見出し画像

ロースクール・LLB試験前の身体的不調 あれやこれや

イギリスの大学やロースクールの試験は1年に2回。試験が近づいてくると毎回「ああ、今度こそダメだ」と思い、血の気が引くような感覚を覚えた。

講義はほぼ100%で出席したし、予習もしてノートもとった。それでも試験前になると「私、何にも分かってないやん……」と青ざめる。

とりあえずはカレンダーに「試験対策スケジュール」を記入。各科目の試験日に間に合うように、ザックリと勉強の計画をたてる。もちろん計画通りにはいかないので必要に応じてその日まで何度も修正が加えられる。

「やらなきゃやらなきゃ…」と思っていても中々始められない日もある。勉強しなくては、でも中々机に向かえない、という10代の様な焦燥感を抱えつつ、そんなプレッシャーに耐えきれなくなり、なぜか昼からワインを飲んでしまったりもよくあった。「あらっ飲んじゃったやん!もうこれで勉強できないやん、」とますます狼狽える40代。

それだけではない。あまり早く試験勉強を始めても、アラフォー脳では試験当日には忘れてしまうのではないかという危惧もある。勉強した事を忘れない、ほどよい日程で、それでいて試験日にぴったり間に合う絶妙なプランを立てなければならないのだ。←逃避です。なるべく早く始めた方がいいと思います。

とりあえず試験前と試験期間は、週末に1週間分の夕食を作り冷凍して料理に時間を取られない様にした。

精神的プレッシャーが身体の不調として現れる事もあった。代表的なものとしては

1、胃液を吐く

勉強し過ぎて胃液を吐くという話は聞いたことがあったが、まさか自分にも起こるとは思わなかった。その朝、起きた時から胃がキリキリとしていた。脂汗が出るような今までに経験した事の無いような痛み。そのうち治るかなと思ったがそれどころか痛みはますます激しくなってくる。とうとう立っていられなくなり床に膝を落とす。痛みはどんどん増し、何が起こっているのかわからないまま、そのうち床に這いつくばるような体制となった。

「痛い…」

呻く様な声が漏れる。のたうち回りながら、ふと視線を上げるとダイニングテーブルで朝食を食べながらチラチラこちらを見ている夫と息子と目があった。突然の尋常でない苦しみように、引いたのか、芝居だと思ったのか、何が起こっているのかわからないのかよくわからないが、腹を押さえながらとりあえず男はダメだなあ…と思った。

そのうち、胃から迫り来るものを感じ慌ててトイレへ走る。すると少しだけ黄色味を帯びた透明の液体が喉の奥から逆流してきた。後にも先にも胃液というものを吐いたのはその時だけだ。吐いた後は、今までの痛みが嘘の様に消えた。(汚い話ですみません)

2、膀胱炎になる

それ以前に急性膀胱炎になった事はあったが、この時に経験したのは激しい痛みは伴わないものの常に尿意があるような、おそらく慢性膀胱炎と呼ばれるもの。合う抗生物質を飲めば治るのではないかとNHS(イギリスの国営病院)で診察の予約を申し込んだが、「一番早くて2週間後ね♪」と当たり前の様に電話口で言われ私の中で何かが切れた。(NHSは無料だが待ち時間が長く、重病の人も手術を長く待たなくてはならないため、手遅れになったりユーロスターでパリに行って手術を受けるなどの事もある。今はコロナで既往症のある患者さんの手術がますます遅れていて大変)

子供の具合が悪い時は、ひと押ししてそれでも強引に押し込んでもらったりするが、自分の事だと諦めてしまう。その時はもう、ひと押しする気力がなかった。

膀胱炎には抗生物質を飲めば治る事は分かっている。医者に会えなくても処方箋が欲しいだけなのだ。オンラインで処方薬を出してくれる薬局があると前に聞いた事を思い出し、藁にもすがる気持ちでPCの前に座る。探すとオンライン診断で抗生物質を出してくれる薬局が直ぐに見つかった。オンラインで処方薬を買う事のリスクや怪しさも心配だったが症状や設問に答えると割と簡単に処方箋をだし抗生物質を送ってくれた。(今はこのサービスももっと一般的になったようですが、この頃は半信半疑ながら藁にもすがる思いでオーダーしました。その後心配だったのでNHS の予約が取れた時にGP(家庭医)にその薬を見せると、ちゃんとした薬局の薬という事でホッとした。どこでこれを手に入れたの?と医者もオンライン処方を知らなかったらしく驚いていた。)

でもその薬をのんでもスッキリ治る事はなく、20分毎くらいに尿意に襲われるので困った。(トイレに行っても出るわけではない)

試験は長いものでは4時間に渡る。試験中にトイレに行っては時間のロスだ。どうせ尿意だけで出ないのだら…と40代にして大人のオムツを装着して臨んだ。その安心感からか、実際にオムツを濡らす事は無かったです(笑)。

3、円形脱毛症

髪の毛が抜けた事もあった。ある日、髪の毛をとかしていると500円玉代のハゲを見つけた。これが噂の円形脱毛症か!と震えた。髪の毛を掻き分けて他の場所も注意深く探すと、大小取り混ぜて3、4つのハゲが見つかった。毛のない部分は本当にツルツルだ。幸い、私は髪の毛の量が多いので、他の部分の髪の毛が被さると全く傍目には分からなかった。

しかしこのまま生えてくるのか、ハゲ部分がどんどん広がって他の部分の髪の毛で隠す事もできなくなるのか予想がつかない。後者の場合のために一応ウィッグをネットで見てみると、可愛いのがたくさんあり、少し気がラクになった。

原因はなんだろうと調べると、ストレス性の円形脱毛は、ストレスを受けてから2、3カ月後に抜ける事があると書いてある。2、3カ月前と言えば、ちょうどロースクールで擬似法廷の試験の頃だ。擬似法廷では先生が裁判官、自分ともう一人の生徒が弁護士役となり、それぞれのクライアントの弁護士として、仮の民事のケースを争わなければならない。通常の筆記試験と違い口頭で、相手の言った事に対して素早く反応するのはネイティブでない私にとって、超プレッシャーだった。正直、怖くて怖くて心配で心配で、1週間くらい夜も眠れなかった。きっとあの時のストレスが来たんだな、と妙に納得した。

結局、髪の毛は生えてきてウィッグのお世話にはならずに済んだが、生え揃う頃に他の部分にハゲが見つかったりして、その後5年間くらいは生えては抜け、生えては抜けを繰り返した。円形脱毛は癖になるという話も聞くが、更年期の影響もあったのかもしれない。ここ2年くらいは抜けてない(笑)

と言うわけで、シモの話やらハゲの話やらお聞き苦しい事ばかり書きましたが、なかなか壮絶だったなあという事です(笑)

この試験前の毎度のあたふたもだんだん慣れてきて、「ああ、勉強以外のこういう苦しみも含めて、弁護士試験は大変と言われてるんだろうなあ。ならばこの苦しみも当然のものとして受け止めよう」と悟りにも似た気持ちになってきました。No pain, no gain ですね。

今回は壮絶さに焦点を合わせて書きましたが、もちろん大変な中に学ぶ喜びがあったからやってられました。こんなドタバタを毎回繰り返した末、なんとか形をつけて臨むと、試験会場で問題を解く時はむしろアドレナリンが出る様で楽しかったです。LLB(大学学部)、ロースクール通して、試験を落としたのは最後の1科目だけで、それまでは全て一回で合格する事ができました。





最後まで読んでくださってありがとうございます!サポートしていただいたら、イギリスでは滅多に食べられない美味しい日本食を食べに行きます!