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日韓の違いを楽しむ

このたび、韓国で本を出版します。「どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)」という本です。日本語が母国語の私が、初めて出版する本が日本でなく韓国で出るなんて、夢にも思っていませんでした。

2017年1月に約9年勤めた朝日新聞を退社し、韓国へ留学しました。大学時代に語学留学、交換留学を1年ずつ経験していたので、3度目の留学でした。行き先は、ソウルの東国大学映画映像学科修士課程。周りからは「何になりたいの?監督?」「まさか俳優?」と、たびたび聞かれましたが、ただ、韓国映画についてもっと知りたい、というだけで、「何になりたい」とは特に考えていませんでした。家族には「1年だけ」と言って、学位を取る気もなく、1年ぽっかり韓国映画漬けの日々を送るつもりで留学しました。それが、気が付けば3年半になっていました。

留学して間もない頃、知らない番号から電話がかかってきました。中央日報の記者からでした。日本では本人に断りなく携帯番号を教えることはあまりありませんが、韓国ではよくあることです。朝日新聞ソウル特派員の先輩が、お酒の席で、「うちの会社を辞めて、韓国に映画を学びに来る変わった後輩がいる」と話したそうです。「インタビューさせてほしい」と言うので、「朝日新聞を辞めた以外にまだ何もしてないので、記事にはなりませんよ」とは言いました。が、日本や映画に関心があるという韓国の新聞記者に会って話すのは楽しそうだと思い、とりあえず会うことにしました。好きなことを好きなだけしゃべっただけなのに、そのインタビュー記事がでかでかと中央日報に掲載され、しばらくして中央日報でのコラムの連載が始まりました。

正直、当時の私は、とても韓国の新聞にコラムを書けるような韓国語力は持ち合わせていませんでした。でも、一方でチャンスだと思いました。日本で報じられる韓国、韓国で報じられる日本は、いずれも、政治や歴史問題などで取り上げられることが多く、自分が肌で感じるのとは違うことがたびたびありました。新聞社という大きな組織の一員としては、自分の努力ではどうにもならないこともありました。フリーランスの身になり、できるだけ等身大の日本、そして韓国を伝えたいという思いで、つたない韓国語ながら、月2回のコラムを書き始めました。

途中、数ヶ月のお休みを経て、中央日報の週末版「中央SUNDAY」では月1回、まるまる1ページという破格の分量のコラムを書くことになり、今も続いています。

韓国の出版社から「連載コラムを本にして出版しませんか」と声をかけてもらったのが、1年ほど前。連載コラム以外に10本のコラムを加筆し、8月20日に出版されます。

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そもそも韓国の読者に向けて書いたコラムのため、日本語版については実はほとんど考えていませんでした。ところが、韓国での出版についてSNSでお知らせしたところ、日本語版は出ないんですかと、何人かの方にお問い合わせいただき、考え直しました。翻訳というわけにはいかず、大幅に書き換える必要がありますが、日本の人たちにも、私が3年半韓国で経験し、感じたこと、考えたことをお伝えしたい。ちょうどクオンの金承福社長から「日本語版出しませんか」とお声がけいただき、「ぜひ!」と即答しました。

というわけで、日本語版の出版に向けて、連載を始めることになりました。

日韓の違いに触れる時、昔、母が私に言った言葉を思い出します。「彩は違いを楽しむ人になってほしい」。韓国へ来る友人、知人を見ていると、日本と違う韓国に接した時、大きく二通りの反応が見られます。「え、日本と違う…」と引いてしまう人、「日本と違うね!」とおもしろがる人。私は後者でありたいな、と思います。なんで違うのか、その背景も知りたい。そういうことの積み重ねで、互いの理解が深まっていけばいいな、と思います。

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成川彩(なりかわ・あや)
韓国在住映画ライター。ソウルの東国大学映画映像学科修士課程修了。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。現在、韓国の中央日報や朝日新聞GLOBEをはじめ、日韓の様々なメディアで執筆。KBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」レギュラー出演中。



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