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騙す。

▶︎騙す。(実践編)008

元劇団員のエピソードです。彼女は生活のためある飲食店の面接に行きアルバイトを始めました。しかし、そこでの人間関係に馴染めず、特に店長のことが嫌いだったので僅か1週間で店を辞めることにしました。でも、店長に嫌味を言われるのは嫌だし、まともに給料を支払って貰えないかも知れないと危惧した彼女は一計を案じました。それは「父親を殺すこと」でした。実際、彼女のお父さんは田舎で元気に暮らしていたのですが、嘘をついて店長の鼻を明かしてやろうと考えたのです。

当日、彼女は神妙な顔をして切り出しました。父親が重い病気にかかったので田舎に帰って看病したい。働き始めたばかりで申し訳ないが店を辞めたいと。ところが店長はニヤニヤしながら聞いています。「嘘がバレたか」と感じた彼女。一瞬で顔から血の気が引いて行きました。しかしここを乗り越えなければ私の未来は無いと覚悟を決め、おじいちゃんが病院で亡くなった時のことや、飼っていた柴犬が老衰で死んだ時の事などを必死に思い出して父親の事として話しました。するとあら不思議、気がつくといつの間にか彼女の頬には涙が。やがて本当に悲しくなって来て嗚咽しながら店長に言いました。「早くお父さんに会いたい」彼女の涙に驚いた店長は慌てて立ち上がり奥へ行くと、すぐに茶封筒に入った1週間分の給料を渡してくれ「頑張ってね」と優しい言葉をかけてくれました。そして更に「これ僕から」と餞別までくれたのです。帰り道、彼女はつくづく思ったそうです。「わたしって名女優だな」と。これこそ脳の錯覚を上手に使った好例ではないでしょうか。

もうひとつ錯覚が効果的だった例を紹介します。今から20年以上前のテレビバラエティ番組の1コーナーに「未来日記」というのがありました。初対面の男女がスタッフから手渡された日記の通りに行動しながらコミュニケーションを取っていくという内容です。日記には自分の行動だけが書かれていて相手がどう行動するかはお互いに知りません。未来のことが記された日記は開始前夜もしくはエピソードの途中でスタッフから手渡され、その内容が本心に反するものであっても、日記の指示通りに行動しなければならないというルールでした。

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