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ニューズウィーク『櫻井翔と戦争の記憶』を読んで明晰夢を見た話

『ニューズウィーク』2021年12月14・21日号掲載の櫻井翔さんの寄稿を拝読した。

ご自身で取材・執筆されたということで、櫻井さんのような立場の方が書く長文を読む機会はあまりないので、ライターとしても興味を持った。

著名人であればあるほど、その人の本当の文章に出会える機会は少ないので。

「#櫻井翔の2万5000字」というハッシュタグもトレンド入りしていた。

ライターの端くれが偉そうに語ってしまい申し訳ないです。全然そんなつもりはないのに、140字に収めようと無駄を削ぎ落とした言葉は何だか冷たく感じますね。

記事を読んで思ったこと

この記事を読む前にちょうど嵐の映画を観に行き、とても良い作品だったので、自分で運営しているサイトでレビューを書いた。

映画館から帰宅してニューズウィークを読もうとしたのだが、記事も濃密な内容だったので、まずは映画の記憶が薄れてしまわないように、映画のレビューを書くことを優先した。

映画の中の方と、記事の執筆者が同一人物には思えない。しかしどちらも櫻井翔さんのライフワークなのだろうと思う。


『ニューズウィーク』はデジタル版で拝読した。

大伯父である櫻井次男つぎおさんの記録と軌跡に、内面からも焦点が当てられていて斬新な視点だった。

死と直面するセンシティブな場面でも心の内を描けるのは、例え直接会ったことはなくとも、筆者が身内だったからなのだと思った。それを読む私たちが感情移入できることも。

記事では「次男氏」で統一されているが、時々「次男さん」と書かれている箇所もあり、次男さんの人間性が浮き出てくるような刹那を感じた。

また、こういった企画に櫻井さんが挑戦することは、今まで興味を示さなかった人たちの意識を変えることにもつながるわけで、それがこの企画の意義深い点ではないかとも思う。

同じ人が声をあげて同じ人が耳を傾けるだけでは、もう過ぎていく時代の波を堰き止められないと感じる。

夢の中の出会い

「あともう少し早ければ」と櫻井さんが書かれていたように、私も生前の祖父にもっと話を聞けなかったか、と後悔した。

涙が乾く前に眠ってしまうくらい、寝る直前まで記事を読んでいたからか、その晩は明晰夢(夢だと自覚しながら見る夢)を見た。明晰夢を見ることは私にとっては珍しくない。

櫻井さんがデスクに向かってPCのキーボードをカチカチと打っていて、周囲には資料が散乱している。

“「ああこんな風に書いていたんだ」とその後ろ姿を俯瞰する私”、を見る私。明晰夢では私の場合、自分が感じていることを確認しながら進んでいく(説明難しい)。

そしてその背中を見ながら、私は祖母に電話をかけ、祖父の戦時中の話を聞いた(祖父母はすでに他界しているし、どうせなら祖父にかければ良いのだが、明晰夢でもちぐはぐなところはある)。

母からはよく先祖の話を聞いていたのだが、不思議だったのは、今まで誰からも聞いたことがなかった内容を祖母が話してくれたことだった。

祖父は近衛兵このえへい(天皇陛下直属で警衛する軍人)だったので、軽はずみに公言するのは憚られることと、夢の中で祖母が話した内容が事実なのかもはっきりしないので差し控えたい。

ただ、まさに「最悪の中の最善」を選ぶしかなかった時代なのだと強く感じた。

祖父母に対してはいつも敬語で話していたので、どこか背筋が伸びるような接し方をしてきた。

夢の中でも敬語ではあったものの、心の距離が近づいたように感じ、その場に祖父は登場していないのに、そこにいるような気配さえした。

話してくれた内容は決して明るいものではなかったが、私の心は温まった。

「すべてがチエちゃんの頭脳になるんやから、知ろうとすること。誰も読んでくれんなんて思わんとって。おじいさまが読んでくれるからね」

山口弁特有のおっとりした口調だった。

祖母は職業婦人としてタイピストをしていて、祖父は戦後印刷会社を立ち上げた。曽祖父は名刺を広めた人だと聞いている。皆が文字に触れ、読むことが大好きだったそうだ。

キャスターもされている櫻井さんが、新聞記者だったお祖父さまと「結果的に重なり合う縁を感じる」とおっしゃっていたように、やはり血筋というのはあるのかもしれない。


櫻井翔さんは震災や戦争についての取材をずっと続けていらして、彼の中のジャーナリズムは、ずっと前から根ざしていたように感じる。

それはご自身にとってのライフワークのようなものだろうか、などと捉えていた。

しかし、自分の先祖やルーツを知ること、学ぶことは誰にとっても文字通りのライフワークにあたるはずだ。もっと自然に行われて良いことだと思う。

そこで必ず戦争の時代を通るのだから、何も特別なことではないのだ。

とはいえ、櫻井さんのような取材力はないので、

“浅く、小さな点を、深く、大きな線で結ぶ”
“白黒の時代に色を付ける”

『Newsweek』2021年12/14号

ことはできないかもしれないけれど、祖父母が示してくれたように、知ろうとすることを諦めずにいたいと思う。


明晰夢を見た時、こんなことを考えた。

「亡くなった身内の過去を辿って得た真実も、膨大な時間も感情も、文字列にしか変換できないことは痛みを伴っただろうな。読む人がどう捉えるかも分からない。書くという作業は時に残酷で、それでも希望を目指して結末に向かうのだ」

そうした苦労の末に櫻井さんが色を付けてくれたことで、また一つ文章の持つ可能性に気付くことができた。私も自分なりに色を付けてみたい、そんな気持ちになれました。


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