたりな言葉たちと
家の窓から眺める見慣れた風景は
どこか似ている気がする
◇◆◇
梅雨入りして一週間
思ったほど雨は降らずその日も晴れ時々曇り
仕事は休みで子ども達は学校へ
午前中諸々の用事を済ませ
いつもなら自宅で休憩したい時間なのだけれど
なんとなくこのまま走りたい、の気持ちに身を任せ国道をドライブ
お腹は特に空いていなかった
コンビニに隣接した道の駅を過ぎると
それまで多く建ち並んでいた新築住宅が消える
右手には海という名の湖が大きく開いている
きらきらと眩しい
ときおり紫陽花が、流れる視界の隅を控えめに彩る
道路沿いに廃屋のようなものがぽつり、ぽつり現れては
時の流れの感覚をざわつかせる
自宅から車で1時間足らずの場所なのだけれど、
このあたりは所有者や境界確定が困難な土地が多いと職場で聞いたのはつい先日
改めて眺めてみようとふと思った
左折し山道に入ると
災害復旧工事のため片側通行
すれ違う車は殆どない
古ぼけた小屋の選挙ポスターに掲げられた
決断と実行という文字は色褪せ
骨が残っただけの看板の残骸は
役割のない目印として佇んでいる
吸い寄せられるようにして
小さな入り江の海水浴場に着く
さすがにこの時期ひとけはなく
外国人グループが一組海辺でキャンプを楽しんでいた
路上駐車の車を数台認めるが誰も乗っていない
この人たちは一体どこに行ってしまったのだろう
頭上で鳶が鳴いていた
◇◆◇
皆に愛され、色褪せることなく
むしろ丹念に磨き上げられ、いつも私の側で瞬いて、
見守ってくれている
飾り気はないけれど、懐かしい言葉たち
白いカーテンを開ければ、緑色の見慣れた景色
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