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春よ、こい

布を買った。
縦に長い布。手ぬぐいのような。

店頭では、包装の都合上、その布を広げることはできなくて、折りたたまれた状態しか見れなかったけれど、これは春みたいだ、と思った。
水色と、ピンクが印象的だった。
まだ冬だけれど、私の部屋に春を迎え入れよう、と思った。

帰宅するなり、いそいそと布を取り出して、キッチンの窓に突っ張り棒で、垂らしてみた。
今までは、柚子のような黄色いまると、葉っぱのような紺の紡錘形が並んだ布を垂らしていた。
その布はその布で、お気に入りである。

でも、
黄色と紺が、水色とピンクになった。
それだけで、部屋が軽くなった。

***

さらに、次の日の朝。
布を見て、ハッとした。
春だ。


まだ日の昇りきらない冬の朝。
薄暗いキッチン。
わずかな明るさにピンクが発光しているみたいだった。

薄いピンクと濃いピンク。
大と小。
流れるような空色の上に、リズミカルに咲いていた。

少し浮いた気持ちで、朝ごはんの準備をした。
布を変えた。ささやかなことだけれど、気持ちがよかった。

これからは、日々の暮らしの中に、季節を感じられるものを取り入れて過ごしていこう。
風通しのいい部屋にしよう。
そう思いながら、インスタントの味噌汁にお湯を注いだ。
食にも季節感がほしいものだなぁ。

***

食卓には、まだ分厚いこたつ布団がかかっている。
軽くなったキッチンとは対照的だ。
この部屋も早く軽くしたい。
重量感のあるこたつ布団とじゅうたんをとっぱらって、さらりとしたい。

あぁ、早く春が来ないかな。
待ち遠しいな。

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