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Xシステムとは。

▶︎Xシステムとは。(概念編)021

自動車教習所で運転の手順を教官から説明された時、やらなければならないことがあまりにも多くて途方に暮れました。当時はまだマニュアル免許が主流で「エンジンを始動させる」「右足でブレーキペダルを踏む」「左足でクラッチペダルを踏み込む」「左手でギアを1速に入れる」「左手でパーキングブレーキを解除する」「左足でクラッチペダルを緩める」「右足でアクセルを踏んでクラッチを繋ぐ」「両手でハンドル持つ」「アクセルを踏み込んで発車する」これだけの作業を一瞬の間に実行して車をコントロールしなければならないのです。確かに頭で考えると混乱しますが、一度作業を身体で覚えれば、あとは無意識に操作出来るようになります。これが「Xシステム」です。

1970年代、アメリカでは曲芸飛行なる娯楽が流行っていました。ある日、ベテランのパイロットが上空で華麗な曲芸飛行を披露していた時の事、左翼が根本から折れてしまいました。彼は一瞬の判断で機体を垂直に。するとかろうじて繋がっていた左翼が奇跡的に元に戻ったので、パイロットは垂直のまま下降して地上を目指しました。そして飛行機が地上にぶつかる寸前に機体を水平に戻して無事不時着することが出来たのです。この間わずか10数秒。この時の彼は何も考えずただ無意識にアクションしていただけだったと後のインタビューで答えたそうです。この「無意識」こそが「Xシステム」なのです。

これもアメリカでの話。ある中年夫婦が朝の散歩を楽しんでいたところ、道路脇に転倒している自動車を見つけました。急いで近寄ってみると車の側には半狂乱になっ母親と車の下敷きになって動けないでいる子供が。女性が母親に聞くと救急車を呼んだがまだ到着していないとのこと。しかし子供の顔からは血の気が引いて一分一秒を争う状況のようです。傍にいた男性は素早い動作で車を掴み、渾身の力を込めました。すると車が徐々に持ち上がって行ったのです。その隙に女性が子供を引っ張り出したところへ救急車が到着し一命を取り留めたのです。車の重量は約1トンほどもあり、とても人間ひとりでは持ち上げられるものではありません。と私たちは思い込んでいます。しかし実は人間の骨と筋肉は本来1トン程度の重さになら耐えられるように出来ているのです。でも普段は骨や筋肉に負担がかからないように脳がセーブしているのです。このときの力を「火事場の馬鹿力」と言いますが、この無意識の力も「Xシステム」なのです。

1960年代、陸上競技男子100メートルにおいて、当時、すべての選手が10秒の壁を越えられずにいました。科学的に見ても二足歩行の人類に10秒を切ることは不可能なのではと考えられていたのですが、1968年のメキシコオリンピックにおいてジム・ハインズという選手が初めて9秒95を出して金メダルを獲得しました。そして不思議なことにそれ以降、他の選手たちも次々に10秒を切る記録を出し始めたのです。これも脳のセーブを解除したことによって「Xシステム」が発動されたのだと思います。

自動車の運転だけでなく、自転車の運転や楽器の演奏など「Xシステム」つまり無意識が発揮される機会は多くあります。

今から20年ほど前「忠臣蔵1/47」というテレビドラマに出演させて頂いたことがあります。主人公の堀部安兵衛に木村拓哉さん。僕は瓦版屋、今で言う芸能レポーターの役でした。しかも木村拓哉さんと2人きりの場面があり、僕はめちゃくちゃ気合いを入れて1ページ半の長台詞を覚えました。撮影前日に京都のホテルに入り、充分に睡眠を取って翌朝撮影現場に向いました。

無言の堀部安兵衛に向かって「討ち入りはやらないんですか?」「いつごろ討ち入るんですか?」とまとわりつくという、ほとんど僕だけが喋って最後に木村さんに睨まれて終わるという場面。さあカメラリハーサルが始まります。僕は意気揚々と台詞を喋り納得の演技を披露しました。するとその直後に監督がやって来て「田窪さん台詞が違います」「へっ?」「昨晩、変更した台詞を渡してるはずですが」まさに青天の霹靂とはこのことです。「いえ、頂いてませんけど」現場はちょとしたパニックになりました。監督がスタッフに問いただすと、なんとアシスタント・ディレクターが変更した新しい台詞を昨晩僕に渡すのを忘れていたというのです。顔から一気に血の気が引いて行きました。

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