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韓国の「KF94」マスク工場見学/(「どこにいても、私は私らしく」#35)

日本と韓国、隣の国だが、コロナの対応も感染状況もかなり違う。

先日、世宗市にあるマスク工場を見学する機会があった。正確には世宗特別自治市という名で、ソウルの首都機能の一部が世宗市に移され、政府機関が多いことで知られる。日本には47の都道府県があるが、韓国には9つの道(済州特別自治道を含む)と、道から独立した市(ソウル特別市や釜山広域市など)が8つあり、計17の道と市の行政区域でできている。このうち私が唯一足を踏み入れたことがなかったのが、世宗市だった。というのもあって、工場見学の誘いをもらった時、世宗市と聞いて「行きたい!」と即答した。

訪問した工場は「KF94」マスクを作っている工場だ。 KFはKorean Filterの略、94は微粒子を94%以上遮断するという意味で、厳格な基準に合格したマスクにのみ表示が認められている。韓国は「ミセモンジ」と呼ばれるPM2.5による大気汚染が深刻で、コロナ以前から高性能の「KF94」マスクがあった。私もミセモンジがひどい日にはKF94マスクを愛用していた。ところが、コロナが流行し始めると一気に品薄になった。購入できる枚数が制限され、海外へ送ったり持ち出したりも自由にできなくなった。今はKF94マスクを生産する工場が増え、日本を含む海外へも輸出している。

今回マスク工場を見学することになったきっかけは、日本で偽物の「KF94」マスクが出回っているという話を聞いたことだった。中国製のマスクで、「KF94」の認定を受けずに「KF94」の表示をつけて販売しているのだ。パッケージがハングルで、いかにも韓国製のように見えるが、よくよく見ると小さく「MADE IN CHINA」と書かれている。韓国のKF94マスクと勘違いして買う人も多そうだ。韓国がKF94マスクの輸出を制限している間に、日本で中国製が出回ったという。

工場では徹底した衛生管理のもとマスクが生産されている様子を見学した。私も小学生の時の給食当番のように白衣を着て白い帽子をかぶって中に入った。KF94の認定を受けるには、工場の設備も製品も相当細かく基準が定められていて、工場が認定されるまで3ヶ月、製品が認定されるまでさらに3ヶ月かかったという。

給食当番のような恰好で工場へ入る筆者

重要なのは、ウイルスを遮断しながら、呼吸はしやすい、という2点を両立させること。いくらウイルスをカットしてくれても、息苦しければ長時間マスクを着用して活動することができないので、呼吸がしやすいというのも大事なポイントだ。

呼吸のしやすさを計測する装置

「KF94」と表示された中国製マスクも見た目は三つ折り立体型で同じように見えるが、測定するとこの工場で生産するKF94マスクに比べて「粉じん捕集効率」は低く、「吸気抵抗」は高い結果が出た。KF94マスクの方がウイルスを高い率で遮断しながら、呼吸もよりしやすいということだ。

韓国ではマスクに関してはミセモンジの影響もあってもともと意識が高く、コロナが流行し始めた当初から布マスクはウイルス遮断効果が低いという共通認識があった。だから日本で「アベノマスク」と呼ばれた小さな布マスクが配られた時には信じられないという反応だった。

私も出入国時や新幹線に乗るなど感染リスクが高そうな場所へ行く時には必ずKF94マスクをつけるようにしている。口の周りに空間があって、講演や発表などマスクをして話す時にも快適だ。

初めて足を踏み入れた世宗市はどうだったか、と言えば、この日は工場地帯にあるマスク工場で数時間過ごしただけで帰途についた。期待していた「新都市」らしい姿は見られず、またの機会にリベンジしたい。

(ヘッダー写真:KF94マスクを製造する機械)

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成川彩(なりかわ・あや)
韓国在住映画ライター。ソウルの東国大学映画映像学科修士課程修了。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。現在、韓国の中央日報や朝日新聞GLOBEをはじめ、日韓の様々なメディアで執筆。KBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」レギュラー出演中。

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