2021年間ベストアルバム20
明けましておめでとうございます。2年ぶりに年間ベストを書こうと思い立ち、正月休み等々を利用してダラダラ書いてたら年が明けて10日も経っていた。こういう時節の挨拶にコロナの状況を書かなくて済む状況に早くなればいいと本気で思ってるが、それは本当にいつになることやら。こういった中にあっても、というかこういった中だからこそ、良い音楽に触れることの重要性は増している気がする。
まあ2021年を振り返ってみるとウマ娘しかやってなかった気もするし、Twitterでもウマ娘のことしか呟いてなかった気がするが、とりあえず昨年聴いて印象に残ったアルバムを20作選んでみた。一応順位を付けてはいるが、ベスト10より上のヤツは全部1位みたいなものなので、寒い冬の暇潰しに読んでもらえれば幸いである。
20.Dungeon Serpent/World of Sorrows
その昔MERODIC DEATH METALというジャンルがあった(今もある)ことは以前に書いたこのエントリでも触れているが、このカナダ産のぼっちMERODIC DEATH METALの1stアルバムは、かつてMERODIC DEATH METALとデスメタルが未分化だった頃のメタルを現代に召喚することに見事に成功しており、これを一人で達成したのは2001年生まれの若者だという。なんてかわいそうなんだろう。
https://dungeonserpentmdm.bandcamp.com/album/world-of-sorrows
19. Funeral Mist/Deiform
ぼくらのArioch大先生による暗黒スウェディッシュブラックメタルのフルレンスとしては4作目。なんつうの、こう世の中には何をどうやってもevilな作品が出来てしまうアーティスト、みたいなのがブラックメタル界隈に限らず昔から偏在していて、Ariochさんはそういう側の人間だと思っている。まあ人間じゃないのかもしれないけど。作風?いつも通りに流してるだけで神性が下がってくタイプだよ。おめでたい正月にぴったりだから聴こうね。
https://funeralmist.bandcamp.com/
18.Danny Elfman/Big Mess
この人が携わった映画音楽を真剣に追いかけてたわけではないし、オインゴ・ボインゴもジョジョのスタンド名以外で全く触れたことはなかったのだけど、齢68の人間が作ったとは到底思えないバキバキのゴスロックで衝撃を受けた作品。Buck-Tickのインスピレーション元の一つがBuck-Tickの近年のサウンドに漸近してる、という意味でも面白い。コロがなければフジロックとかで来日してたんだろうかねえ。
https://dannyelfman.bandcamp.com/album/big-mess
17.Unto Others/Strength
アメリカはポートランド出身のゴス/メタルバンドの2枚目フル。前作まではIdle Handsというバンド名で活動してたが権利関係で揉めて改名した、という経緯があったりする。前作同様に80年代ニューウェイヴmeetsメタル(≒90年代前半くらいのジャパニーズヴィジュアル系)路線の作品だが、ニューウェイヴ要素がやや減退してゴリゴリのメタル要素が増加しており、なよなよした風体をバカにされて筋トレを始めたオタクのような雰囲気が漂っている(disっているわけではない)。カッコいいのだけどなんか芋臭い感じのゴスメタルが好き、という需要が一定数存在することを私は知っているので、そういう層にダイレクトに刺さるサウンドだと思う。
https://untootherspdx.bandcamp.com/album/strength
16.Fire-Toolz/Eternal Home
シカゴを拠点とするAngel Marcloidによるプロジェクトの4作目。時にポストロックであり時にデジタルノイズであり、そしてまた時にはブラックメタルであったりジャズであったり、どことなくレトロフューチャーなサイバーパンク感を湛えた約80分のエクストリーム闇鍋サウンドは、誰かが言ってたけど「タイムラインを具現化したような音」というのが一番ぴったりくる。
https://fire-toolz.bandcamp.com/album/eternal-home
15.Thy Catafalque/Vadak
ハンガリーのソロブロックメタルのもう何枚目か分からない新作。アンビエント要素とフォーキッシュなサウンドをブラックメタルに取り込んだ作風は正直言語化すると大体一緒なのだけど、ただ毎回違うように聞こえる、というのがこの人の凄いところで。ブラックメタル界のマイク・オールドフィールドという名誉なのかどうか何とも言えない称号を個人的に贈りたい。
https://thycatafalqueuk.bandcamp.com/album/vadak
14.The Armed/ULTRAPOP
デトロイトのハードコアユニットによる4作目。基本的にバカにしたスタンスを取ってるのにたまに高得点が付くと目を白黒させて「ま、まあ少しは見所あるじゃねえか・・・」的なツンデレムーブを様々な音楽オタクが炸裂させてくることでお馴染みのPitchforkでも8.0が付いてた本作は、各所の年間ベストでもたくさん挙がってるので、私から何か言うことは特にないです。強いて言えば、このアルバムを聞きながらノリノリで散歩してた時、友達にLINEを返そうとしたら足元に思いっきり鳩の死骸が落ちてて、思わずうおって声が出た思い出があることくらいだろうか。
https://thearmed.bandcamp.com/album/ultrapop
13.雨宮天/COVERS -Sora Amamiya favorite songs-
雨宮天さんのこれまでの作品は、キングレコード/スターチャイルド時代に多感な時期を過ごした声優オタク世代(まあ俺らよ)の郷愁を掻き立てる、逆に言えばそこの界隈以外にはほぼスケールしていかないコッテコテの声優音楽で、それはそれで良かった。
・・・良かったのだけれど、自身で選んだという往年の歌謡曲カバー集を聞くと、名曲の数々を通じて浮かんでくる雨宮天のボーカルとしての圧倒的な素質の高さと、一方でこれまでの作品群がそのポテンシャルを生かしきれてないことが相対的に明らかになってしまった感じで、正直何とも言えない気持ちになってしまったな。このカバー集自体は良いのだ、本当に。
https://www.youtube.com/watch?v=AIuXRYcxWrM
12.Full Of Hell/Garden of Burning Apparitions
アメリカ産グラインドコアによるフルアルバムとしては5作目。21分の時間の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれた楽曲は、徹頭徹尾殺気立っており、前作から路線は変われど地獄みたいなアルバムに仕上がっていて大変よろしい。バンド名は大事。
https://fullofhell.bandcamp.com/
11.Somnuri /Nefarious Wave
ニューヨークのブルックリンを拠点とするスラッジメタルトリオの2作目。今作で初めて知ったバンドなのだけど、MastodonやBaroness、あるいはHigh On Fire辺りからの影響はありつつも、凡百のフォロワーとは一線を画すエネルギーと、スラム街からどことも知らない山の奥地まで目隠しされてハイエースで連れていかれるような曲展開は、上に挙げたバンドに何かしらの思い入れがあるリスナーであればきっと刺さる筈。俺はハイエースされたことはないけどな。このアルバム冒頭3曲の畳み掛けは2021年に触れた音楽の中でも一番カッコいい瞬間だったよ。Mastodonの新譜も素晴らしかったが、個人的にはSomnuriを推したい。
https://somnuri.bandcamp.com/
10.So Hideous/None But a Pure Heart Can Sing
ニューヨークのポストブラックメタルの6年ぶりの新作。 昔はシューゲイザーブラックからの文脈で紹介されることが多いバンドだった記憶があるけれど、元DEPのKevin Antreassianがエンジニアとして全面参加した本作は、エッセンスとしてのブラックメタル要素は散りばめられつつも、ジャズやアフロビートの要素までをも取り込み激情を体現するサウンドとなっている。
https://silentpendulumrecords.bandcamp.com/album/none-but-a-pure-heart-can-sing
9.King Woman/Celestial Blues
イラン人の父親とセルビア人の母親の間に生まれ、移民としてカリフォルニアで育ったKristina Esfandiari率いるバンドの2作目。私は今作で初めて知ったバンドなのだけど、どうやら前作の時点でドゥームメタルの文脈からもインディ・ポストロックの界隈の双方から注目されてるらしく。今作は彼女自身のこれまでの体験を聖書の物語でパラフレーズした今作は、Esfandiariの悲哀と怒りと妖しさを備えたボーカルを軸に、歪んだギターサウンドとドラムが織りなすグルーヴがリスナーの心を否が応でも鷲掴みにかかってくる。Chelsea Wolfe辺りが好きな人間には勿論のこと、悪魔化したAlice In Chainsのような暗黒グランジな趣きもあり、多方面に幅広く刺さる作品だと思う。
https://kingwoman.bandcamp.com/album/celestial-blues
8.Bossk/Migration
UKポストメタルの5年ぶりの2ndフル。本作ではCult of LunaのJohannes Perssonがゲストボーカルとして参加し、ENDONの宮部幸宜、愛甲太郎、故那倉悦生がアルバム全編に渡って参加している。前作Audio Noirがアルバムのアートワークが示すように淡くも鮮やかな色彩を纏ったような音像であったのに対し、本作は荒涼としたグレーを基調とするようなイメージへと変化しており、アートワークにも象徴されている(ちなみにアートワークを担当しているのは前作に引き続きSeldon Huntで、やっぱりこの人は天才なのだわ)。全7曲中の4曲目でボーカルが存在するパートは終わり、残りは全てインストなのだが、このアルバムのハイライトは間違いなくインストパートにある。折り重なり広がるエレクトロとノイズの隙間にこそBosskの魅力が詰まっている。一聴しただけでは全容を掴み切れない作品なのだけど、気が付けば何度も聴き返していた作品であったりする。
https://bosskband.bandcamp.com/album/migration
7.Obscura/A Valediction
ドイツ産テクニカルデスメタルの6作目。個人的に実はそんなにピロピロ鳴ってるタイプのテクデスバンドは好きではない。Obscuraに関しては、テクニカル/プログデス的な皮を纏いつつも、初期から一貫して根底にパワーメタル然とした核のあるバンドだと思っていて、その部分にこそ私は魅力を感じていたりする。で、メンバーチェンジを経てリリースされた本作は、まさにそのパワーメタル然とした側面が全面に押し出されたアルバムとなっている・・・というか、プロデューサーにFredrik Nordström起用してるところからかなり意図的だと思うけど、要はこれテクデスの文脈から「当代版のBlinded by Fear」を現出させようとしてるアルバムだと思うのよ。そこかしこにヨーテボリなリフが飛び出してくるし、ボーカルのスタイルもかなりTompaの人に寄せてる感じだし。そしてその取り組みは、これ以上ないくらいに成功し、極上のメロデスアルバムに仕上がっている。彼らをExtreme the Dojoのステージで見たのももう何年前だろう?今のラインナップで、このアルバムの曲を生で聴きたいと切に願う。
https://obscura.bandcamp.com/album/a-valediction
6.Adjy/The Idyll Opus (I-VI)
アメリカはノースカロライナ州を拠点とするロックバンドのフルアルバムとしては1作目。sputnikmusicのレビューを見るまでは全く知らないバンドだったのだけど、これがとてつもなく素晴らしい。アルバムトータル90分に渡って、エモ/オルタナカントリー/ポストロック/ドリームポップが渾然一体となって鮮やかに夏の情景を描いていく。これ聴いてると夜にアパラチア山脈の麓の山小屋まで車を飛ばして、山小屋でギターを掻き鳴らしたくなる、とsputnikmusicのレビューに書かれていたが私も同感だ。私はアパラチア山脈がどんなところなのか知らないし当然山小屋も所有してないし、何なら車の免許も持ってないしギターも弾けないが、気持ちだけはすげえ分かるぞ!
https://adjy.bandcamp.com/album/the-idyll-opus-i-vi
5.劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト 劇中歌アルバムVol.1&Vol.2
シン・エヴァンゲリオンとマトリックス・レザレクションズの2作品に共通した一番大きなポイントは、後続に与えた責任、というか落とし前をどう付けるか、という部分にあったと思っている。私はどっちの作品も楽しめた人間ではあるが(点数つけるならエヴァが80点、マトリックスが45点くらい)、かつて尖りまくってた作品の続編で、作物を育てる描写を入れたくらいで地に足のついた感を演出できると思ったら大間違いだからな委員会(現在会員1名)として文句を付けたくなるところはやっぱりある。その点こっちの映画はいきなりトマトが砕けるところから始まるからな。影響を与えたもの、影響を受けてしまったもの、動き出した歯車は止まらないし、降りても舞台だ。劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライトは尖ったものを丸くすることなくその先のビジョンを見せてくれる映画だったと思う。それはもう何よりも希望じゃないだろうか?
https://revuestarlight.com/music/cinema_album1/
https://revuestarlight.com/music/cinema_album2/
4.上田麗奈/Nebula
上田麗奈という声優は、歌手としてのアーティスト活動においても、歌詞の世界観を完全に「演じ切ってしまう」声優なのだ。デビューEPのRefRain、1stアルバムのEmpathyに続く本作は、彼女自身の人生における挫折をテーマとしたという。美しさと穏やかさ、鬼気迫るような情念と狂気が封じ込められた41分間は、Nebulaというタイトルが示す通りの様々な輝きを放っている。彼女のこれまでのアーティスト活動の中でも一番のアルバムだと思うし、楽曲の製作陣は完璧な仕事をこなしている。しかし、これはまだ上田麗奈という才能の氷山の一角ではないか、彼女の限界はまだ先にあるのではないか、という思いも同時に去来する。本作はそんなアルバムだ。
https://www.youtube.com/watch?v=frRBfnGSB44&t=2s
3.Voices/Breaking the Trauma Bond
Voicesは前身となったバンドAkercockeの活動休止/解散後の2011年に結成されたバンドだ。英国メタルの暗黒面がそのまま受肉したようなAkercockeの闇をしっかりと受け継いだVoicesは、こっちはこっちでコンスタントに作品をリリースしており、本作が4作目のフルアルバムとなる。元々Akercockeは異常なバンドで、そこから分裂したVoicesも異常なバンドではあるのだが、それを踏まえた上でなお、このBreaking the Trauma Bondは変なアルバムである。気分が悪くなるリフとクリーントーンとグロウルを行ったり来たりする気色悪いボーカル、インダストリアルノイズの不協和音に加えてトリップホップ風のビートが紛れ込んでたり、アルバム中盤でJoy Divisionをコケにしたような曲が現れたりとなんなのこれ。「都市の孤独」というテーマ自体は先述のBosskの新作にも共通したものだが、この連中は自分からは手を下さないけど、頼まれたらニコニコしながら自殺幇助に手を貸してきそうな底意地の悪さが曲に滲んでるんだよな。ちなみに一方のAkercockeも2016年に再結成を果たして2017年にフルアルバムをリリースし、現在新アルバムのレコーディングに入っているらしい。やめろよ、もう世界にこれ以上邪悪を増やすなよ。
https://voiceslondon.bandcamp.com/album/breaking-the-trauma-bond
2.Trophy Scars/Astral Pariah
アメリカはニュージャージー州を拠点とするバンドの7年ぶりの新作。元々はポストハードコアをやってたバンドなのだが、本作はサイケロック/ブルース/カントリーをポストハードコアのバックボーンから解釈したような非常に個性的なサウンドに仕上がっている。似たようなアプローチは何作か前のThriceのアルバムの曲にも見られたけど、こっちはそれより遥かに土臭い。南北戦争後の西部開拓時代を舞台に、復讐心から自分自身の一族を根絶やしにしようとする男の物語を描くコンセプトは荒々しさに満ちた音楽と完全にマッチしており、めちゃめちゃカッコいい(ちなみにこの復讐譚も割と有名な逸話らしいが、詳しい事は分からんので誰か教えておくれ)。このアルバムで初めて存在を知ったバンドだったのだが、遡って過去作聴いてみても最新作が一番の完成度だと思う。
https://trophyscars.bandcamp.com/
1.Code/Flyblown Prince
英国を拠点とするアヴァンギャルドブラックメタルの6年ぶりの新譜。元々大変検索しにくいバンド名だったのだけど、Twitterのフォロワー内で検索してもCode OrangeやVS Codeの話題が増えて更に検索しにくい存在として拍車がかかったな、という本当にどうでもいい感慨はこれくらいにしておき。彼らは作品毎に路線を毎度変えてくるバンドではあるのだが、やはり2009年にリリースしたResplendent Grotesqueが目下のところの最高傑作であるという点は多くのリスナーにとって異論はないだろう(勿論このバンドにそんなに多くのリスナーがいたりすることはないが)。そしてまあ正直に言えば前作、前々作はEnslavedを地味にしたような作風で、悪くはないのだけど画竜点睛を欠く感はあった。そこからの6年を経ての本作は、オープナーにしてアルバムタイトル曲のFlyblown Princeから、クローザーのThe Mad White Hairに至るまで、陰湿で如何わしくて悪意に塗れつつも妖しい魅力に溢れている。いやもう何よりもさ「Flyblown Prince(蛆の湧いた王子)」っていうアルバムタイトルが最高だよな。本作がResplendent Grotesque以来の大傑作であることに疑いはない。先の見えない時代に別に呼ばれてもいないのに帰還した暗黒の王子の帰還を言祝ぐとしましょう。ハレルヤ。
https://codeblackmetal.bandcamp.com/album/flyblown-prince