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デザートは戦い

私は小食である。
お店でご飯を食べるとき、メニューに小やミニと付くサイズがあれば、それを頼む。
定食などであれば、ご飯は少なめにしてもらう。

「少ない量でお腹が満たされるなら、安上がりでいいじゃない。痩せるし」
と言われることもあるけれど、ちっともよくないと思う。

***

友達とパンケーキを食べに行ったときのこと。

待ち合わせは13時。
友達はスカッシュをしてから、来るという。
私は運動がからきしで、スカッシュというスポーツを知らなかったけれど、テニスのようなことを壁に向かってやるものなんだとか。きっとすごいスピード感のあるスポーツなのだろう。こわい。

待ち合わせの駅でスマホの画面を見ながら待っていると、
「わっ」
と、友達が驚かせてきた。
可愛い。
友達は、小鹿みたいな目をしていて、ふわふわのロングヘアで、花柄のワンピースの似合う可愛い子なのだけれど、やることも可愛い。

目的のお店は、卵にこだわりのあるところで、オムライスやパンケーキが有名らしい。
ずっと前から、いつか行こうねと話をしていた。
冷たい風に凍えながら、駅から徒歩3分ほどのお店に行ったところ、なんと2時間待ちだった…!

体を動かした後の、友達。
朝から、まだレーズンパンとチョコしか食べていない、私。
今は、もう13時。
2時間も、待てない。

自然と、どこかでランチを済ませて、このお店にはデザートにパンケーキを食べにこよう、という流れになった。

選んだのは、定食屋さん。
大戸屋をおしゃれなカフェ風にした感じの、定食屋さん。

私は唐揚げ定食を食べた。
鶏肉がきちんと甘くて、大根おろしもレモン塩もタルタルソースもよく合った。
ご飯も進んだ。

友達とおしゃべりをしながら食べるランチ。
たのしい、おいしい、たのしい、おいしい。
気づいたら、食べ終わっていた。

満足、満足…ではない。
しまった。
あと30分したら、パンケーキなのに、満たされてしまった。

***

充実感のあるお腹を抱えて、再び凍えながらお店へ向かった。

食べきれるかな。厳しいかな。
と、友達と話しながらも、一人ひとつのパンケーキをしっかり注文してしまった。

シェアすることも考えていたが、お店に入ってみたら、ひとりで1個食べてみたくなってしまった。
だって、みんな、ふわふわのパンケーキを切り崩して、幸せそうな顔をしているんだもの。
私だって、パンケーキ独り占めしたい。

「お待たせしました」
頼んだのは、ブリュレパンケーキ。
カスタードクリームたっぷりの生地。てっぺんにはキャラメリゼしたお砂糖がこんがり。

SNSにあげるわけではないけれど、写真と動画を撮った。
後で見返して、にやにやするんだ。

ナイフを入れると、キャラメリゼがパリッと崩れる。
もったいなくて思わずその手を止めてしまいそうになるけれど、めげずにナイフを切り込んでいく。
ふわふわだ。
これは、絶対に美味しい。

口に入れると、幸せに甘い。
友達と顔を合わせて頷き合う。
おいしいね。
うん、おいしいね。

あー幸せ。
思ったのも束の間。
お腹いっぱいだ…。

見事に手が進まない。
お皿の上にはまだ、2/3ほど残っている。
見栄えよく2段に重なっていたパンケーキが恨めしい。

なぜ、から揚げ定食を食べてから来てしまったのか。
後悔が押し寄せてくる。
とりあえず、パンケーキを細かく切っていく。
休憩。
水を飲む。
おいしいのになぁ。甘くてふわふわで幸せなのになぁ。
つらい。

友達も、少し苦しそうだ。
でも、
「まだおいしく食べられる」
と笑顔で言ってのけた。
さすがだ。

この可愛い友達は、カレー屋で顔以上ある大きさのナンをおかわりするくらい、よく食べる子なのだ。
私はそのとき、確かナンを残した。
残すのは嫌だけれど、お腹いっぱいは苦しくて、つらい。
普通の人の一人前すら食べられない小さな胃が嫌になる。

そんな私にとって、デザートは戦いだ。
デザートというものは、大抵、ご飯の後にやってくる。
小さな胃のわずかな容量がご飯で満たされたころに、登場なさる。
甘いものは大好物なのに、空腹という最強のエッセンスを加えることもできず、むしろ、満腹という最悪のコンディションで食べなくてはいけなくなる。
素敵な見た目にテンション上がって生まれる別腹ですら、最初の一口二口で埋まってしまう。

悔しい。
もっとおいしく食べられるはずなのに。
目の前の甘ったるいとさえ思えてしまう物体をもそもそと口に含むので、精いっぱいだ。
なんとか食べ終わっても、食べ終わったという事実しか、残らない。
おいしさだとかは、とっくに分からなくなっている。
あぁ、胃を大きくしたい。

***

パンケーキは、結局最後の2切れを友達に食べてもらってしまった。

ご飯の後のパンケーキだって、おいしくぺろりと平らげたい。
まだ物足りないなぁと、空のお皿をみてみたい。

小食なんて、日々のご飯代が少し安く済むくらいだ。
大食いで、おいしいものを、たらふく食べられるほうがよっぽどいいと思う。

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