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イギリスの階級社会について思う事 2

イギリスは革命も起こらず近年の戦争にも負けたことが無いので、社会を一度ぶっ壊す機会がないまま21世紀を迎えてしまった。よって何百年もの間綿々と受け継がれて来た「階級」が今でも空気のようにごく当たり前に存在する。 

大学進学について考えてみる。

イギリスの子供の90%以上は公立学校に通うが、オックスフォード大学とケンブリッジ大学の公立校出身者は70%弱だそう。全国で10%以下の私立校出身者が入学者の30%を占めているのだ。とてもアンプロポーショナル。1990年代には公立校出身者はなんと50%以下で、その前はもっと低かっただろう。歴史的にとてもアンフェアな比率となっていた。最近は国や大学も是正する必要を感じているようで、貧困家庭が多い地区などの子供は入学グレードを低く設定するなどの措置を設けて、年々公立学校出身者の率は増えて居るらしい。(個人的にはこれもなんだか逆差別?という気もするのだけれど)

階級と所得の高さは比例すると一概に言えるわけではないが、ミドルクラス以上の人は通常ホワイトカラーの職業についている事を考えれば、ワーキングクラスよりも経済的に余裕があり、私立校に子供を送る層が多いと言えると思う。(関係ないけど、よく日本のTVでヨーロッパのいかにも貴族然とした人が紹介されて「職業 不動産業」などと書いてある事がある。これらの人は街中で不動産屋さんを開いているわけではなく、先祖代々所有している広大な領地や建物の賃貸収入で悠々自適な暮らしをしているアッパーミドルクラスである確率がかなり高いです。)

脱線するが、アメリカに比べ英国でベンチャー企業が少ないのは、このイギリス人にべっとり染み付いたクラス社会が関係しているとも思う。起業するにはそれなりの資金や教育レベルなどのバックグラウンドが必要だが、その様なバックグラウンドを持っている人は既に裕福なので起業して金儲けしようというモチベーションが生まれにくい。貧しい人は教育的にも社会的にも不利な立場すぎてやはり起業マインドが生まれるどころではない、という身も蓋もない二極化。

今でもイギリスの政治家はイートン校など一部のパブリックスクール(トップ・オブ・ザ私立と思ってください)出身者が多く占める。国のトップが特権を享受している層に偏っているのだから、なかなか社会が変わるのは難しいのかなあとも思う。(ちなみにボリス・ジョンソン首相もデビット・キャメロン前首相もイートン出身。その間のテレサ・メイ前首相はグラマースクールという、選抜試験のある公立校出身で好感が持てた)。

よく「イギリスのワーキングクラスは子供を大学に入れたいと思っていないし、置かれた場所でそれぞれ幸せに生活している」と主張する人がいるが、これはミドルクラス以上の人達の詭弁にしか思えない。何十年前ならまだしも、職業の選択の幅や生涯賃金の事を考えたら、ワーキングクラスの親だって子供に大学まで行って欲しいと思っている人が最近は多いに決まっているだろう。

私は息子のフットボールクラブで地元のワーキングクラスの人達と知り合った。ちょっとアクセントが分かりにくくて話についていくのが大変だったが気のいい人達だった。ある時、試合後の打ち上げのパブで、A君のお父さんとビールを飲みながら話をした。A君のお父さんはスカフォルダーと言う足場を組み立てる職人だ。 赤くなった頬で気持ちよく酔っ払いながら言っていた言葉が忘れられない。

「Aには大学まで行って欲しいんだ。俺の様な仕事は怪我もするし歳をとるとキツいんだよ。怪我したらその間の収入は何にも無しだ。」

このフットボールクラブにはミドルクラスの子もワーキングクラスの子も所属していた。同じクラブに子供がいても、階級が違うと何となくギクシャクするのがイギリスなのだが、私達家族は外国人の気安さもあって、誰とも気軽に話していた。あるとき、ミドルクラスのママから

「あなたたちのお陰で階級の壁が溶けたわ!」

と言われてこっちが驚いた。

私はこの国で社会人学生として、子育てしながら大学へ通った。その経験から、この様な不均衡を是正するために大学も門戸を広げて幅広い層を受け入れている事を感じた。

1990年代の初めにポリテクニックという元々専門学校だった教育機関が大学に格上げされ、大学数が一気に増えた。私の大学も元ポリテクニック校。同級生は大学進学せずに一度社会に出てから、やっぱり学びたいと入学した社会人学生や、外国人が多かった。元ポリテクニック大学は歴史の古いラッセルグループなどに比べるとリサーチの成果はいまいちなのかもしれないが、幅広い年齢や社会層の学生に教育の機会を与える受け入れ先として、その存在に意義があると感じた。

卒業式には家族総出で出席し、誇らしげな親が卒業生と写真を撮ったり、泣いていたりの光景がそこかしこで見られ、それはそれはスイート。もしかしたら一族で最初に大学を卒業した人なのかもしれないなあ、などと想像しつつ、見てる私も感動してしまった。

時間がかかるが、この様な教育の場から英国の階級が、固定されたものから移動可能なものになるといいと心から思う。

ところで 「イギリスの階級について思う事1」で書いた様に、階級によってアクセントや話し方の違いが明確にあるイギリス人なので、こちらも合わせる事が必要だ。



ワーキングクラスの人にあまりかしこまった話し方をすると「なにさ、気取っちゃって!」と嫌われる場合があるのでほどほどに砕けた話し方をする方が好感を持ってもらえる。しかしそれに慣れてオフィスワークで、同じ様な話し方をすると礼儀正しくないとか教育レベルが知れる的に思われてしまうので、どちらにしても良い塩梅が必要だ。(英語は敬語がないとかラフに話してOKと思っている方もいるかもしれませんが、イギリス人の場合はTPOによって、割とPoliteness(礼儀正しさ)が重要視されます。)

人によって態度を変えるというのは一般的には悪い事と捉えられるけれど、イギリスではまさに生活の知恵。複雑な社会です。

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