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「フレットレス」三角みづ紀
夏の庭で
植物がたのしそうにはしているが
それは形容にすぎない
へだたりなく
ことばをあやつれたとしても
君をおこらせてしまうときもある
夏の庭で
やわらかくひざしに
やかれて
きょうはあついですね、なんて
植物に水をやる
へだたりなく
ことばをあやつれるはずなのに
おこってしまった君が
ねむったふりをする
水がかわかぬうちに
朝食の支度をして
ふっとうするまでの流れで
またあたらしい
「私を底辺として。」三角みづ紀
私を底辺として。
幾人ものおんなが通過していく
たまに立ち止まることもある
輪郭が歪んでいく。
私は腐敗していく。
きれいな空だ
見たこともない青空だ
涙は蒸発し、
雲に成り、
我々を溶かす酸性雨と成る
はじまりから終わりまで
首尾一貫している
私は腐敗していく。
どろどろになる
悪臭漂い
君の堆肥となる
君は私を底辺として。
育っていく
そっと太陽に手を伸ばす
腕、崩れる
現代詩文庫『三角みづ
「未視感」 オ・ウン
そんな法があるものですか
泣き叫びながら人がしがみつく
ここにあります
人が淡々と答える
存在しなかった法ができた瞬間
身体が崩れた
心が崩れた
ぽきりと
気持ちが折れた
ここから出たことがないのに
一度だってここに所属したことがなかった気がする
どれもこれも初めてみたいにおぼつかなかった
人が人を取り囲む
囲む人と囲まれる人がいる
口をきかない
人が人にどう対していいかわからない