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イギリス薬局でセルフで薬が買えるようになったワケ(普通の主婦がイギリス弁護士資格に挑戦した話)

大学1年目の必修だったコントラクト・ロー(契約法)はコンセプトが論理的で、とても面白い教科でした。契約法で一番最初に学ぶ事は、お店で何か小さい買い物するときでも、その一つ一つに契約が成立しているというメカニズムです。

 Pharmaceutical Society v Boots [1953] という判例があります。これはイギリスの大手薬局チェーンのBoots(日本のマツキヨ的なお店)を英国製薬学会が訴えたケースです。

英国薬事法により、従来、薬と言うものは薬剤師の管理のもと、カウンター越しに対面販売するものでしたが、この裁判のあった1953年頃にBootsがセルフサービス方式を始めたのでしょう。消費者が、商品棚に並べられた薬を自由に手に取り、バスケットに入れ、薬剤師がいるレジに行き購入する事が出来るようになりました。今でこそ普通の光景ですが、当時は画期的なシステムだった事が想像できます。これを薬事法違反として、Bootsが訴えられたのです。

医薬品のセルフサービス方式が法に抵触するか否かの争点は、売買契約がいつ成立したかです。お客がバスケットに入れた時なのか(その場合は薬剤師の目が届かないところで契約が成立するのでBootsは法律違反)、それとも、レジでお金を払った時なのか(その場合はセーフ)。

判決は、「契約は、薬剤師の前でお金を払った時に成立する。」よってBootsは法律違反ではない。セーフでした!この判例があるから今も薬局で消費者が手に取って薬を買えるのですね。

イギリスでは、最近は処方箋薬でもネットで購入できるものもあります。これはオンライン上で症状などの質問に答え、それが適切であれば薬剤師の管理下で販売した事になるという理屈の様です。「対面販売」の定義がどんどん広がっていきますね。

薬の分類の仕方などに違いはあれ、基本となる考え方は世界共通だと思うので、外国人にも理解のしやすい教科で、コントラクト・ローが好きな学生は多いです。英国独自の慣習や常識が複雑に絡み合っている複雑怪奇な英国憲法と違い、コンセプトが理路整然としている(事が多い)し実生活に密着したトピックが多く興味深い。40歳+で不安一杯で始めた大学法学部(LLB)でしたが、1年目にコントラクト・ローがあって良かったと思います。(でなければいきなり心が折れていたかも…)



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