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REflection(レの鏡) Ⅰ 〜長音階のもうひとつの解釈〜

音楽の授業で最初に教わるドレミファソラシド(長音階)は唐突に2回半音が出てきて、秩序が無いように見えます。ですが「レ」を中心にしてみると…?
一般的な楽典教育では「ドレミ…」の図式に偏るあまり無視されがちな長音階のもう一つのすがたに関するお話です。

1. 長音階

まず私たちが小学校で初めて習う長音階(Major Scale)"do-re-mi-fa-sol-la-ti-do"を数直線にしてみよう。(*1)

全音と半音という二種類の音幅があるので、それを長さで表すと、メジャー・スケールは上のような”形”になる。

全全半全全全半という音間隔の列を直線上に見るかぎりでは、あまり気持ちのよい並びではない。(*2)

2.円環状に並べると?

より図形的に見るために、先ほどの数直線を1オクターブで一周するように閉じてみる。これはchromatic circle(半音円)と呼ばれる書き方である。


このような形になる。やはり歪だ。音階の王様であるメジャースケールが、こんなジャガイモのような形をしていて良いのだろうか。

しかし悲しむのはまだ早い。我々はこの図形に線対称を見出せる。

3. 60˚回転すれば…!**

60度左に回して、reを最頂点にしてみよう。 

現在の音楽の多くを占めるdrm…のメジャースケールは、どうやら「レ対称」のようだ。

実際、レを主音(スタート地点)としたr--m-f--s--l--t-d--(r)という音階も存在する。これはドリア旋法という名で呼ばれており、原始的でどこか懐かしい感じ曲によく使われる。(*3) 

  ・Scarborough Fair (イギリスの伝統的バラッド。サイモンとガーファンクルによるカバーが有名)・Eleanor Rigby ("Revolver"に収録されたビートルズの名曲。)の冒頭

など。

主音から、
上がっていっても「全半全全…」
下がっていっても「全半全全…」。
この対称性が、ドリア旋法の神秘的な響きに繋がっているのかもしれない。 

かつて(少なくとも16世紀ごろまで)は、長音階もドリア旋法もその他の旋法も、平等に使われていた。

その中で、非対称な「drmfslt-」が「長音階」として西洋音楽の主役に躍り出た理由に関してはいろいろな考え方がある。

想像される理由の一つは、以下のようなものだ。

長音階が音階の主役の座に躍り出たのは、バロック期のことだ。
音楽家たちは音楽を楽譜にうまく記すために、いくつかの「旋法」の中から2つ、「長調(Major)」と「短調(Minor)」を選び取ることにした。

ここで思い出して欲しい。バロック期は、さまざまな芸術分野において「動き」や「歪み」が重視された時代だ。

完全に対称な音階(rmfsltd-)よりも、アンバランスな音階(drmfslt-)の方が、動と静、緊張と弛緩のある音楽作りに役立ったのではないか。

彼らが「長調」に選んだのは、60˚傾いた「歪な真珠(barroco)」としての「drmfslt-」だった。

4. ひとまずの結論

ここまでの話をまとめれば、長音階を次のように解釈できるだろう。

  レからスタートすれば対称な音階を、ドを主音として不整形にすることで「動き」を得たスケールが、メジャースケールである。

次回予告

さて、大ざっぱではあるが一つの結論が得られたところで、このnoteは一旦閉じようと思う。しかし、まだ疑問が残る。

そもそもこの7音は12個ある音のうちどのような位置付けにあるのか。なぜ「7」なのか。

というものだ。次の記事「REflection (レの鏡) Ⅱ」ではこの問いに答えるためにレを中心にしてより深く12人の登場人物の相関図を描き出す。

おそらく60˚回転することのうまみをよりいっそう明らかにできるはずである。


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(*1)この記事では階名ドレミ…の略号を小文字ボールド体のアルファベットで表す。例えば、G-dur(G-major)の曲ではGがd(ド)であり、F#はt(ティ)である。Fis-mor(F#-minor)の曲ではF#がl(ラ)。このようにメジャーキーの主音をドに置き換えて相対的に読む方法を移動ドという。(”シ”はsitiという2通りの呼び方があるが、ここでは便宜上tiと呼ぶ。)
対して、何ヘルツの音とかそれ自体を表す絶対音名(C、ツェー、スィー…)はこの記事に出さない。移動ドが許せない人はこの記事の世界では全てがC-major, A-minorのもと語られていると思ってもらってもいい。または、そこに関しては深く追わずに何となくで読んでもらえれば良い。

(*2)ここでd--r--m-fs--l--t-dという音形が合同という意味では秩序はすでに見出せる。これはディアトニックというギリシャのテトラコルド(完全四度の4音分割)の一つを2段がさねにしたものと解釈される。この見方も重要だが、ここでは論点がずれるので脚注で述べるにとどめた。

(*3)ただし、現在使われている意味でのドリア旋法(Dorian Scale, Dorian Mode)という名前は、中世の教会旋法システムに古代ギリシャの理論をこじつけたことによるもので、残念ながら古代ギリシャのドリア地方、ドリア旋法とは関係がない。実際この旋法は古代ギリシャではプリギュアと別の名前で呼ばれていたし、ドリアはまた別の旋法を指していた。ウィキペディア「ドリア旋法」に詳しい。

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