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開発者体験ブランド力が高い企業に迫る! | メルカリが考える開発者体験と技術広報

皆様こんにちは。日本CTO協会 コンテンツチームです。
この度、日本CTO協会として新たな企画がスタートすることとなりました。

開発者体験ブランド力が高い企業に迫る!」は、日本CTO協会が2022年より実施・発表を行なっている「開発者体験ブランド力調査」のランキング入賞企業に日本CTO協会がインタビューを行い、記事化したものです。

2022年の結果はこちら
2023年の結果はこちら

本コンテンツでは各企業の

  • 技術広報チームの目的とそれに対してのKPIの考え方、読んだ方に向けてヒント

  • 開発者体験向上に向けた技術広報の取り組み

  • 開発者体験とは

について記載されています。


開発者体験ブランド力調査とは

【開発者体験ブランド力調査のコンセプト】

「開発者体験発信採用広報活動の指標・羅針盤をつくる。」

・認知度コンテストにならないこと
実際のソフトウェア開発者が所属するエンジニアの技術的な発信などを通じて、開発者体験がよいイメージをもったことを起点とする。

・日本CTO協会の会員企業への恣意的調査にならないこと
採用サービス複数社からメールマガジンなどで回答者を募り、当協会から直接関係者に回答を募らないこと。

・技術広報活動の指針となる詳細を持つこと
職種や年収層、チャネルの効果や具体的な印象などを調査に盛り込むことで、ランキングだけではわからない影響を知れるようにすること。

レポートについては、日本CTO協会の法人企業にのみ公開を行っております。

本コンテンツは2023年より日本CTO協会内で企画されたため、2023年の開発者体験ブランド力調査ランキング入賞企業の順位が高い順にお声がけし、コンテンツ化を行なっております。

記念すべき1回目の本記事には、2023年度の「開発者体験ブランド力調査」のランキング1位である『株式会社メルカリ』のTech PRチームにお話を伺いました!

※本記事の内容は、全て取材時のものです。

株式会社メルカリについて

株式会社メルカリは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」のグループミッションのもと、CtoCマーケットプレイス「メルカリ」と、BtoCマーケットプレイス「メルカリShops」によって構成されるMarketplace事業、「メルペイ」を中心に、paymentサービスやcreditサービス、暗号資産を用いた資産運用サービスを提供するFintech事業、米国におけるCtoCマーケットプレイス「Mercari」を提供するUS事業等を主に展開しています。メルカリグループは、テクノロジーの力で世界中の人々をつなぎ、あらゆる人の可能性が発揮される世界を実現していきます。

メルカリの開発者体験・技術広報を担っているEngineering Officeとは?

メルカリではエンジニアリング組織の組織課題解決に取り組む部門として「Engineering Office」が設けられています。
今回お話をお伺いしたのは、Engineering Officeの中でも戦略や技術広報を担っているMarketplace Engineering Officeの上野さんと塩飽(しわく)さんです。

株式会社メルカリ Marketplace Engineering Office Manager 上野 友義 氏(以下、上野氏)

2019年9月にメルカリ入社。メルカリに入社する前はSIerの全社横断技術組織に所属して新技術の調査+案件適用、全社開発基盤の整備などに従事。メルカリではEngieering Officeマネージャーとしてエンジニアが最大限力を発揮できる環境になるような仕組みづくりに携わっている。

株式会社メルカリ Marketplace Engineering Office 塩飽 泰啓 氏(以下、塩飽氏)

新卒で越境EC事業の立ち上げに関わったのち、音楽SNSのマーケティングに従事。その後、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会でのアーチェリー競技運営を経て、2021年12月にメルカリ入社。Marketplace事業 Engineering OfficeのTech PR(技術広報)担当として、エンジニア向けの情報発信やイベント企画・運営のほか、エンジニアリング組織戦略の策定にも携わっている。

ーお二人が所属する「Engineering Office」について、教えてください。

塩飽氏:
Engineering Officeはプロダクト開発以外の部分で、組織開発、組織課題を解決して横断的に対応していく部門です。担っている領域は広く、技術広報、インターナルコミュニケーション、ナレッジマネジメント、文化醸成など、多岐にわたります。
その中でも、僕と上野はMarketplace事業のEngineering Strategyというチームで組織戦略の設計などをメイン業務としています。さらに、僕は技術広報も担当しています。

上野氏:
Engineering Divisionの中には、大きく分けてプロダクト開発をメインとするチームとプラットフォーム開発をメインとするチームがあり、それと並列して我々の所属するEngineering Officeがあります。Engineering OfficeはEngineering Division全体の戦略面や技術広報、エンジニアのエンゲージメント向上などを担当するという位置づけです。
メルカリ Engineering Officeの詳細

ーグループ会社も含めて塩飽さんたちのチームが担っているのでしょうか?

塩飽氏:
Japan Region(日本事業)においてはメルカリとメルペイにEngineering Officeがあります。大まかな機能としては同じですが、会社のフェーズが異なるので担当している領域の違いもあります。

上野氏:
共通化できる部分もあるので、そこについては各社の担当と連携しながら行っているイメージです。

ーEngineering Officeのミッションを教えてください。

塩飽氏:
Establish a Resilient Engineering Organization」をミッションに掲げています。
レジリエントな組織というのは、「あらゆる状況に柔軟に対応できる」「フレキシブルな」と捉えていただくとよいかもしれません。

組織がどんどん大きくなっていくと、組織内部の文化や構造も変わっていきます。「変わる」というのは常に大きなインパクトを与えるわけですが、それをできるだけ最小化したり、その時々にフィットした形に最適化していくための柔軟性を持てる仕組みを作ろうという意味ですね。

上野氏:
メルカリは、この規模まで成長した今でも、変化がすごく大きい会社なんです。それはプロダクトも組織も同じです。
いかなる状況においても、常にフレキシブルに、最善のエンジニアリングの力を発揮できるような組織を作っていこうという気持ちをミッションに込めています。

ー最善を目指すためにも、柔軟性を大事にされているのですね。

メルカリが定義する開発者体験(Developer eXperience)

ー開発者体験(Developer eXperience)についてもお伺いしたいのですが、メルカリ社では開発者体験をどう定義していますか?

塩飽氏:
まず、メルカリエンジニアリングサイトにも記載していますが「メルカリのエンジニアリング組織は、メンバーが相互に学び合い、成長できる組織を目指しています。」というのが、エンジニアリング組織のビジョンの一つです。

Group CTOの若狭のプレゼンテーションでも開発者体験については語ってくれていましたが、前提としてあくまで会社のミッション達成が目的です。卓越したエンジニアリングによって価値を創出する体験が、最終的には開発者体験になる。その結果、エンジニアリングが事業成長にリンクして、事業が目標達成したことに対して誇りを持てること。これが良い開発者体験の根幹になると考えています。

一方で、開発者体験は従業員体験にも内包されていると考えています。
メルカリではEmployee Journey Story for engineersというものを作っていて、エンジニアがメルカリで働く際の各タッチポイントに対して必要なサポートを提供できるようにしています。

例えば技術広報であれば、積極的にアウトプットできる機会がある、情報発信しようと思ったときに必要なプロセスなどにすぐにアクセスできる、自分がやりたいコミュニティ活動に対してサポートが充実している、といった環境をつくりだすことなどがあります。

ただ、明確に「開発者体験の定義」として共通言語化できているかと問われると、メルカリでもまだ言語化はできてない状態です。開発者体験をどう定義して、どう測っていくのかは、メルカリのエンジニアリング組織として考えるべき領域だと認識していますね。

歴代CTOたちによって脈々と受け継がれてきた情報発信の文化が、今のメルカリの土台になっている

ーメルカリというと技術広報に対して力を入れているイメージがあります。改めてメルカリの技術広報とは何でしょうか?

塩飽氏:
メルカリでは「発信そのものが業界に対する還元につながる」という思想のもと、エンジニアの皆さんが各自で活動しているという状態です。元々どこかのコミュニティに所属していた方もいれば、メルカリ入社後に周りのエンジニアに触発されて「自分もやりたい」となる方も多いですね。

では、「この文化がどうやって根付いてきたか?」という話になると、歴代CTOの方々が「情報発信は業界に対する貢献です」と明確に打ち立てて、それが脈々と続いてきているということに尽きます。

ー素敵なお話ですね。エンジニア全員にその文化を浸透させていくために、何かやっていますか?

上野氏:
仕組みももちろん大事ですが、やはり過去からの積み重ねがすごく大きいと思いますね。私たちからも「情報発信は大事」と伝えてはいますが、培われてきたものがメルカリにはあるなと私自身も感じています。

塩飽氏:
入社してくれるエンジニアさんも過去のブログをよく読んでくれている方が多く、入社後にEMやチームメンバーと相談して書いてみたり、逆に書くことを勧めてもらって執筆される方は多いです。技術広報からエンカレッジしなくても、エンジニアが自発的に書いてくれる土台があるんですよね。

もちろん、入社した方へのオンボーディングでしっかりお伝えしたり、コミュニティとつながりのある社内メンバーと頻繁にコミュニケーションをとりにいったり……という細かなことは日々やっています。

あと、元々僕がマーケター出身なこともあって、自分が書いたブログの反響を誰でも確認できるようにダッシュボードを作りました。

参照:数字で振り返るMercari Engineering Blogの1年間 | メルカリ

塩飽氏:
技術広報としては数値的な効果測定として活用していますが、それを誰でも見れるように社内公開しておくことで、技術広報に対する認識も上がってきたように感じています。
数値以外にも、シリーズ化は人気がある、過去にこういった記事が読まれていたといったインサイトを提供できるようになったことで、エンジニアが発信したいと思う仕組みとしても役立てたのかなと思います。

ー技術広報としては目標本数・PVのような指標も持っていますか?

塩飽氏:
達成目標ではなくヘルスチェック的な意味で数値をとっています。今やっていることが機能しているのかをチェックするためにいくつかの指標を設定して、一定レベルを下回らないかを見ています。

ーPVを意識しすぎると、バズりやすいものや燃えやすいものに意識がいってしまう可能性もあると思うのですが、そこに対して対策はされていますか?

塩飽氏:
あからさまに燃えやすいものは、技術広報から「こういうふうに書いたほうがいいですよ」とお伝えしています。
逆に、ニッチなテーマの記事に対しては、流入を少しでも増やすような施策も行います。PVはそこまで多くなかったとしても、こんな人がリツイートしてくれた、こんなコメントをしてくれたといった定性データから、「ターゲットには届いている」というファクトはわかりますよね。

そもそも技術広報からは、PV目的ではなく、本当に役に立つ記事を作りましょうとお願いしています。

できるだけ誠実に、自分たちが達成したことややったことを、ファクトベースで発信する。悪いこともふくめて、真実を伝えるというのは、メルカリが一番大事にしている部分だと思います。

本当の意味の「グローバルテックカンパニー」とは?メルカリが今、技術広報の課題と感じていること

ー今、メルカリが技術広報の観点で直面している課題はありますか?

塩飽氏:
会社としては、日本だけでなく、世界中のエンジニアに対してアプローチできている状態を目指しています。
その視点で考えると、日本や拠点を構えているエリア、プロダクトをリリースしているエリアではある程度の認知を獲得できていますが、それ以外の国のエンジニアに対してはほぼアプローチできていません。それでは、本当の意味で「日本のテックカンパニー」「グローバルテックカンパニー」になれていないと考えているので、そこをどうしていくかが一番の課題です。

ー日本とグローバルで違いはあるのでしょうか?

塩飽氏:
技術広報として”やること”は変わらないと思っています。
ただ、「メルカリ」というサービスを展開していない国も多いので、そういったエリアのエンジニアに興味を持ってもらうためにどうすればいいか?は、本当に難しいですよね。
海外のカンファレンスのスポンサーなどを愚直にやっていくことになるのかなと思っています。

ー最後に、メルカリの技術広報として大事にしていることを教えてください。

塩飽氏:
多様性は大事にしたいです。
国内フリマアプリ事業のエンジニアリング組織に所属するメンバーの53.8%が外国籍で、日本人であっても異なるバックグラウンドを持った人がたくさんいます。
多様性をいかにうまく取り込んで、自分たちの発信力も伸ばしていけるかを考えたいですね。
僕たちだけでは発信自体はできないので、やはり社内のエンジニアたちとのコミュニケーションを密にとっていきたいと思っています。
そう考えると、内部のメンバーへの働きかけへの想いが強いかもしれませんね。

上野氏:
今日あらためて、「メルカリが時間をかけて培ってきた文化が素晴らしいことなんだ」と思いました。この文化をより良くしていくためにも、エンジニアが情報発信する楽しさや情報発信する意義を見いだせる仕組みづくりをしていくのが大事だと考えています。
これはメルカリだけではなく、どの会社にとっても重要ですよね。
私はグループミッションの「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」という言葉が好きなのですが、これはプロダクトだけでなく技術広報でも同じことが言えると思っています。
テクノロジーの知識やエンジニアリング組織を良くするためのナレッジなど、あらゆるものを循環させて、テック業界の発展につなげていきたいですね。