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オープニングの歌丸師匠

Kさんという上司(女性)がいた。
彼女はとても有能で、いくつもの課題を解決し、常に前を向いて仕事をしていた。
はっきりモノを言い、群れない人だったので、ひとりでいることが多かった。
当然、出世も早く、まわりからは「無敵の女」と揶揄されていた。

Kさんは、多少ぶっきらぼうなところはあったが、うるさいことは言わないし、僕にとってはとても仕事がやりやすい上司だった。

ある日、外出先から車で帰る時に、Kさんに「無敵の女」と言われていることを知っているのか聞いてみた。
彼女はもちろん知っていた。

そして真顔でこう言った。

わたしが無敵に見えるのは、あなたが大事にしているものを手放しているからよ。
あなた出世したくないでしょ。
私が無敵の女なら、あなたは不自由な男だね。
出世しないでのんきにやっていることは、自由じゃないわ。
あなたが今大事に思ってることは、本当に大事なことなのかしら。

周りに期待されたら、答える努力をしないと。
そうじゃないと生きている甲斐がないわ。

辛いけど、これが自由なのよね…

スレッガー・ロウかよ…
そんなツッコミしか頭に浮かばない僕を見て、彼女は笑いながら言った。

ごめん、言い過ぎた。
オープニングの歌丸みたいな顔しないで…

その後、彼女はどんどん出世していき、いわゆる幹部社員になったが、その1年後に突然辞めてしまった。

辞めてしばらくした後、駅で偶然彼女を見かけた。
引き受けることをやめた彼女は、一体何を見つけたのだろうか。

声をかけようか迷ったが、かけなかった。
とても穏やかな表情だったから。

今では僕も管理職となったが、自由なんてまったく感じていない。
僕はスレッガーにはなれず、オープニングの歌丸師匠のままだ。

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