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好きな音楽 中島みゆき「麦の唄」

中島みゆきの「麦の唄」、いい曲ですね。メロディーの形を見ていると、巧妙な構成がみられたので、それについて書きました。キーワードは「小さなソドミ・大きなソドミ」です。


1. いい曲に出会ったら出だしを見る

僕がいいPop'sに出会うと必ず確認することがあります。

それは、A、B、サビ、それぞれの出だしの音形です。

出だしはとても重要です。
「このメロディーは聴き続けるに値するか」の判断がメロディーの冒頭でなされてしまうインターネット配信時代においてはなおさらです。

よって、作り手も出だしに特に気を配っていることが多いわけです。いい曲には必ずいい出だしがある、と言っても過言ではありません。

2. 「出だし」界のエース「六度上昇」

出だしの中には、クラシック音楽から現在のPop'sに到るまで、「ここぞ」という時にしばしば用いられてきた代表選手がいます。

それは「六度」の上昇です。

たとえば、ショパン作曲のノクターン(op.9 No.2)を聴いて見ましょう。

静寂の中、天使が息を吸うような繊細な音色で、B♭が奏されます。
そしてリズムが動き始める次の一拍目、Gの音がなります。それと同時に左手が主音であるE♭を奏で、その瞬間、この美しい小曲のキー(key, 調)が判明します。

このメロディーを、移動ド(主音のE♭を”ド”とする)で読めば、「ソ-ミ」となります。

この音の幅は「長六度」と呼ばれます。非常に美しい跳躍で、暖かく懐の広い響きを出すために用いられます。

「ソ-ミ」の2音の間をうめた、「ソ-ド-ミ」、「ソ-ド-レ-ミ」といった形もよく用いられます。

また同様に、「ミ-ド」といった短六度の音形ももう一つの主力選手です。

3. 中島みゆき「麦の唄」

さて、本題です。「麦の唄」の出だしの分析に入りましょう。

移動ドで読み替えていくと、次のような結果になります。

Aメロ出だし 「なつかしい人々…」「あらし吹く大地も…」*
ソ・ド・ミ

Bメロ出だし「むぎに翼はなくても…」
ド・ラ

サビ出だし「むぎは泣き…」
ミ・ド

*この2つのAメロの間に転調しますが、移動ドではどちらも「ソドミ」です。

「ソドミ」はドを挟んだ長六度、「ドラ」は長六度、「ミド」は短六度

全て六度であることがわかると思います。

この曲のメロディーの美しさは、この「3つの六度」に下支えされていると考えられます。

そのうちの先陣を切る1つめの音形が、六度界の王様(←筆者の独断による判断)こと、「ソドミ」というわけです。

しかしそれだけでは終わりません。

全体を通して感じるこの曲の広大さには、シンプルにして強力な仕掛けがありました。

グッとズームアウトしてみるとそれが見えてきます。

4. 隠された大きな「ソ・ド・ミ」

もう一度3つの出だしを振り返りましょう

A:ソ・ド・ミ
B:ド・ラ
サビ:ミ・ド

各出だしのうち、さらに最初の階名を抜き出すと…

A:
B:
サビ:

!!!

そうなんです。Aメロの出だしが「ソ・ド・ミ」であるにとどまらず、
各メロディーの第一音を並べて現れる「曲全体のかたち」も「ソ・ド・ミ」なのです。

「ソ・ド・ミ」の各音からさらにそれぞれ六度の跳躍を描いて各メロの冒頭として、きわめつけのサビには胸を締め付けるような「ミド」の短六度が仕掛けてある。これはもう(中島みゆきさんがこれを意識していたか無意識で書いたかに関わらず)流石としか言いようがありません。

5. まとめ

つまり、中島みゆき「麦の唄」では、六度が贅沢に各メロ冒頭に配され、しかも、

小:1つめの出だしの音形としてのソ・ド・ミ
大:曲全体の盛り上がりの形としてのソ・ド・ミ

という大小2つの「ソ・ド・ミ」が巧みに使われており、
これらの技法が、
麦穂薫る広々とした大地の表現に直結している、
というお話でした。

余談 :「会いたかった」 〜好きならば「ソ・ド」と歌おう〜

ちなみに、余談ですが。

AKB48の「会いたかった」で同じことをしてみると

A:自転車全力で…
ソド
B:やっと気づいた…
ソド
サビ:会いたかった…
ソド

これまた極端な結果が出てきます。

曲によって求めるものは当然違ってきます。
「会いたかった」のもはや狂気的な「ソド」推しは、
・常にアイドルが最も可愛い声を発揮できる音域にとどめる
・できるだけシンプルで明快な曲に
という2つの目的を追い求めた結果かもしれません。

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