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【雑文】 深夜に警察がピンポンを鳴らす    番外編

去年の4月から1年間、我が家はマンション自治会で役員の当番になっていました。
わりと戸数の多いマンションなので、役員は会長以下、さまざまな担当係りを合わせ20人ほど。
毎月一度、土曜日の夕方に90分ほどのミーティングが行われ、夫が参加していました。

新しい顔ぶれでスタートした2回目の会議で、役員たちの席に置かれている部屋番号と係り名が印刷されたプレートを何気なく見渡していた夫は、あるひとりの男性に目が釘付けに。

メガネをかけた細身の男性、仕事帰りなのかグレーの作業着姿で、周りの他の役員たちが談笑する中でひとり、配布された議題が書かれた紙に目を落としている男性、その席の前に『403』のプレート・・・。

役員会議が始まり、いくつかの議題と話し合いが行われ、最後の議題が「不審者について」。
5月上旬にマンションの7階ベランダに未成年の侵入者があった件です。
会長が、管理会社から受けた説明をこの場で報告し、「戸締りはしっかりお願いします」と締め括った直後、先ほど、夫がガン見、いや、注目していた男性が手を挙げ、
「この不審者は、うちの息子です。この度はご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。」と頭を下げたそうです。
男性は詳しい説明はしなかったそうですが、この件では息子に厳しく指導したのでもう二度とこのようなことは起こりません、と役員たちに謝罪。
会長さんは、言いにくいであろうことをよくここで話して下さいました、とねぎらい、他の役員たちも特に質問などはしなかったとのことでした。

会議から戻った夫がこの話をしてくれて、親がまともな人だったこと、犯人が中学生だったことでひとまずホッとしました。

それから約4ヶ月後。

秋のある夜、深夜1時ごろ、夫が寝る前に部屋の空気を入れ替えようとリビングルームのガラスドアを開くと、なんと!ベランダに男の子が佇んでいたそうです!
我が家のベランダの角っこにもたれて、ごくごく自然に立っていたそうです。
いきなりカーテンとドアが開いて夫が顔を出しても驚く風もなく。

「キミ、この上の部屋の男の子だよね?」
夫が話しかけるとその子は素直に、ハイ、と答え、
「またベランダから降りてきたの?」の質問にも、ハイ、と悪びれることもなく答えたそうです。
---もう夜中だよ。明日、学校があるんじゃないの?
---昨日と今日、一泊で修学旅行だったんです。だから、明日は代休です
---そう?こんな時期に修学旅行?
---はい。本当なら東京に行くはずだったんですけど、行き先が徳島に変わって、一泊だけ。明日休みだから、これから友達と集まろうってことになって
---この前の役員会議でお父さん、みんなの前で謝ってたよ
---え?そうだったんですか?
---とにかく、このまま下に降りるのは危ないから、うちの中を通って行って

夫がそう言うと、男の子はそれにも「ハイ」と素直に従い、靴を脱いで手に持ち、我が家の中を通って玄関から外廊下に出て行ったそうです。
私が寝ている間にそんなことがあったなんて!

この会話からもわかるように、男の子は素直で、本当にただただ冒険のつもりで家を抜け出しているんでしょう。
長引く休校や、クラブ活動自粛などで体力が余っていることも考えられます。

翌日、夫はマンション管理会社にこのことを知らせ、管理会社が警察にも届けて欲しいと、言うので警察にも電話。
実は、我が家のマンションではその頃たて続けに壁や柱を伝って、よその家のベランダに侵入する事件が発生していたそうで、警察としてもだいたいの犯人(たち)の目星はついているとか。
しかし、警察は被害届が出されないと逮捕、補導ができないので、夫に被害届を出して欲しそうにほのめかして来ました。

しかし、夫は、この学区にある公立中学校がレベルの高い学校であること、犯人が薬物等で危ない人物でもないこと、モノを盗まれたり壊されたりしているわけではないこと、そして何より、自分の息子と同じような年齢の子供が警察のリストに載ってしまうのは彼らの将来を考えた時に何かと不利である、という理由を述べて被害届を出すのは断りました。

私たちにとっては、犯人がわかっているだけでじゅうぶんです。

私が「なんで、その不審者が上の階の子やって分かったん?」と聞くと、
夫が笑いながら「靴、白くて坊主頭やったもん」。

カーテンを閉めているその外で、今夜もベランダ伝いに抜け出す男の子がいるのかも。
ケガ、すんなよ!

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