【閲覧注意】トイレの花子さんと行くダンジョン配信珍道中 #12 いきなりのコラボ配信

 あまりの出来事に言葉を口に出来ずにいると、八尺様の方が先に口を開く。

「ぽぽぽ?」

 何を言っているのか、俺にはわからない。しかし、花子さんは別であったようだ。八尺様に答えるように、会話を始めた。

「あ、そうそう。今、始めたとこ~」
「ぽ、ぽぽぽ」
「あ、前回の配信、アーカイブで見てくれたんだ。知り合いに見られるのは、ちょっと恥ずかしいな」
「ぽぽぽ?」
「その部分は忘れてよ! あたしにとってはマジで黒歴史なんだから!」

 どうやら花子さんには、八尺様が何と言っているのかわかるらしい。花子さんの方の反応を見れば、今の会話がどういったものかは、大体想像が付くが。

 それにしても、こうして生で見ると、ますます美人だ。腰まで伸びた長い黒髪はさらさらで、美容室帰りかと思うほど。その間から覗く顔も、各パーツの配置が絶妙で、美人度合いで言えば花子さんよりも上だろう。ワンピースの上からでも見て取れる、豊満な胸とくびれた腰、そして張りのあるお尻も大変見事。まさに美の化身と呼ぶに相応しい。

 と、俺が八尺様に見惚れていると、八尺様が何かに気付いたように、俺の視線の高さを合わせた。そしてスマホを押し退け、俺の目を覗き込むように、徐々に顔を近づけて来る。

「……えっと、何でしょう?」
「ぽぽ、ぽぽぽ」

 随分真剣な眼差しだが、一体何と言っているのだろうか。助けを求めて花子さんに視線を送ると、彼女は何だか感心した様子でいる。

「小さな子どもにしか興味なかった八尺様ちゃんが、この歳の男に興味持つなんて。やっぱり、こいつは特別ってことかな」
「……花子さん、それってどういう――」
「ああ、あんたは気にしなくていいわよ。事実を知ったからって、別にあんたがどうこう出来る訳じゃないし」

 意味深な言葉。どうやら花子さんは、この場でことの真相を話すつもりはないようだ。

「あ、ねぇ、八尺様ちゃん。八尺様ちゃんさえよかったら、一緒にダンジョン配信しない? えっと、コラボ? って言うんだっけ?」
「はぁ!? え!? 何それ!?」

 俺が驚きのあまりあたふたしている間に、八尺様は何やら考え込むしぐさを見せ、そしてコクリと頷く。

「え!? いいの!?」

 怪異とは言え、花子さんに情報によれば、相手はインフルエンサー。影響力が大きいので、不用意に弱小配信者とコラボなどするなど、普通なら考えられない。にもかかわらず、八尺様は首を縦に振った。先ほど俺のことを真剣に見詰めていたことと、何か関係があるのだろうか。

「ぽ」

 そう言って、八尺様が俺に向って手を伸ばした。何事かと思って首をかしげていると、花子さんが通訳してくれる。

「荷物の貸せって」
「……荷物?」
「持ってくれるってことじゃない?」
「え、でも……」

 いくら俺より高身長であっても、相手は女性。そんなに軽いものでもないし、荷物を持たせるのには抵抗がある。

「大丈夫よ。八尺様ちゃんは、あんたよりずっと力が強いから」
「ぽ」

 「そうだ」とでも言っているのか。とにかく、この状況で譲るという選択肢は、向こうにはないようだ。であれば、ここは相手の厚意に甘えてしまうのがいいだろう。

「それじゃあ、お願いします」
「ぽぽ」

 鞄を受け取ると、八尺様はひょいと鞄を背負い、満足気に笑った。

 こうして、流されるがまま、八尺様とのコラボ配信が成立。コメント欄はお祭り騒ぎだ。どうやら、俺よりも視聴者の方々の方が、インフルエンサーとしての八尺様に詳しいらしい。

『あの八尺様が!?』
『八尺姫ktkr!』
『トイレの花子さんと八尺様の競演など、今までに誰が考えただろうか』
『それよりもさっきの八尺様のチャンネル主との距離は何だ!?』

「そ、それじゃあ改めまして。この度、急遽コラボ配信と相成りました『トイレの花子さんと行くダンジョン配信珍道中』。ゲストはこの方、八尺様で~す」

 八尺様の方にカメラを向けると、彼女はお淑やかそうにひらひらと右手を振って見せた。そして一言。

「ぽぽ、ぽぽ。ぽぽぽ。ぽぽぽぽ」

 やはり何と言っているのかはわからない。こんな時こそ、我等が花子さんの出番である。

「花子さん、通訳お願い!」
「みなさん、こんにちは。八尺です。今日はよろしくお願いします。だって」

 思っていた以上に丁寧な口調だった。花子さんが基準だったので、感覚が麻痺していたのかも知れない。

「ぽぽぽ、ぽぽぽぽぽ?」
「私のイヌスタアカウントに、この配信のリンク張っていいですか? だって」
「え、いいんですか?」

 やってくれると言うのなら、ありがたいことこの上ないというもの。インフルエンサーの持つ圧倒的フォロワーを一部でも動員出来れば、このチャンネルの認知度は一気に跳ね上がること間違いなし。チャンネルが有名になれば、花子さんの目的である、怪異としての認知度を取り戻す――人気にんきなることが達成出来る。

「ぽぽぽ、ぽぽぽ」
「私に出来るのは、これくらいですから。って」
「そういうことなら、ありがたくご厚意に甘えさせていただきます」

 俺がそう言うと、八尺様は笑顔でスマホを操作し始め、恐ろしいほどの高速で文字を入力し始めた。その速さたるや、指先がかすんで見えなくなるほどである。

「ぽ」
「出来ました。って」

 花子さんが通訳するが早いか。視聴者数が1人増え、10人増え、100人増え。あっという間に1000を軽く超える視聴者が増員された。視聴者の増加は留まるところを知らない。こうしている今も、ものすごい勢いで増加し続けている。これがインフルエンサーの力というものか。

「そ、それじゃあ、改めて。ダンジョン攻略を再開しよう」
「そうね」
「ぽ」

 こうして、パーティーメンバーを増やした俺達は、いよいよダンジョンに挑む。八尺様がどうしてその気になったのか気になるところではあるが、今は配信を止めないことが第一。こうして繋がっていれば、いつか聞く機会もあるだろう。そんな軽い気持ちのまま、俺は二人の背中を追って、カメラを回し続けた。

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