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染まる赤は少ない方がいい(今年のインタビューで一番後悔したこと)

真っ赤な原稿が戻ってきて、頭の中が真っ白になった。

インタビューの原稿を書いて、担当者さんにチェックしていただき、書き直す必要がある箇所は赤色で校正されて戻ってくる。赤入れ、朱入れなどと呼ばれる。

アーティストさんへのインタビューの場合、所属する事務所やレーベルによってチェックの基準はバラバラなので、どんな風に戻ってくるか分からず、その間いつもそわそわする。

そしてとあるアーティストさんへのインタビュー原稿で、チェックが終わり戻ってきたのが、一部真っ赤に赤入れされたものだった。

こんなに赤く染まった原稿を受け取ったのは初めてだった。

それは盛り上げるためにちょっと面白いことを言ってくださった場面だったのだけれど、その一連の会話が赤色の取り消し線でばっさりカットされていたのだ。

申し訳ない気持ちになって、心がグサーって斬られた気分だった。

私はその会話がすごく面白くて、ゲラゲラ笑ったり録音に突っ込んだりしながら文字起こしをした。

きっとファンの方々にも喜んでいただけたはずだと思うと、悔しかった。

でも仕方がない。そういう指示なのだから。

まずは丁重にお詫びをした上で、それでも諦めきれなくて、

私:この一文だけでも残していただけませんか?  ここだったらどうですか?
担当者:社内でも検討したのですが、やはりちょっとふざけすぎているので…

こんな会話が何ラリーも続いた。その文章が「なんでやねん」みたいなセリフなので(もっと面白いんですけど)、そのメールのやりとりはかなり滑稽だったと思われる。

でも私は必死だったので、電話でもお話したり、手を尽くしたが先方の回答は変わらなかった。

私:私の拙い進行の仕方が原因です。大変申し訳ございませんでした。

とお伝えすると、

担当者:弊社に問題があっただけで、長谷川さんには素敵な記事を書いていただけて本当に感謝しています!  特にこの部分がとても良くて…

とフォローしてくださった。仕事熱心でとてもいい方で、かえって気を遣わせてしまったようで尚のこと申し訳なかった。

しかも「弊社に問題があった」と思われているなら、スタッフさんから何か注意など受けていたらどうしよう…ご本人は何も悪くないのに。とさらに申し訳ない気持ちになった。


その削られた会話は、インタビューのテーマとは直接関係ない内容なので、削っても支障はないし、たしかに話が逸れている部分ではある。

でも私がその部分を残したかったのは、盛り上げようとしてくれたアーティストさんご本人の人柄や個性がとても分かる内容だったからだ。

自分が書いた文章を削られたことへの衝撃もあったけれど、その方が話してくれたことを、記事にできないんだと思ったら悔しくてたまらなくなった。

記事は、別のインタビュー部分を膨らませるなどして対応した。

そして当該部分を何度も聞き直して(これがめちゃくちゃ苦痛)、どうするべきだったのか、繰り返し考えた。

面白いのに涙が出てくる不思議な時間。

記事の方向性も大事だけど、取材する人とされる人の、その場のコミュニケーションも大切だと思っている。

だから、あの会話が無駄だったとは思えない。そんな会話もありつつ、記事のためにもっと真面目な会話もしておけば良いのだと思う。

でもそうすると今度は時間が足りない。

決められた時間の中で、コミュニケーションも取って、プロモーションの真面目な話もして、ってそんなに段取りよくできないんだよ、わしは。

私は現場で話していた時からカットするつもりはなかったけれど、ご本人は「今の部分はカットしてくれてもいいです」とはっきりおっしゃってくれていた。

「使ってもらえないかもしれない」という想定の上で、冗談も話してくれていたのだ。

インタビューされるアーティストの方々は、どこをどんな風に切り取られて使われるか、考えながら瞬時に回答して…というスゴ技を繰り返している。

時には、それを朝から夜まで、1日何社も連続して受ける。

アドリブのきかない私は、考える時間が長いタイプなので、あんなにいい答えがなぜ一瞬で出てくるのか、本当に毎回感心してしまう。

その方も瞬時に冗談を言ってくれて、すごいなぁと思った。

その機転の利いた柔軟な対応とか、気遣いとか、ファンの皆さんと共有したかったのに、それができないと思ったら悔しくて歯がゆくて、涙が出てきた。

泣いてる場合じゃないのに!


赤入れするスタッフさんだって、好きで指摘しているわけではないのだから、やはり染まる赤は少ないに越したことはない。

後々の修正箇所が少なくて済むように、インタビューする段階から計算できる頭脳を鍛えよう。

今年はそんな反省点が、雲を突き破るほど積み上がった1年でした。

その方はもうとっくに前進してるし、まったく覚えてないと思うけれど、私はその方の顔を見るたびに記事にできなかった言葉たちと、その時の笑った表情が浮かんでくる。

まだ直接謝ることもできていない。謝られても困ると思うけど!

次はもっといい記事にできるように、そもそもインタビューさせていただけるように。

今後の原動力とさせていただきつつ、2023年に持ち越したい大きな反省点でした。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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