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両手を広げて迎え入れてよ…

玄関の話。

年末年始、私はがっつり帰省した。
仕事を納めた翌日から、仕事を初める前日まで。9日間。

年末の大掃除。
やらなきゃ、やらなきゃとは思っていた。
思っていた。
きっと共感してくれる人はいると思う。
やらなきゃと思っていても、手が進まないことは、ある。
大掃除は、帰省する日まで先延ばしにされていた。

帰省する日、私は友達とご飯を食べる約束をしていた。大掃除にかけられる時間はほんの数時間しかない。
お風呂のカビ、キッチンにこびりついた油汚れ、床のほこり…退治するものはたくさんあった。あ、そういえば、布団干したい、バスマットも洗濯したい。

おわらない。
数時間で、家中の掃除は、いくら一人暮らしの部屋でも、おわらない。

でも、玄関だけは、きれいにしよう。
玄関は、運の入ってくるところだから。

いつも出しっぱなしの靴は、全部げたばこに入れた。
傘立てがないために床に倒れたままの傘は、上手く立てかけた (たぶん、また倒れるけど)。
砂埃に汚れた玄関の床は、丁寧に拭いた。

よし、きれいだ!
これで、きっと、いい運を迎え入れられる!
満足して、私は実家に帰った。

***

そして、年末年始休みも最終日。
私は、一人暮らしの家に帰ってきた。

玄関を開けると、

がらん

からっぽだ。


するんとした、ベージュの玄関の床。
他人行儀だ。

私の部屋なのに、受け入れてもらえていない気がした。

きれいな玄関は、運は迎え入れても、私は迎え入れてはくれないようだった。
私の部屋なのに。

実家のある神奈川から一人暮らしをしている静岡の電車の中、ずっと、誰かがいる空間からひとりの空間に帰ってくるさびしさを抱えていたのに。
玄関くらい、迎え入れてくれてもいいじゃない。
誰もいないんだから。
両手を広げて迎え入れてよ…。

***

私はさびしがり屋だ。
一人暮らしをして、初めて知った。


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