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官公庁システム更改とガバメントクラウド

1.     官公庁系システム更改と民間企業案件との違いについて
キューブアンドカンパニーでは民間企業だけでなく官公庁向けにもコンサルティング支援をさせて頂くことがありますが、一例としてシステム更改案件としてご支援させて頂く際には民間企業と異なる点として関連する組織やシステムの多さが挙げられます。各省庁にてシステム更改を行う場合、各都道府県や市区町村まで影響が及ぶことで千単位の組織やシステムが関連してきます。
これにより、プロジェクト予算が莫大になるほか、システム同士の接続にあたっての制約なども多数発生。また、合意形成のステップの多さなどもあり迅速かつ柔軟なシステム更改は難しいものとなっています。

これに対して、現在デジタル庁を中心に進められているのがガバメントクラウドです。本稿では、このガバメントクラウドについてそもそもガバメントクラウドとは何なのか?メリットやデメリットにはどんなものがあり、我々が期待できるものは何かなどをまとめています。

2.     ガバメントクラウドとは何なのか?他クラウドとの違いはあるのか?
 デジタル庁はガバメントクラウドについて以下のように説明しています。
「政府共通のクラウドサービスの利用環境です。クラウドサービスの利点を最大限に活用することで、迅速、柔軟、かつセキュアでコスト効率の高いシステムを構築可能とし、利用者にとって利便性の高いサービスをいち早く提供し改善していくことを目指します。地方公共団体でも同様の利点を享受できるよう検討を進めます。」

 基本的には通常のクラウドサービスと同じ構造をとり、行政機関や各自治体がひとつのクラウド上の基盤に業務システムをまとめ、各システムを共通化、標準化するものです。また、監視運用なども共通化することで、すべてのシステムでコスト効率や運用効率、セキュリティレベルを高い水準で達成することができるものです。

 政府はクラウド・バイ・デフォルト原則として、このクラウドサービスを第一候補として優先的に活用する方針を定めており、全ての市町村が住民票や地方税など標準的な17の業務システムをガバメントクラウドに移行する予定としています。

 また特徴のひとつとして、複数のベンダーがアプリケーションを提供し、各自治体がその中から必要なものを選んで利用する形態をとることが挙げられ、開発したアプリケーションが多数利用されると、開発ベンダーに大きな利益がもたらされます。

3.     ガバメントクラウドのメリット
ガバメントクラウドを利用することで以下4つのメリットが得られると考えられています。

①      システム構築、運用コストの削減
②      BCPへの対応の簡易化
③      セキュリティ水準の向上
④      提供サービスの質向上

一つ目のメリットとしては先述の通り、サーバーやOSから各アプリまでを各行政や自治体で共同利用することでシステム構築、運用コストの削減ができます。特に、システム導入に必要な職員、ベンダー、外部コンサルタントの人件費は大幅に削減することができるほか、運用に関しても共通化された作業とすることでランニングコストを削減することができます。また、人件費以外にも行政や各自治体が独自にサーバーを構築、維持する必要が無いため、それらに必要な設備費なども圧縮されていきます。

二つ目のメリットとしては、BCP(業務継続計画)への対応が簡易化されることが挙げられます。
複数のデータセンターに業務システムとデータを分散させることで、震災や台風、豪雨、火災などの災害や、テロ攻撃に対して、システムの早期復旧やデータ損失の回避を行うことができ、行政サービスを安定して提供することができます。とくに近年では、東日本大震災をはじめとする大規模な災害発生なども起きており、BCPの重要性は年々高まっていることから、これに対応することのできるクラウド化の必要性も高まっています。

三つ目のメリットはセキュリティ水準の向上です。各自治体などがそれぞれ独立してセキュリティ対応などを行った場合、対応方法がバラバラになってしまうほか、それぞれのリソースによって対応レベルの限界に直面することが考えられます。
これに対して、ガバメントクラウドは共通のサーバー、OS、アプリケーションを利用しているわけですから、小規模な自治体であっても各行政機関と同レベルのセキュリティ水準とすることができます。また、効率的な資源利用により、高レベルのセキュリティ水準を達成することも可能となります。

四つ目のメリットとなる提供サービスの質向上は、各自治体間の業務が共通化、効率化することで、どの自治体でも同様の手続きをとることが可能になるほか、システム間が連携すし、迅速な手続きや、手間の省略などが可能となることでなされます。
また、各自治体やシステム間の結びつきが強くなることで、これまでは実現できなかったサービスが新たに提供されることも考えられます。

4.     ガバメントクラウドの現状
総務省によると、2014年に単独クラウド及び自治体クラウドを導入した団体は550団体であったが、これが2020年には1279団体へと増加しており、2023年には1600団体まで増加させるとの目標を立てています。基幹系業務システムの共同利用や、国民保険や年金システムの共同利用などが行われています。また、この活動によって効率化、削減された職員やリソースは、新たな住民向けサービスの拡充に割り当てられるなどしており、今後もクラウドへの移行が一層進み、リソースの再分配が行われていくものと見込まれています。

また、先述の通り政府は地方自治体における以下17の業務について、システム標準化を進めて行くと定めており、原則2025年度末までの実施を目標として掲げています
①      住民基本台帳
②      選挙人名簿管理
③      固定資産税
④      個人住民税
⑤      法人住民税
⑥      軽自動車税
⑦      国民健康保険
⑧      国民年金
⑨      障害者福祉
⑩      後期高齢者医療
⑪      介護保険
⑫      児童手当
⑬      生活保護
⑭      健康管理
⑮      就学
⑯      児童扶養手当
⑰      子ども・子育て支援

5.     今後の課題、展望
 これまで記載してきたように、トータルで見た時のメリットの多いガバメントクラウドですが、導入時や今後に向けて解決していくべき課題などもあります。
 その一つは自治体間の事前検討や合意形成が難しいこと。これまでの業務の進め方について大小何らかの差異のある自治体間で、システムを連携させていくことは、その設定や定義作りそのものが難しいこともさることながら、推進組織の形成や役割分担、予算分配などにも課題が及びます。
 また、システム構築から導入、運用までの間に多大な時間とコストがかかる場合があります。これまで使用してきた各自治体のシステムから、ガバメントクラウド上でのシステムに移行していく際にはどうしてもある一定のコストがかかります。また、移行するにあたって現場の業務フローなども変更になる場合があり、その際にはトレーニングに関する対応と期間が必要になります
その他、情報システムに精通したスペシャリスト人材が政府自治体の中に十分には存在しないことが挙げられます。開発運用はベンダーに行ってもらうにせよ、情報システムの担当職員を育成し、導入や検討が政府自治体内部でも行えるようにしていく必要があります。

このように課題も存在してはいるものの、情報化や効率化は避けられない流れですし、これによって得られる様々なメリットは、我々市民としても見逃せません。税金の効率的な利用から、自治体サービスの質の向上や新たなサービスの拡充など、求められる形に少しずつ近づいていくことが期待されます。